俳句庵

季題 2月「冴返る」

  • 手首まで伸ばす作業着冴返る
  • 静岡県     城内 幸江 様
  • ゆつくりと老医の告知冴返る
  • 埼玉県     いまいやすのり 様
  • 灰寄せの天窓明り冴返る
  • 大阪府     津田 明美 様
  • 出港を告げる銅鑼の音冴返る
  • 東京県     右田 俊郎 様
選者詠
  • 夜の地震(なゐ)に睡る間あらず冴返る
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の題は「冴返る」です。春になって、一旦緩んだ寒気が、またぶり返すことを言います。似た季語に、「冴ゆる」があります。こちらは、冷たく凍ると共に、鮮やかに澄むと言う冬の季語です。季語は季節を簡潔に表しています。今月の皆さんの「冴返る」も、善く出来ていました。それではそれぞれの句を拝見していきましょう。
 優秀賞の城内幸江さんの句。作者は今、公的な施設に付属する公園などの清掃をしているのでしょうか。作業着姿ですが、冴返る中、手首が寒く、その作業着の袖口を手をそえて伸ばしています。その単純な行いが注目されるのは「作業着」の故でしょう。「手首まで伸ばす作業着」に実形が見えて来ます。
 いまいやすのりさんの句。この「告知」は病名を知らせることです。「ゆつくりと」と「老医」が善く「告知」を際立たせています。受信する人にとっては不測の事態かも知れません。「告知」が、重く被さって来る成行きを、善くまとめています。
 津田明美さんの句。「灰寄せ」は、火葬の後、灰を搔き寄せて骨を拾うことです。骨揚げ、骨拾いとも言います。「天窓」は明りとりの窓。お骨は血族のお一人でしょうか。淡々と詠み上げられていますが、「天窓明り」に、顔を上げる仕種が見え、句を読む人の緊張感を和らげています。
 右田俊郎さんの句。一転、旅客船出港の句です。見上げるばかりの客船が碇泊し、桟橋には見送る人が並び、船上には見送りを受ける旅人が手を振っています。銅鑼の音が高らかに出港を知らせます。港の風景には詩があります。「冴返る」が的確です。

 今月の佳句。<冴返る再開発の日本橋 二川昌弘>。<「早春賦」流るるラジオ冴返る 稲福達也>。<白墨の折るる板書や冴返る 永野昌人>。<冴え返る訣れの朝に引くルージュ 山家志津代>。それぞれ内容の深い作品です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。