俳句庵

9月『九月尽』全応募作品

(敬称略)

山口県     ひろ子
ひとり居の菊の手入れや日の暮れる
空き家増え昔を語る虫の声
東京都     よしだ悠
壁の裸婦隠さびしげに九月尽
ウイルスの跳梁跋扈九月尽
吹き飛ばし押し流し過ぐ九月尽
妻病みて一天くもる九月尽
寝て一畳棺も一畳九月尽
東京都     伊藤はな
眼を病めばこころ澄みゆく九月尽
九月尽食べることこそ生くること
西日射す窓あかあかと九月尽
日暮には吐息をこぼす九月尽
半年を籠もる成果や九月尽
千葉県     伊藤順女
半袖のブラウス畳む九月尽
アールデコの椅子の傷みや九月尽
神奈川県     井手浩堂
揚げ船の底板乾く九月尽
野良猫の人になつきて九月尽
欄干に鳩並びゐて九月尽
徳島県     井内胡桃
水切りの白石駆ける九月尽
何事もまずまず良しと九月尽
水切りの走る波紋や九月尽
何気なく今日の暮れ行く九月尽
貝殻の白に薄紅九月尽
東京都     右田俊郎
コロナ禍は衰え見せず九月尽
九月尽備えよコロナ第三波
九月尽ワクチン開発遅々として
九月尽政局波乱ふくみとて
減る気配見せぬコロナや九月尽
東京都     足立智美
九月尽別れの文の無きままに
つひに色変へぬ木のあり九月尽
九月尽問五は白きまま伏しぬ
九月尽錆びたホルンの音のずつと
頬を打つ病窓の風九月尽
大阪府     永田
四畳半の程よきせまさ九月尽
愛媛県     アリマノミコ
九月尽くセールの服に足を止め
朝食の固きバターや九月尽
神奈川県     志保川有
ぬる燗の剣菱を舐む九月尽
別れには「ありがたう」がよし九月尽
黒い雨いまだ降りやまず九月尽
死にそびれし黒きごきぶり九月尽
婦らの雑魚寝の部屋や九月尽
千葉県     風泉
・白樺の葉葉踏む深し九月尽
・病室の壁にビュッフェや九月尽
・九月尽一葉こずえの大欅
東京都     岡本英太郎
昨年の今日の想いや九月尽
昨年の今日にもどりて九月尽
愛媛県     加島一善
九月尽緑茶を少し濃くしたり
谷に消ゆケーナの音色九月尽
九月尽いまだに残る火傷あと
昨日よりややあせし富士九月尽
九月尽ひとつふたつと雲流れ
愛知県     加藤峰子
娘来る吉報は未だ九月尽
姉の吐くもう古希だもの九月尽
飽きもせず試作と試食九月尽
神奈川県     海野優
少し距離置いてみたくて九月尽
九月尽失せ物忘れて終ひけり
きのふしたらしき約束九月尽
栃木県     垣内孝雄
九月尽路地に転がる三輪車
九月尽幼な集へるかくれんぼ 
九月尽母は臙脂の帯締めて
九月尽遺影据ゑ置く奥座敷
藁を噛む牛の鼻息九月尽
埼玉県     釜田眞吾
樟脳の匂ひの記憶九月尽
九月尽メール見る間に陽の落ちて
九月尽いつものポン酢売切れて
九月尽棚から下ろす鬼卸し
あれやこれ終わるでもなく九月尽
東京都     韓祐志
九月尽羽織る上着はナフタリン
九月尽赤や青やの霧ヶ峰
河川敷歓声乾く九月尽
スワローズ来季やいかに九月尽
映画観て街路の風や九月尽
兵庫県     岸下庄二
来し方を少し見直す九月尽
遣り残しそのままにして九月尽
九月尽術後の経過まづまづと
九月尽父の遺訓を読み直す
同じことばかりの日記九月尽
埼玉県     岸保宏
九月尽本高く積む枕元
仏壇の水取り替えし九月尽
縄跳びに仲間が増える九月尽
兵庫県     岸野孝彦
分け入りて西行庵や九月侭
九月侭涅槃の国の夕まぐれ
いつまでもコロナは尽きぬ九月侭
