俳句庵

季題 5月「初夏」

  • 初夏や白き卓布の朝の膳
  • 神奈川県     原川 篤子 様
  • 初夏の風心地よき太極拳
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 床あげや諸手に初夏の気を抱き
  • 神奈川県     志保川 有 様
  • 初夏の窓開け放つ理髪店
  • 兵庫県     岸下 庄二 様
選者詠
  • 水声の夜も初夏の風さそふ
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 五月の題は「初夏」。文字通り夏の初めの頃です。季節を同じくする題に、立夏、夏浅し、夏めく、五月などの季語があります。その何れも、夏初めの季節の姿を簡潔に捉えています。歳時記を開くと、それぞれの季語に相応しい句が並んでいて、頷きながら例句に見入るばかりです。皆さん方の句にも佳句が多いでした。的確な題のもと、句作に耽る間、新型コロナウィルス病も、暫し忘れます。
 優秀賞の原川篤子さんの句。「初夏」の季語に、「白き卓布の朝の膳」がみごとに調和しています。上五の「や」の切字も効果的です。テーブルクロスの彩りの多様さの中で、「白き卓布」が清潔感を出しています。言葉の使い方は、俳句の表現の基本です。この句にその一例を見ます。
 井出浩堂さんの句。「太極拳」を辞書は、「陰陽変化の理に則ったもの、ゆるやかに円を描く動作が主」と記しています。中国拳法の一種です。この解説を見ていると、何となく「初夏」の季節がふさわしく感じられて来ます。それを作者は「風心地よき」と表現しています。「ゆるやかに円を描く動作」に相応しい表現です。
 志保川有さんの句。「床あげ」は、「長い病気が全快して、今まで寝ていた寝床を片付けること、またその祝い」を指す言葉です。「諸手に初夏の気を抱き」に、快癒の思いが善く出ています。「諸手」は「両手」のことですが、この場合、「諸手」の方が的確です。「初夏の気」も同様です。今後の益々のご健勝を祈念します。
 岸下庄二さんの句。夏が来ると、冷房を入れる迄は、大方の理髪店は窓を開けています。この句には、そういう慣例に重ねて、新型コロナウィルスへの対応という意味も感じられます。巷に溢れる疫病については触れていませんが、一読そういう思いを感じます。俳句にはそういう多面性もあります。
 今月の佳句。<初夏や棟上げ急ぐ槌の音 守田修治>。<初夏の港になびく大漁旗 上田秋霜>。<校舎より「乙女の祈り」初夏の風 坪田正温>。<鳥獣の声にふくらむ初夏の森 名木田純子>。夫々趣のある句です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。