俳句庵

季題 7月「炎昼」

  • 炎昼やつきくる影のくつきりと
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 炎昼や鉄路の美しき錆のいろ
  • 富山県     加能 雅臣 様
  • 座る人なき炎昼のベンチかな
  • 東京県     岩川 容子 様
  • 炎昼の自販機の音弾みをり
  • 千葉県     山田 香津子 様
選者詠
  • 炎昼のどの家も音を畏るかに
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 七月の題は「炎昼」。傍題は「夏真昼」です。梅雨が明けると盛夏となります。炎昼の毎日が続きます。しかし「炎昼」とは善い題名です。その「炎昼」を如何に生かすか、それが皆さんのかねての精進の結果として現れています。今月の応募作品の数は、これ迄で最高でした。多様な句を鑑賞致しましょう。
 優秀賞の井手浩堂さんの句。「つきくる影」は自らの影です。その影は太陽の位置により、前に来たり後に来たりしますが、下五の「くつきりと」が、「影」に活力を与えています。焼け付く暑さの中、その暑さを一とき忘れるような巧みな表現の句です。
 加能雅臣さんの句。「鉄路」は鉄道の軌条です。そのレールは表面に錆が出ています。その錆の出たレールを、「鉄路の美しき錆のいろ」と表現してあるのが、如何にも炎昼に相応しいです。「美」の受取り方には多様性があります。この句にその一例を見ます。
 岩川容子さんの句。公園での嘱目でしょうか。初夏の頃は、老若男女あらゆる人に占められていた「ベンチ」。作者もそのお一人だったかも知れません。それが連日の猛暑の中、ベンチに座っている人は見当たりません。この句、まさに日常の一景の描写です。
 山田香津子さんの句。対象は一転して「自販機」となりました。街中のあらゆる場所で見掛ける風景です。それだけ皆さんに身近な物として使われています。金貨を入れると、用途に応じた物品が出て来ます。「炎昼の」と「弾みをり」が善く相応しています。
 今月の佳句。<炎昼や保線工夫の揺らぎ見ゆ 岸下庄二>。<高々と上がるクレーンや夏真昼 砂山恵子>。<ドアマンの白き制服夏真昼 岳>。<炎昼やオルガンを踏む老教師 内藤羊皐>。どの句も佳作に相応しい内容のある作品です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。