山小屋の終わり近づく九月侭
九月侭地蔵掃除の人逝けり
東京都     岩崎美範
ハモニカで「故郷」を吹く九月尽
九月尽鯵の開きの旨きこと
空仰ぐ車椅子の子九月尽
この国に被災地いくつ九月尽
仰ぎ見る雲の高さや九月尽
東京都     岩川容子
ここまではとにかく無事に九月尽
ごみ箱に文殻あふれ九月尽
公演の延期は未定九月尽
公園に草刈る匂い九月尽
愛知県     岩田勇
物故者の増ゆる会報九月尽
長かりき癌闘病や九月尽
里山の池静まりて九月尽
連山の峰黒々と九月尽
やや低き川瀬の音や九月尽
神奈川県     亀山酔田
廃船に日差しの強し九月尽
九月尽里色に負けぬ鳥どり
九月尽色に紛れぬ鳥一羽
軽々と葉っぱ転がし九月尽
本棚に新しき本九月尽
茨城県     風峰
メッセージ既読にならぬ九月尽
ロト6マークに迷ふ九月尽
九月尽地球は丸く海丸く
少し影長くなりしか九月尽
決算の処理はリモート九月尽
埼玉県     いまい やすのり
地下鉄の駅に戸惑ふ九月尽
薬袋の一つ加はる九月尽
ロボットの案内うれし九月尽
疲れ来る巣ごもり日々の九月尽
九月尽灯り早まり人恋し
岐阜県     ときめき人
会えぬ父会えぬ家族や九月尽
神奈川県     立野音思
朱に染まる大寺の跡よ九月尽
瀬の音や響きさやけき九月尽
九月尽店を仕舞うや老舗蕎麦
九月尽老舗の蕎麦の店仕舞い
埼玉県     川越のしょび
私小説朱ペンを入れる九月尽
風変わる渡しの小旗九月尽
畦道の乾く匂ひや九月尽
円墳の肩なだらかに九月尽
黒板のチョークを替える九月尽
東京都     吉澤恭香
つま先に羽虫とまれる九月尽
低空の一機うなりて九月尽
九月尽二歳児泣いて泣き止まず
物言わぬやさしきナースや九月尽
内科医の問いの優しさ九月尽
千葉県     玉井令子
吹く風の頬の感触九月尽
山の端を赤く染めにし九月尽
朝散歩時間遅らす九月尽
テレワークいつまで続く九月尽
肺炎の正念場来る九月尽
新潟県     近藤博
時流れあっと言ふ間に九月尽
過ぎ去りてひとしほ惜しむ九月尽
端座して一句をたたく九月尽
葦戸外し模様替えせむ九月尽
季は移りちぢに思ふや九月尽
岐阜県     金子加行
抱へたる交渉ごとや九月尽
晩年の自覚やさらに九月尽
暮し向きため息一つ九月尽
志いささか錆びし九月尽
幾年の老老介護九月尽
神奈川県     原川篤子
降りみ降らずみの一日(ひとひ)や九月尽
日のおちて降りだす雨や九月尽
わが窓の富士近寄する九月尽
終鈴の響く校庭九月尽
九月尽旅の記憶はパソコンに
埼玉県     飛翔
九月尽いつもと同じ一と日なり
九月尽島に一と日の旅をはり
心地良き日々を忍や九月尽
九月尽水車の如くゆつくりと
昨日より暮るる速さよ九月尽
三重県     後藤允孝
Tシャツに少年の香や九月尽
人恋ふる鯉の離れぬ九月尽
風の向き教へてもらふ九月尽
スパイクの土ずれ激し九月尽
少年の声はや銹びし九月尽
愛媛県     佐藤めぐみ
コロナ禍に帰省叶わず九月尽
落としたる赤いマニュキュア九月尽
九月尽打ち明け話し言えぬまま
愛媛県     砂山恵子
九月尽土蔵のにほふ町外れ
九月尽茶房の歴史語る客
オルガンのかそけき音色九月尽
折り鶴の黄ばむ口先九月尽
葉の上に重なりし絮九月尽
兵庫県     はなちる
鈴の音の響く境内九月尽
夕陽落ち乾いた砂の九月尽
日記帳空白埋めて九月尽
おにぎりのしょっぱさ残る九月尽
