俳句庵

季題 11月「冬木」

  • 頰寄せて冬木にたぎる命聴く
  • 大阪府     津田 明美 様
  • 登校の子等を見つむる冬木立
  • 埼玉県     岸 保宏 様
  • 辞表出し清しく眺む冬木かな
  • 神奈川県     水野 伸一 様
  • 冬木道踏みしめて行く明日へと
  • 宮城県     林田 正光 様
選者詠
  • それぞれの朝空を待つ冬木かな
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 十一月の題は「冬木」です。歳時記には、冬木の題の下に、冬木立を入れてあるのも有りますが、冬木立は「冬木の群れ」です。今月の皆さんの句には、冬木を多様な面から捉えた作品が多く、選をしながら頷く句が多いでした。それぞれの句に、それぞれの「冬木」があり、一句に善く治まっています。それでは皆さんの句を見て参りましょう。
 優秀賞の津田明美さんの句。「滾る」は、激しく流れる、煮え立つ、感情が激しく沸き立つなどの思いです。「冬木に滾る命」は、作者の思いの深さを冬木に托している、と読みました。この句は「頰寄せて」により、その激しさに軟らか味を感じさせます。「命」という生の言葉も善く聞きとれる句です。
 岸保宏さんの句。この句は「冬木立」が正解です。小学校の正門前の並木道。折から登校の子供たちが、三三五五語り合いながら歩いています。それを見守るように並んでいる冬木立です。「見つむる冬木立」が、善く雰囲気を表しています。
 水野伸一さんの句。「辞表出し」には、それぞれの理由があります。折しもコロナ禍の世相です。しかし作者はそのことを、「清しく眺む」と肯定しています。句を見る人にも、そのことは安堵の思いとなります。「冬木」が、作者の肯定の思いを支えています。
 林田正光さんの句。「踏みしめて行く明日へと」に、作者の思いが善く出ています。「踏みしめる」という行動は思いの深さの表現です。更に「明日へと」に、その思いを正道とする作者の固い信念が出ています。「冬木道」が善くその信念を受けています。
 今月の佳句。<今にして見ゆるものあり冬木立 岩川容子>。<つなぐ手の温もり増すや冬木道 水野邦彦>。<居て欲しき人ふと偲ぶ冬木かな 西山ひろ子>。<手をあてる冬木に生きる温みあり 鈴木三津>。それぞれが、「活きた俳句」です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。