俳句庵

季題 1月「初鴉」

  • 初鴉教会の鐘響く空
  • ブラジル     林 とみ代 様
  • 相輪の静寂を覚ます初鴉
  • 大阪府     津田 明美 様
  • 初鴉深夜当直終へし窓
  • 愛媛県     砂山 恵子 様
  • 終の地と決めたる郷や初鴉
  • 三重県     後藤 允孝 様
選者詠
  • 一声を待つ愉しさや初鴉
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 令和三年一月の題は「初鴉」です。初鴉の句は江戸中期の作品にも記載があります。古くから在る季語です。元日の早朝に鳴く鴉、めでたい鳥として、また神鴉として愛でられている鴉です。皆さんの句には、多様な初鴉が登場しています。その初鴉を、作者それぞれが多様な思いで表現しています。早速拝見致しましょう。
 優秀賞の林とみ代さんの句。作者はブラジル在住です。この句、「初鴉」という純日本的な題を、「教会の鐘」という欧米の宗教の中に調和させてあるのがみごとです。この初鴉は、歳時記の記す初鴉とは環境が異なりますが、世相と共に、初鴉の捉え方が変わるのも時代の趨勢です。一読新鮮味を感じます。
 津田明美さんの句。「相輪」は、塔の最上階の屋根に載せた装飾物。九輪とも言います。その静寂を覚ますように「初鴉」が鳴いています。こういう景は、例えば今でも奈良に残る仏塔で見ることが出来るでしょう。「相輪の静寂」が善い表現です。
 砂山恵子さんの句。一転情景は変わります。作者は今、深夜業を終えて一休みしている所です。ふと窓を見ると、夜も明け白む頃となり、窓外の一樹に今、初鴉が来ています。その鳴声を聞き、気持が爽快になってゆくのを覚えるのです。「深夜当直」の言葉が、意外と「初鴉」と釣り合っています。
 後藤允孝さんの句。故郷を後にして、仕事のために住んで来た地です。月日が経ち、やがてその地で一家を持ち、家を建てる作者。移りゆく日々に、何時しかその地を故郷と思うようになっている我が身を振り返っての感懐の句です。初鴉とも旧知の仲となりました。

 今月の佳句。<茜空影絵のごとき初鴉 塩原香子>。<初鴉翼大きく空渡る石塚彩楓>。<初鴉コロナ禍の鍋ひとり鍋 村田稔子>。それぞれ内容の深い作品です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。