俳句庵

季題 4月「別れ霜」

  • 別れ霜野に広々と牛放つ
  • 神奈川県     嶋村 博吉 様
  • 別れ霜踏んで傘寿の一人旅
  • 岡山県     岸野 洋介 様
  • 朝粥に散らす青物別れ霜
  • 徳島県     井内 胡桃 様
  • 遊学に旅立つ朝や別れ霜
  • 東京都     岩崎 美範 様
選者詠
  • 鎮魂の御社(みやしろ)つつむ別れ霜
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 四月の題は「別れ霜」です。晩春の頃、急に気温が下がり、発生する霜を言います。冬期の霜と異なり、暖かい日の到来の後の気温の急変による晩霜です。「八十八夜の別れ霜」は辞書にも出ています。歳時記には江戸中期の俳人、加舎(かや)白(しら)雄(お)の句も掲載されています。人事に写生に、それぞれの俳人が挑戦している季語です。皆さんの「別れ霜」も見所が多様でした。腰を据えて拝見しました。
 優秀賞の嶋村博吉さんの句。牧場の景です。広大な山野の景が浮かんで来ます。牛舎を出た牛は、連れ立ってゆっくりとその牧場を歩んでいます。この句の牧場は広々とした野原です。「野に広々と」が善く背景を写し出し、「別れ霜」が、「牛放つ」を大きく包んでいます。
 岸野洋介さんの句。この句の前に、<別れ霜遺影の妻はいつも笑み>があり、この句の「一人旅」を善く補っています。「傘寿の一人旅」の思いも善く分かります。更に、「踏んで」に「一人旅」をつつむ自身の姿が浮かんで来ます。この一人旅が、作者の健康に結び付くことを願うばかりです。
 井内胡桃さんの句。一転、句は日常の景となります。「朝粥」が善いですね。粥は消化も充分です。「青物」は野菜のいろいろでしょうか。「散らす青物」が、善く対象を写し出しています。座五の「別れ霜」が一句を統べています。
 岩崎美範さんの句。「遊学」は、郷里を後に、他の国や地方に行って学問を修めることです。外国の場合は留学が普通です。この句の対象は作者のご子息でしょうか。或いは自身の回顧でしょうか。何れにしても、遊学に旅立つ朝は、自身も送る人も、きりりとした雰囲気です。別れ霜もまた同じです。
 今月の佳句。<父の匂ひ納屋にそのまま別れ霜 藤田康子>。<近況をメールで告ぐる別れ霜 右田俊郎>。<今日からは余生と決むる別れ霜 小松崎孝志>。夫々の人に夫々の別れ霜があります。別れ霜が善く一句を支えています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。