俳句庵

季題 3月「三月」

  • さよならと書く三月の黒板に
  • 愛媛県     砂山 恵子 様
  • 地震の地へ桜前線届けよ三月
  • 長野県     木原 登 様
  • 三月や船出見送る海鷗
  • 愛媛県     佐藤 めぐみ 様
  • 三月やハローワークに長き列
  • 神奈川県     塚本 治彦 様
選者詠
  • 三月や齢ひとつを身にかさね
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の題は「三月」。三月は季節で書くと仲春です。三月と聞くと「卒業」を思い、「入学試験」を思い出す人が多いでしょう。一面、三月には雛祭があり、彼岸があります。総体的に、三月という季語には若さがあります。若さに別れは付き物です。その別れを乗り越えて、人はみな大人に成長するのです。皆さんの「三月」の句には、色いろな「三月」がありました。
 優秀賞の砂山恵子さんの句。作者は教職に在ったのでしょうか。卒業式の日、生徒たちは卒業証書を手に教室に戻り、担任の先生と別れを交わします。生徒たちは黒板に作者の書く「さようなら」の字を見つめています。作者はその生徒たちの純粋な視線を背に感じながら、生徒たちの未来に希望を託するかに、丁寧に白墨を動かすのです。
 木原登さんの句。「地震」は「ない、なゐ」。「地震の地」はこの句の場合は、九年前の東日本大震災を指すのでしょう。大勢の死者・行方不明者を出した大震災でした。復興未だ成らず、プレハブの仮設舎に住む人も多いです。その「地震の地へ桜前線届けよ」は切実なこころからの見舞です。
 佐藤めぐみさんの句。「船出」にも、様々な情景があります。沖合に浮かぶ島とを結ぶ渡し船から、外国への観光旅客船まで用途は広いです。この句の「船出」は後者でしょう。大勢の見送りの人の一群に、多分埠頭の一部でしょう、そこに止まる「海鷗」を配したのが見事に納まっています。
 塚本治彦さんの句。場面は一転日常の生活となります。「ハローワーク」は「公共職業安定所」。三月は年度替りの時期です。新しい職を求めて安定所を訪れる人も多いです。「ハローワークに長き列」が、そのことを良く表現しています。現代人の生活の一場面と言えます。
 今月の佳句。〈闇匂ふ三月の坂登るとき 勢田清〉。〈三月や翔び立つ吾子の晴れ姿 玉井令子〉。〈三月や父の忌と我が誕生日 西山勝男〉。〈三月や心に浮かぶ逝きし夫 玉田千代美〉。夫々の三月が活きています。

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