俳句庵

11月『冬木』全応募作品

(敬称略)

宮城県     zazi
冬木立観光客の襟寂し
冬木立ポニーテールの山女かな
離着陸見上げる空に冬木立
ピアス無きピアスの穴の冬木かな
寒林やメンソール香の風の行く
愛媛県     アリマノミコ
線路跡いっぽんの道冬木立
夫と来し古民家のカフェ冬木立
自らの命を空へ冬木立
千葉県     いなだはまち
書きためし俳句の種や冬木道
人は人冬木は冬木息を吐く
抱きしめて冬木のこゑを聞かんとす
埼玉県     いまいやすのり
風立ちて静けさ破る冬木道
昏れゆきて僅かにのこる冬木影
ちかみちの坂の斜光や冬木影
冬木道ペタルを停めて深呼吸
真つ直ぐな一本道の冬木かな
福岡県     すがりとおる
東京は暮色日比谷の冬木立
冬木立ビニール傘に透ける手話
瘤といふ瘤に影ある冬木かな
神奈川県     髙梨裕
大伽藍見下ろすごとく冬木立つ
冬木中湧き水の音筒伝ふ
冬木分け人飲みし川流れけり
暗闇に潜むがごとく冬木立
火葬待つ日は柔らかき冬木影
岐阜県     ときめき人
円空の刻む吉相飛騨冬木
東京都     豊島 仁
冬木も人も散りゆくまた生きる
冬木の声はらはらと聞こえぬか
冬木哭く波涛砕ける城ヶ島
冬木や寺々の庭広くせり
はっきりと冬木はるか富士の山
京都府     中村万年青
枝広げ深呼吸する冬木かな
すっきりと街の灯見ゆる冬木立
幾千の枝は幹へと大冬木
兵庫県     はなちる
冬の木や明日に伸びゆく子等の声
待ちぼうけ冬木に風のささやきぬ
美しく葉を舞い散らせ冬木かな
曇天を冬木突き刺す外回り
山口県     ひろ子
記念樹の太りて冬木幾とせぞ
森の精ひそむ冬木の影法師
裸木なるこぶし通りや役所前
東京都     ホリカズヨ
親の手を引く吾の手や冬木道
読点の音一つずつ冬木かな
好きな子の帽子を攫う冬木かな
ドリブルで縫うや冬木の試験林
冬木中赤子の息を確かめる
神奈川県     みぃすてぃ
冬木立追分宿の道標
水に浮く月の白さや冬木立
東京都     よしだ悠
われまたも冬木となりて野に立てり
荒野へと延びる鉄路と冬木立
もの言はぬ冬木ばかりの介護室
愛知県     茜雲
夕陽背に大きく見ゆる冬木かな
無口なる人の夢聞く大冬木
美術館前の冬木や人まばら
何もかも忘れてしまえ大冬木
フランス語会話の稽古冬木かな
東京都     安達健治
窓越しに挨拶行き交う冬木立
気がつけば大伽藍かな冬木立
空に描く折れ線グラフ冬木立
束の間の道案内の冬木かな
筑波嶺の見え隠れする冬木かな
東京都     安藤ゆき子
冬木宿白白明けの水琴窟
玉響に星くず降りし冬木道
東京都     伊藤訓花
ふるさとは冬木の空の澄む蒼さ
心経を唱へ冬木の夜の道
子を負へば星を咲かせた冬木道
在りし日の母と歩いた冬木中
あかあかと冬木に落ちる夕日かな
千葉県     伊藤順女
真直ぐに流れる川や冬木道
日の当たる墓地の静けさ冬木立
地に触れんばかりの枝や冬木の芽
木洩れ日に温む冬木に倚りて待つ
千葉県     伊藤博康
校庭の隅に陣取る冬木かな
日が沈む山を縁取る冬木かな
冬木にも池に漣作る風
風通る冬木となりし屋敷林
風の音直線となる冬木かな
神奈川県     井手浩堂
湖の影動かざり冬木立
厨より赤き灯ともる冬木宿
風に鳴る冬木や子らの通学路
母見舞ふいつもの道や冬木の間
徳島県     井内胡桃
その幹の微かな吐息大冬木
襟正し冬木の道を歩みけり
天辺に一葉残せし冬木かな
図書館の新刊コーナー冬木立