東京都     勢田清
夕空の菫色濃し九月尽
トランペット聞こえる野原九月尽
日本の行く末憂い九月尽
天秤座西に傾き九月尽
故郷の山照るころや九月尽
東京都     笹木弘
静かなる硯の海や九月尽
安曇野の夜を静かに九月尽
丹田の力抜け行く九月尽
消しゴムで過去を消したき九月尽
コロナ禍に閉店告げる九月尽
香川県     みうら
九月尽亡母の部屋に茶葉五缶
東京都     三隅昌人
老蝉死すマカロンになり九月尽
ピアノの音色が錆びる九月尽
麦のつぶやき悲しくなる九月尽
星一つに骸蝉一つ九月尽
この憂き世の深さ知らず九月尽
愛媛県     山家志津代
人みな駱駝の顔して九月尽
退院はまた延びるらし九月尽
ガスの火の影ゆらめいて九月尽
ストローに残る口紅九月尽
黄昏に流砂の音や九月尽
千葉県     山田香津子
賑わいの去りし海山九月尽
赤錆の大きな錨九月尽
九月尽収束してよコロナ禍
神奈川県     山田知明
九月尽あす売りにゆくオートバイ
九月尽募金箱には寄付をして
九月尽あす売りにゆく文庫本
貝殻を拾ひ集めて九月尽
九月尽あすには返す文庫本
東京都     山本貴士
秋尽くと知るがごとくや杜の声
足早に行き交ふ辻の九月尽
窓枠もくつきりとして九月尽
針進む音大きなり九月尽
秋尽くや新しい歯の生えてゐる
山口県     山縣敏夫
秋尽くや今宵留守居の独り酒
9月尽孫の手を引きお買い物
秋尽くや酒を片手に昭和詠む
愛犬と山道歩く9月尽
今夕はどこか寂しい9月尽
島根県     寺津豪佐
駅前の花壇植替ふ九月尽
九月尽ゆっくり大きく庭を掃く
九月尽流れるプール止まりけり
九月尽深夜ラジオに歌謡曲
又三郎書架より出して九月尽
神奈川県     守安雄介
九月尽終の棲家の泥乾く
九月尽コロナ籠りの四畳半
コロナ戦先の見えぬに九月尽
金婚の新常態や九月尽
一渓を虫の埋め尽く九月尽
埼玉県     守田修治
たまたまの傘寿となりし九月尽
どしゃ降りの夕刊泣かせ九月尽
逆上がり出来ぬ少年九月尽
良寛の句碑ある岬九月尽
留守番の親子カレーや九月尽
埼玉県     小玉拙郎
旧版の辞書捨てられず九月尽
草野球今たけなわの九月尽
九月尽黄ばむ表紙の文庫本
旅の荷を入れ替えて今日九月尽
茨城県     小松崎孝志
自粛の日々あれよあれよと九月尽
筑波嶺の襞の濃くなり九月尽
水割りの氷少なめ九月尽
九月尽百面相の如き雲
九月尽こぶし効かせる我が演歌
千葉県     小泉芝雲
コロナ禍に予定狂ひし九月尽
半期決算気になる数字九月尽
人事異動噂気になる九月尽
東京都     松本佳明
心身が熱燗欲しがる九月尽
お日様と夕刊競争九月尽
九月尽後三月を思いやる
防虫剤店頭並ぶ九月尽
帰り道すでに街灯九月尽
東京都     松本征枝
コロナ禍や自粛慣れして九月尽
エアコンの壊れて果てる九月かな
逡巡す事多かりし九月尽
神奈川県     松野勉
静脈の浮き出る吾の手九月尽
北海道     風花美絵
河川敷賑わい寂し九月尽
緑沈す山惜景よ九月尽
九月尽水面の光豊かなり
九月尽水冷ややかに陽は陰り
大根葉洗う義母の背九月尽
静岡県     城内幸江
豚汁の具は大きくて九月尽
羊羹を分厚く切りて九月尽
九月尽早々消えてしまふ影
空と海あいだに光九月尽
楔打つ音軽やかに九月尽
愛知県     新美達夫
納得の抜擢人事九月尽
遺産分けすんなり済んで九月尽
長期戦の覚悟を決めて九月尽
