俳句庵

季題 1月「繭玉」

  • 繭玉の揺るる病室明日退院
  • 神奈川県     塚本 治彦 様
  • 繭玉に笑顔の義姉やケアハウス
  • 徳島県     白井 百合子 様
  • 繭玉や賑はひ戻る商店街
  • 愛知県     新美 達夫 様
  • 繭玉のしばし揺れゐる夜の地震
  • 東京都     笹木 弘 様
選者詠
  • 繭玉のしだれ豊かに揃ひけり
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 令和二年一月の題は「繭玉」です。私の所属している「春燈」の新年大会では、毎年、会場の正面にこの繭玉が飾られています。如何にも初春の悦びを祝うに相応しい景です。繭玉は、農村地方で繭の豊かに出来ることを祈願して始められた風習です。皆さん方の句には、繭玉の多彩な有り様が表現されていて、一句一句をゆっくりと拝読させて頂きました。皆さんの今年のご健吟を願っています。
 優秀賞の塚本治彦さんの句。一読現況の解る句です。「明日退院」に喜びが溢れています。この病室は個室でなく何人かの病床のある部屋でしょうか。一隅に飾られた小振りの繭玉が、見舞の人の出入りに揺れているのも、風情があります。同室の皆さんの祝意も感じられて来るようです。繭玉と病室の取合せが、一句によく納まっています。
 白井百合子さんの句。まさに現代俳句です。「ケアハウス」は、介護利用型老人ホーム。三十一年前に創設されました。その施設の入口に、繭玉が飾ってあるのでしょう。見舞に訪れた作者に、笑顔で応える義姉。傍らの繭玉も笑むかに枝垂れています。「ケアハウス」が、明るく写ります。
 新美達夫さんの句。「賑はひ戻る」にほっとします。大型スーパーマーケットが出来て、客の出入りが遠のいていた商店街と思われます。しかし何らかの切っ掛けで再び客足が戻って来たのです。「賑はひ戻る商店街」が、「繭玉」とよく調和しています。作者の喜びも感じられます。
 笹木弘さんの句。この「地震」は「なゐ」と読みます。「夜の地震」は最近良く感じることです。もとより夜だけでなく昼間の地震も多く発生します。その地震に目が覚めて居間に入ると、挿してある繭玉が揺れているのです。目出度い繭玉の揺れに、幽かに湧く不安感が良く出ています。
 今月の佳句。〈主なき部屋に繭玉息づけり 津田明美〉。〈とりどりの繭玉の色温かし 玉井令子〉。〈差しかはす繭玉の揺れ音もなし 木下澄枝〉。〈餅花の揺るる幸せ呼ぶ如く 林とみ代〉。それぞれ内容のある句です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。