ありのまま見せて冬木の樹形かな
東京都     右田俊郎
沈みゆく夕日冬木のシルエット
冬の木や落ちきらぬ葉のまだ残る
馬車走る冬木となれる並木道
夕暮れの冬木の枝に鳥止まる
次なるを信じ冬木のただ耐へる
群馬県     塩原香子
夕影をうつして冬木欠伸せり
冬木並び寒さの中で黙したる
おのが葉の朽ちたる上に立つ冬木
銀杏枯れ枝に星座を集めたり
冬木立骸となりて星を刺す
東京都     岡本英太郎
人形(ひとがた)に見えし冬木に追われけり
思い出が冬木に花を咲かせたり
愛媛県     加島一善
冬木道だれかれとなく会釈せり
廃校にでんと立つたる冬木かな
残月に片身の白き冬木かな
ゆたかなる光りを浴びて冬木道
バス曲り現れ来たるあの冬木
愛知県     非掲載
暗闇に並ぶ冬木の笑い声
国道の全てに耐えて冬木立つ
神奈川県     海野優
鳥来れば一幅の図や冬木立つ
単線の緩き曲線冬木立
異なれる意見をひとつ冬木かな
問はるるも冬木とのみの応へかな
七十路や老いには遠し冬木立
埼玉県     釜田 眞吾
梅らしき姿の梅の冬木かな
冬木立烏の声も筒抜けに
大楠の冬木の奥にある蕎麦屋
拳骨に剪られ冬木となりにけり
兵庫県     岸下庄二
みちのくに残る一本大冬木
津波にも打ち勝ち立ちぬ大冬木
電飾で飾らる街の冬木かな
瘤二つ露にしたる冬木かな
大津波冬木一本残しけり
埼玉県     岸保宏
人途絶え博物館の冬木かな
静まりし遍路の杖と冬木かな
登校の子等を見つめし冬木立
兵庫県     岸野孝彦
父のこと想う日差しの冬木かな
冬木立知るや知らぬや古戦場
森深き木に生まれたし冬木かな
それぞれの影を重ねる冬木かな
冬木立見守るがごとき峠かな
岡山県     岸野洋介
冬木背に吉備路にすらり塔五重
朝の雨幹を光らせ冬木たち
電飾をまとい華やぐ冬木たち
背を丸め塾へ行く児ら冬木道
椋鳥の声姦しき冬木かな
東京都     岩崎美範
チター泣くラストシーンや冬木道
子の病みて帰りを急ぐ冬木道
亡き姉の星を見上ぐる冬木道
木洩れ日の温もりに酔ふ冬木中
吾もまた裸一貫冬木道
東京都     岩川容子
冬の木の根に執着の力瘤
鴉鳴くひときわ高き冬の木に
老いるにも力のいりて冬木立
今にして見ゆるものあり冬木立
人住まぬ冬木の中の一軒家
神奈川県     亀山酔田
見上ぐるに冬木ずずんと背を増して
獣らは命遣り取り冬木立
突き抜けて遊ぶ子どもら冬木立
大冬木開拓誌にも記載ある
冬木立獣道畑へ延び始む
茨城県     菊池風峰
窓一面モノクロ模様冬木影
人ひとり冬木桜の土手に立つ
冬木道道はまっすぐ塩の道
大冬木寺の参道真正面
星の降る冬木の梢あわいにも
千葉県     玉井令子
マラソンの駆け抜けてゆく冬木道
公園の砂場に伸びる冬木影
ブラジル     玉田千代美
雪降らぬ国に育ちぬ冬木かな
幹全体傷付けられて冬木老ゆ
新潟県     近藤博
葉は落つも命漲る冬木かな
亭々と葉のなき冬木凛として
葉は落つも冬木凛たる並木道
境内に亭々として冬木立つ
凛然と空を突き上ぐ冬木かな
岐阜県     金子加行
冬木立さらに霊山らしくせし
何度目の窓の冬木や母見舞ふ
冬木置き一年時計一回り
冬木立恋を失ふ人に似し
湖の鏡寂しき冬木立
神奈川県     原川篤子
すつぽりと吾(あ)の影入るる冬木かな
曇天に枝先尖る冬木かな
森は今コローの色に冬木立つ
この道の先に句碑あり冬木立
冬木道校塔白く迫りけり
福岡県     戸澤孝一
裏木戸を開ければ見ゆる冬木かな