国難と言ふも疎かや九月尽
大阪府     森 佳月
靴の石気にはなりつつ九月尽
納屋の隅鍬みな錆びて九月尽
水銀灯薄暮に白し九月尽
序の舞の女凛とし九月尽
どっぷりと浸かれぬ句作九月尽
福岡県     深町明
父母の星かうも明うて九月尽
九月尽空つぽにして乾すリュック
飛行機の点りそめたる九月尽
関門の風の強さや九月尽
九月尽友に別れを告げて駅
神奈川県     水野伸一
薄暮下りキャッチボールす九月尽
九月尽ミレの額ごと西の窓
九月尽机の上の写生帳
九月尽日射し横切る四畳半
張り替えたキャンバス残す九月尽
東京都     水野邦彦
喜びもとおに足りない九月尽
菜を並べ糠床移す九月尽
九月尽ひとつふたつは物忘れ
ささやかな楽しみかぞへ九月尽
九月尽氷をひとつ愛でてみる
三重県     西井治男
九月尽上着追加し空模様
ブラジル     西山ひろ子
笑ひ合ひ家族の夕餉九月尽
青空に大き夢描く九月尽
今といふ時を重ねて九月尽
野放図に身ままに生きて九月尽
移ろひで雲の風情や九月尽
福岡県     すがりとおる
鬱勃と癌細胞め九月尽
断捨離に出でし恋文九月尽
吊り広告やにはに赤む九月尽
缶蹴りの音のみ澄めり九月尽
まだ解かぬコロナ籠りや九月尽
埼玉県     水夢
コロナ禍や巣ごもりの日々九月尽
九月尽地軸はぶれることのなく
松の幹傾いてをり九月尽
病棟は眠りにつきし九月尽
九月尽メタセコイヤのそそり立つ
宮城県     zazi
九月尽閉ざすシャッターは開かず
九月尽ラジオはスローバラードに
九月尽無人の市民バスの行く
BBQコンロの残る九月尽
寒山に迷いて翁の九月尽
千葉県     いなだはまち
テレビから北の便りや九月尽
CMは濃いめの女優九月尽
九月尽く樟脳臭き服を干す
東京都     石井真由美
映画館に看板新し九月尽
大阪府     石原由女
夕影の少し早まる九月尽
風を聴く夕べのベンチ九月尽
九月尽八坂の塔の翳りゐて
街角に彩を呼ぶ風九月尽
東京都     石川昇
九月尽余白の多き御朱印帳
表札の故人のままに九月尽
埼玉県     石塚彩楓
一人居の母のかこちて九月尽
九月尽読み返してる古雑誌
ヘイシリと呼びかけている九月尽
外出は控へ家居の九月尽
図書館に予約の本を九月尽
埼玉県     花好きおばさん
気だるさを湯船に沈め九月尽
本日も自粛の一日(ひとひ)九月尽
名画座の消えしふるさと九月尽
滋賀県     船岡房公
換毛期終へし老犬九月尽
喪籠もりの家の静けさ九月尽
カルチャーの講座切り替え九月尽
神奈川県     前田恵美
竹林に足もと明し九月尽
米をとぐたひらな心九月尽
白湯を飲む染付の碗九月尽
大阪府     太田紀子
雑魚の陰水深く消え九月尽
九月尽麓の村にかかる靄
補聴器に虫の声なく九月尽
大阪府     太田省三
最下位の消化試合や九月尽
瓶底のとれぬ汚れや九月尽
飛蚊症溶けゆく空や九月尽
中洲には惜しき大木九月尽
気動車や空ひろびろと九月尽
栃木県     鹿沼 湖
告白をしてしまつたの九月尽
ゆつくりと告知する医師九月尽
大阪府     佳代
9月尽安心できる日は遠く
漢方の詳しくなりし9月尽
9月尽夫の禁煙願いおり
9月尽夕焼け小焼け聞き夕げ
9月尽日暮れの早く訪れり
静岡県     大澤定男
植木屋の孫に木霊や九月尽
身ほとりの人を選ぶや九月尽
単線の往復切符九月尽
水飲みて水に墨溶く九月尽
釣瓶井戸父母祖父母亡き九月尽
香川県     辰野
九月尽流し樽もち代参す
九月尽人の消えたる砂浜よ
九月尽波音高く犬吠える
奈良県     平松 洋子
友よりの誘ひが嬉し九月尽
疲れたる身体休める九月尽
山里の影の長さや九月尽
埼玉県     哲庵
断捨離のかなり進みて九月尽
九月尽医療従事者疲弊して
九月尽葉物野菜の高きまま
閉店の店増え続け九月尽
九月尽ワクチン用意できぬまま
神奈川県     竹見 かぐや
口切の準備なきまま九月尽
航跡の白消えゆきて九月尽
看護師の声軽やかに九月尽
便箋をゆっくり選ぶ九月尽
九月尽今日よりここは無人駅
東京都     中田ちこう
車庫ねむる限界のむら九月尽
徳島県     白井百合子
ごみ箱をきれいに洗う九月尽
仏壇の障子張り替へ九月尽
リハビリの回数減って九月尽
筆箱に新しいペン九月尽
また増えたコンビニカード九月尽
神奈川県     猪狩 仙次郎
大江戸の雑踏恋し九月尽
九月尽ゴーヤはじけて口真つ赤
さらさらと時も小川も九月尽
九月尽富士は寡黙を貫けり
九月尽か大統領のつぶやけり
東京都     長岡馨子
面会を許されぬまま九月尽
茨城県     長洲研志
屋根の上カラス一匹九月尽
ピアソラのリオセナを聴く九月尽
エチュードをただくりかえす九月尽
姪っ子が化粧しはじめ九月尽
庭先で猫不貞寝する九月尽
千葉県     長谷川ぺぐ
旅心なほ抑へつつ九月尽
大阪府     津田明美
朝夕の風の和みや九月尽
沖を行く白き帆影や九月尽
海峡の落暉赫々九月尽
狭庭にも小さき風生れ九月尽
神奈川県     塚本治彦
九月尽横笛像の白き面
磯笛の聞こゆる波間九月尽
九月尽ポストに葉書落つる音
九月尽特設展の美術館
九月尽尻に風吹く外厠
福岡県     多事
気に入りの鞄へオイル九月尽
妻を待つ病室の花九月尽
ポラリスもやがて真北か九月尽
色減らす畔の先の陽九月尽
九月尽星灯り澄む秘境駅
大阪府     藤田康子
ふるさとの山河尊し九月尽
九月尽友を送りしより独り
東京都     内藤羊皐
水性の消せるクレヨン九月尽
九月尽スマートフォンを購へり
九月尽孫の臥所を猫居眠る
駅頭に独歩の詩碑や九月尽
下痢止めの効かぬ夜半や九月尽
東京都     二川昌弘
柿熟れて山色づいて九月尽
九月尽菊ほととぎす花見頃
旨し酒独り手酌の九月尽
美酒のあと茶漬けが欲しい九月尽
九月尽夜の冷気が心地よく
千葉県     入部和夫
眠る子の含み笑ひや九月尽
ちちははの夢に呼ばはる九月尽
今日の日を悔いなく生きる九月尽
日記にメモするひと言九月尽
手賀沼に鳥の館や九月尽
静岡県     八木陽子
金魚鉢乾ききるなり九月尽
九月尽爪の紅は褪せしまま
家中の水音が止む九月尽
ポストまで陰拾う旅九月尽
読み差しの層成す本や九月尽
北海道     飯沼勇一
見えぬまで手を振る母や九月尽
終列車尾灯去りゆく九月尽
聞けばもう終わった恋と九月尽
枝少し揺れて夕べの九月尽
九月尽遠のく母と無人駅
埼玉県     飯塚璋
九月尽牛は引かれて牛舎まで
九月尽漬物小屋を掃き清め
良く眠る枕のくぼみ九月尽
東京都     尾田 一郎
九月尽二つ結べる糸トンボ
茸焼く香り流る九月尽
九月尽年に合わせる散歩道
九月尽いよいよ急場受験生
公園の緑のこりて九月尽
千葉県     柊二
編笠に闇をまねくや風の盆
三重県     平谷富之
九月尽 そろそろ厚着に 替へる事