三重県     後藤允孝
風去りて君の影追ふ冬木立
遥かなる深みに透けてゆく冬木
晩年の静けさにあり冬木かな
己が身を一糸纏わぬ冬木かな
安らぎの黙となりたる冬木かな
大阪府     高木音弥
冬木よりほろほろ溢るひかりかな
夕暮れの冬木を鳴らす風の路
足止めて見上ぐ冬木に星の雨
日本海車窓過ぎゆく冬木かな
背を預け冬木の鼓動聴いてゐる
愛媛県     佐藤めぐみ
見栄も我も栄誉も捨てし冬木かな
冬木の芽今日は息子の生まれし日
モノクロの世界広がる冬木立
愛媛県     砂山恵子
本当は泣きたいけれど冬木抱く
また明日と柔らかく言ふ冬木道
冬木道ハイヒールの音消えてゆく
緩やかに移らふ夕日冬木道
冬木抱き何を焦るか忘れたり
秋田県     笹弓
鉄棒とブランコの傍冬木かな
街道の並ぶ冬木の黒き肌
境内の日だまり懐く冬木立ち
ひとつかみ空をにぎつている冬木
雨上がり冬木の枝の煌めけり
東京都     笹木弘
嵌め殺しの窓に揺れたる冬木かな
六道の輪廻を悟る冬木かな
各々に生き方のあり冬木かな
光陰を上手に使う冬木かな
真夜中はゆっくり眠る冬木かな
愛媛県     山家志津代
売り土地の看板括る冬木かな
媽祖廟に平伏すものや冬木影
千葉県     山田香津子
日本海の荒波の音冬木立
八甲田の怪物となる冬木立
神奈川県     山田知明
一日を持て余したる冬木かな
青空に袖通したる冬木かな
大空を持て余したる冬木かな
風に歌を忘れた冬木かな
風を梳かしていたる冬木かな
東京都     山本貴士
むく犬の首輪引く人冬木道
洋犬に引かれゆく人冬木道
冬木道老父の病知らされり
子らの掌の温かきこと冬木道
空仰ぎ大地を掴み大冬木
山口県     山縣敏夫
マスクして行き交う人や冬木道
冬木宿恋しい人に文を書く
こんな世に凜としている冬木立
我は往く一直線に冬木立
こんな世に三々五々と冬木立
千葉県     四葩
冬木仰ぐ目裏にある父の影
鳥声の突き抜けていく冬木かな
神奈川県     志保川有
古新聞選者は兜太冬木立つ
星もなく冬木の群の黒々と
音もなき冬木の原やグレコ死す
死ぬは居ぬ居ぬは死ぬなり冬木原
吾よりも年若き死や冬木影
島根県     非掲載
面影の冬木明るしおんぶ紐
ひらひらの終わった頃や冬木立
野良猫と冬木の下の待ち合わせ
電飾のこそばゆそうな冬木かな
暫くは凌ぐ糊口や冬木の根
神奈川県     守安雄介
水気失せ老婆の顔の冬木の芽
お受験の踏ん張り時や冬木立
犬の尿湯気を上げたる冬木の根
冬木の芽選び食いたるサルの群れ
ぴゅーぴゅーと風を泣かせる冬木立
埼玉県     守田修治
冬の木の独り言聴く夜学生
投薬の一つになって冬木かな
改札を出れば迎える冬木かな
冬の木や子らは夢見る紙芝居
待ち人のあまりに遅き大冬木
埼玉県     小玉拙郎
逆光にまぶしき冬木黒々と
殺風景てふ風景を生む冬木かな
冬木行きまた冬木来る単線路
おのおのが伽藍に紛れ立つ冬木
茨城県     小松崎孝志
我が影を覆い尽くすや冬木影
病室の小さな窓の冬木かな
相方といつも黙って冬木道
ぴかぴかの洗たく日和冬木立
きゅんきゅんと風切音や大冬木
福島県     松井くろ
母に似て冬木どっしり慎ましい
堂々と冬木は冬木とし休む
公園の冬木を叩く老二人
東京都     松本佳明
冬木立日差しの弱さに影薄く
ひゅるり風マフラー握る冬木道
ふらふらと寂し気揺れる冬木かな
帰り道冬木の影を追いかける
今は亡き母に影似る冬木かな
東京都     松本征枝
野良帰り冬木の囲む藁葺き家
屋敷林冬木を待ちて枝下し
電飾に眠りの浅き冬の木々
鳥の巣を二つ付けたる冬木かな
吹き抜ける風の音のみ冬木立
神奈川県     松野勉
冬木道人それぞれのディスタンス
静岡県     城内幸江
目印の冬木を追つてハイキング
通せんぼするには淋し冬木かな
鳥の巣は冬木にもたれかかりけり
夕暮れをやさしく支え山冬木
寒木や吊り橋渡る人静か
愛知県     新美達夫
声掛かるその日期すべし冬木立
サーカスのテント払はれ冬木立
今からが真の付合ひ冬木立
大阪府     森 佳月
なにげなく冬木の幹に耳あてて
冬木立見つめたるわれ日時計に
送迎車冬木とともに待ちにけり
枝先で空掴みたる冬木立
曇り窓透かして見るや冬木立
山梨県     森下博史
背もたれの冬木と僕のツーショット
頂きで冬木待ってる低登山
埼玉県     水夢
石畳猫の通りし冬木坂
どこからか口笛のして冬木立
鬼瓦はたと睨みし冬木立
電飾の冬木の唄ふけやき坂
筑波嶺の空揺れてをり冬木立
神奈川県     水野伸一
裏庭の冬木凛々しい過疎の村
辞表出し清しく眺む冬木かな
引退の門出見送る冬木かな
半島の潮風研ぐや冬木立
東京都     水野邦彦
背を伸ばし腰折れ耐える冬木あり
つなぐ手の温もり増すや冬木道
陽が昇り傾く冬木影伸ばし
風かわす身のこなしよし冬木立
庇役用も済みしし冬木かな
東京都     勢田清
夕暮れに冬木数本美しき
港へと冬木の坂を降り行く
冬木立上り来たりて海の色
冬木立遠き人々過ぎし日々
冬木抱き夕陽の余熱感じけり
三重県     西井治男
ヘェアウエイの冬木我に試練を
ブラジル     西山ひろ子
居て欲しき人ふと偲び冬木かな
風が風追ひこして行く冬木かな
日差し受け旅人憩ふ冬木かな
父在はす靖国の杜冬木立
走り根が石持ち上げて大冬木
福岡県     西山勝男
依代と仰ぐ斎庭の大冬木
大冬木磐井の君をふところに
ひとときを命はぐくむ冬木かな
山頭火籠りし堂の大冬木
老いてなほ背筋を正す冬木かな
愛知県     西谷寿
冬木さえ春待つ準備怠らず
宿命に厳然と立つ冬木かな
耐え忍ぶ冬木に勇気もらい立つ
年老いたわれを表す冬木かな
決然と荒れ野に立てり冬木かな
愛知県     斉藤浩美
オリンピック延期の街の冬木影
志村けんの冬木まつすぐ立ちゐたり
生意気な三歳となり冬の樹々
上京をしてもひとりや冬木道
転職を決むる冬木の瘤にふれ
東京都     石井真由美
電飾やサイドビジネス冬木かな
魔女の杖梢に星を冬木立
冬木立空いつぱいの星たちよ
樹々の星魔女の一振り冬木かな
大阪府     石原由女
星の下語りだしたる冬木ゐて
山の端の蒼き風呼ぶ冬木かな
冬木の芽すくり伸びしてゐたりけり
滋賀県     船岡房公
電飾を纏ふことなき冬木かな
逆さ箒立てたるごとき冬木かな
人気(ひとけ)なき駅のタクシー冬木風
神奈川県     前田恵美
サックスの音はいづこより冬木道
神を説く人立ちつくす冬木かな
冬木道ひた行く果ての入日かな
東京都     足立智美
庇ふ手も拾ふ手も無く冬木の葉
オーロラの裾掠めゐる冬木かな
冬木立つシュルレアリスムのやうな斜陽
冬木立ホスピスの照度になれり
福岡県     多事
消え去りしヒト属幾多冬木立つ
暮るる陽を宿して紅し冬木立
冬木立つ先輩顔の嘴広鸛(ハシビロコウ)
蒼天へ筆先たつる冬木かな
講堂のパイプオルガン冬木立
大阪府     太田紀子
おみくじの凶を引きけり冬木立
連結器の一瞬の音や冬木立
不発弾残る沖縄冬木立