東京都     平野哲斎
上半期大幅赤字九月尽
霧ごめに櫂の音聞く九月尽
みづうみの小いさき祠九月尽
耕運機小屋の隅へと九月尽
潮の香をふかぶか胸に九月尽
千葉県     峰崎成規
返信は了解とのみ九月尽
些事大事メールで済ませ九月尽
盛塩へか細き夕日九月尽
隠れん坊隠れたままの九月尽
外つ国の銀貨鈍色九月尽
神奈川県     芳賀りおん
人生の王手が打てず九月尽
新調のズボンがゆるむ九月尽
九月尽風は自転車漕いでゆく
あかつきの桃を皮ごと九月尽
人生の詰碁が解けず九月尽
東京都     豊宣光
九月尽夕空をゆく鳥の群
まな板の蓮根白し九月尽
今日までの天の高さや九月尽
九月尽長袖シャツに手を通し
九月尽色づき遅き木の葉かな
兵庫県     友海
カレンダー色優しくて九月尽
時計台瞬き一つ九月尽
ランタンの炎脈打つ九月尽
湧泉に灸をガツンと九月尽
ジョギングの足軽やかに九月尽
三重県     北村英子
感情を布に縫ひ込め九月尽
招かざる疫病そこらに九月尽
新しき試練ぞ今は九月尽く
疫病は鬼の匂ひぞ九月尽く
恋つづと鬼滅の刃九月尽
奈良県     堀ノ内和夫
九月尽白雲消ゆる浅間山
群馬県     塩原香子
子が母にセーター贈れり九月尽
奈良に在る古き仏や九月尽
湖の夜の寂寥九月尽
光陰の迅きにつまづく九月尽
東京都     安藤ゆき子
九月尽祖母が初めてバンジージャンプ
九月尽紅濃くなりぬフラミンゴ
ユニコーンオーロラ越へて九月尽
スフィンクス瞳逸らせば九月尽
愛知県     木下澄枝
付き添ひは今日でおしまひ九月尽
今日を限りに町は市へ九月尽
長野県     木原登
赤き実をいよよ真つ赤に九月尽く
秋尽くと峰々襞を深うせり
筆立の影ひえびえと九月尽
杉を透く光を惜しむ九月尽
「山のあなた」ふと口ずさむ九月尽
大阪府     木山満
熱帯魚水槽の底九月尽
九月尽診察券の束太る
九月尽牛肉食えと医者ほざく
初めての鍼受けており九月尽
九月尽伝えたき事日記帳
神奈川県     矢神輝昭
見舞来て笑ふも寂し九月尽
鹿の声風に流れて九月尽の声
あけび酒もいっしょに下山九月尽
風立ちぬ観光馬の九月尽
九月尽今度は何時ねと別れ時
神奈川県     龍野ひろし
九月尽ミルク広がる紅茶かな
白砂の指に零れて九月尽
砂浜に続く足跡九月尽
九月尽推理小説佳境なる
九月尽風の行方に逆らはず
ブラジル     林とみ代
旅鞄の用意整ふ九月尽
経済の先行き不安九月尽
婚約の指輪交して九月尽
引き際の見えぬコロナ禍九月尽
農機具の整理万端九月尽
宮城県     林田正光
九月尽日本海との別れの日
本年もほぼ終幕へ九月尽
九月尽新たな道を進みけり
九月尽海の軌跡が一つ消え
本気出しラストスパート九月尽
東京都     鈴木はる美
晩学の火照り鎮めて九月尽
羊羹の一口美味し九月尽
晩学の火照り鎮めて九月尽
羊羹の一口甘し九月尽
兵庫県     髙見正樹
九月尽樹間にのぞく海の色
京都府     中村万年青
コロナ禍の終息願ふ九月尽
長梅雨と猛暑越さば九月果つ
朝夕の風の声にも九月尽
神奈川県     髙梨裕
九月尽共に踏破の登山靴
はやばやと工場の灯の落つ九月尽
常の日々我慢で暮れる九月尽
病院食細るに任せ九月尽
老夫婦茶漬けで終わる九月尽
東京都     豊島 仁
朝夕の風のまなざし九月尽
さまざまな事あり早も九月尽
九月尽暦僅となりにけり
天と地におおらかに生く九月尽