大阪府     太田省三
冬木道盲導犬は脇見せず
冬木みな生きるみづおと聴診器
一本の縄の結界冬木立つ
電飾のまばゆき夜や冬木道
幹を曲げ浜辺に並ぶ冬木かな
静岡県     大澤定男
祖父黄泉へ看取る祖母母冬木立
祖父座右に急ぐべからず冬木立
祖父老ひて孫の手二本冬木立
祖父先ずは麒麟獣舎へ冬木立
祖父の斧鋸遺影冬木立
香川県     辰野
ウィズコロナ商機見出すまで冬木
癌治療冬木の生を見習いて
東京都     中田ちこう
瞽女唄や冬木をつつむ月明り
神奈川県     猪狩仙次郎
湖の冬木一本不動かな
冬木立抜けて湯けむり地獄谷
ふるさとの冬木に待てば鹿の寄る
潮風に我が身涸らして冬木かな
誰を待つ冬木や灯り消えし門
東京都     長岡馨子
諦めて母白髪(はくはつ)に冬木かな
茨城県     長洲研志
教会のステンドグラス冬木影
静けさや湖面に映る冬木立
冬木にも枯れる意味あり青き空
冬木道あえて小股でサクサクと
若さより冬木も枝のしなやかさ
千葉県     長谷川ぺぐ
風強く吹くも冬木の立ちん坊
千葉県     鳥越暁
何か居る冬木の洞にひつそりと
冬木立つやどりぎの葉だけ繁るなり
夜半過ぎぎしぎしぎしと冬木鳴く
探鳥の椅子となる根の大冬木
樹木医が隙間を埋める冬木あり
大阪府     津田明美
耐へてなほ命艶やか冬木の芽
冬木立星影友として佇ちぬ
頬寄せて冬木に滾る命聴く
妣恋へば冬木の先に誰かをり
寂として天を指したる冬木かな
神奈川県     塚本治彦
老人の孤高のごとき冬木かな
無住寺の無住寺のまま冬木立
晩年の虚子立つごとき冬木かな
鉄格子窓ある狂院冬木立
晩年の西行庵や冬木立
埼玉県     哲庵
俯きし影ばかりなり冬木中
いくつかの病発覚冬木立
冬木影より細身なる影法師
そそり立つ癌病棟の冬木かな
蒼天に根を巡らせし冬木かな
山梨県     天野昭正
マラソンの折り返し点大冬木
根を張りて凛として立つ大冬木
雉飛んで冬木の空の目覚めけり
烏来て冬木に止まり鳴きて去る
頼もしき青年のごと冬木立つ
千葉県     渡邉竹庵
根も幹も冬木の中の見えぬもの
天を衝くメタセコイヤの冬木かな
二町歩を囲む冬木や工場跡
記念碑に刻む母校の冬木かな
散り落ちて毛細血管まで冬木
大阪府     藤田康子
尼寺を見守るごとき冬木かな
冬木に纏わる風妣恋ふるごと
東京都     内藤羊皐
おとうとに早き晩年冬木立
冬木立奏楽堂のピアノ鳴る
象のなき象舎陽翳る冬木かな
冬木立背びらとしたる秩父嶺
心中の未遂を告げる冬木かな
大阪府     二三五
夫の背に揺れる木漏れ日冬木道
車椅子膝に揺らるる冬木影
東京都     二川昌弘
一本の冬木おおしく風に立つ
けやき坂冬木の向こう灯がともる
林立す冬木椿を見守りて
仰ぎ見る冬木の枝の宿り木や
冬木立シンメトリーのやじろべえ
千葉県     入部和夫
晩節を汚すべからず冬木かな
泣きそうで泣かぬ児であり冬木
仰ぎ見る冬木のなかの昴星
老いてなほ躰愛しき冬木かな
退院日陽ざしに温む冬木かな
徳島県     白井百合子
冬木立軽く散りゆく枯れ葉かな
韓流の恋の縺れや冬木立
枝に掛ける遺愛の帽子冬木立
朝雨の物哀れなり冬木立
蔦絡む窮屈そうな冬木かな
北海道     飯沼勇一
手を拡げ天持ちあげてをる冬木かな
抱きつけば陽の香ほのかに冬木かな
枝折られなほ風に立つ冬木かな
冬木立つ枝先に星ちりばめつ
葉の百枚残し冬木立ちにけり
埼玉県     飯塚璋
筒音の聞こえて来り冬木宿
冬木影鯉の眠りは深かからむ
芽吹き初む伊豆大島の冬木かな
千葉県     柊二
裸木の弁天池にゆるる君
群馬県     武藤洋一
願ひ事冬木の枝に揺れてをり
相撲部屋テッポウの音冬木の芽
初恋を見て見ぬふりの冬木の芽
冬木にもタオル干されし合宿所
鐘楼に人の気配や冬木の芽
北海道     風花美絵
冬木立足音響く通学路
蝦夷栗鼠の姿くっきり冬木立
冬木影せまる夕暮れ馬そり跡
冬木立LEDでお粧しを
バキバキと幹に試練の冬木立
千葉県     風泉
・冬木立パリはビュッフェの画廊かな
・チターの音と冬木の並木とアリダ・バリ
・冬木がごと灯下に白し妻の指
・譲り合い名乗り合う枝冬木立
奈良県     平松 洋子
寂しさに鳥近寄れぬ冬木立
待ち合わせ冬木の傍の若人ら
冬木立イルミネーション纏ひして
三重県     平谷富之
冬木立我の苦労を知っている
滋賀県     別役昌子
冬木に凭れ面接の話など
金釘の吾の字に似たる冬木かな
ニーチェ読む書斎に影を差す冬木
大冬木従へて常磐木の松
冬木一本塩屋崎の風に立つ
千葉県     峰崎成規
生く力溜むる冬木の慎ましさ
電飾に寝不足気味の冬木道
伸びてすぐ消ゆる午後の日冬木影
東京に武蔵野返す冬木立
一切を風に削がせる冬木かな
神奈川県     芳賀りおん
冬木には笠智衆ばかり集いけり
百年の孤独に似たり冬木立
人去りて闇に埋まる冬木立
東京都     豊宣光
断捨離や残る冬木のごときもの
凛として一途に冬木直立す
盆栽の冬木いたわる父の顔
藁の中冬木静かに息づきぬ
鳥さえも寄らぬ冬木の孤独かな
埼玉県     北川清
廃校の 庭に残りし 冬木立
電飾を 冬木に着せて 日暮待つ
稜線に 夕陽に影や 冬木立
無人駅 残るポストに 冬木立
来ては去る 冬木は鳥の 口伝場所
三重県     北村英子
冬木にもイルミネーション頼みをり
年輪は年経る証冬木立
真白なる冬木に神の気配して
立ち尽くす冬木の呼吸日の呼吸
冬木立鬼が潜むか全集中
奈良県     堀ノ内和夫
介護棟冬木の影の直線に
並木道冬木となれば背を丸め
長野県     木原登
午後三時雀あつまる冬欅
影と影重ね連なる冬木立
大空へ凛と聳つ冬ポプラ
牧場の星々統ぶる一冬木
オアシスのやうな日溜り冬木中
神奈川県     矢神輝昭
冬木立抜けて茅戸で握飯
山路来てぽつり呟く冬木かな
冬木立相身互いて一山と
無関心を装う人も冬木かな
一山の冬木は僧兵天睨む
神奈川県     龍野ひろし
鶏小屋と呼ばれし校舎冬木影
日の暮れてサタンのごとき冬木かな
ブラジル     林とみ代
待ち合せの場所の思ひ出冬木老ゆ
立て札に冬木の歴史認めけり
身の回り省き身軽や大冬木
売り屋札掛けて突つ立つ冬木かな
ネオンの灯にあらはとなりぬ冬木宿
宮城県     林田正光
冬木道踏みしめて行く明日へと
公園の冬木抜ければ道近し
冬木立見上ぐる空や茜色
道標坂の上なる大冬木
冬木根の大地を摑む力かな
大阪府     鈴木三津
骨格のしかと人にも冬木にも
手をあてる冬木に生きる温みあり
奥津城の大き冬木が道標
千年の冬木の洞に山のこゑ
石畳もたげて神の大冬木
大阪府     鈴木千年
日が落ちて冬木一本づつとなる
冬木立とは日の当りゐる木立
冬木立つ命の樹液通はせて
冬木いま金剛力を育てをり
冬木みな退屈さうにしてをりぬ
兵庫県     髙見正樹
広場ではラジオ体操冬木立
聳え立つ社の冬木砂利を踏む
見通せる冬木の林水平線
公園の桜は冬木風に鳴る
常緑やしんと居並ぶ冬木立