俳句庵

4月『別れ霜』全応募作品

(敬称略)

埼玉県      哲庵
遙かなる紫峰瞭瞭別れ霜
別れ霜鍬に止まりし雀かな
小獣の足跡著き別れ霜
旅ゆけば駿河の国の別れ霜
いくたびも畑見廻る別れ霜
宮城県     zazi
別れ霜クールミントのガムの味
別れ霜ダンスホールの老婦人
別れ霜堆肥散布のトラクター
猫島のフェリー乗り場や別れ霜
ひとり居となりて小枝の名残霜
静岡県     いたまきし
別れ霜朝起きたらば立ちくらみ
茶畑の敷き藁に寄す別れ霜
別れ霜すえたる灸の熱さかな
別れ霜棒読みとなるありがとう
埼玉県     いまいやすのり
さりげなく叔母に電話の別れ霜
別れ霜たうとう一人始発バス
休校の門扉に残る別れ霜
雲切れて江戸川土手の別れ霜
田は畑に変はりし里の別れ霜
愛媛県     ヴィッカリー趣乃
泣く吾子の声透き通る別れ霜
福岡県     すがりとおる
別れ霜光る上京始発駅
ロック座の老ひし舞姫別れ霜
探す名は十年後や別れ霜
岐阜県     ときめき人
窓越しの顔険し父別れ霜
東京都     よしだ悠
繋がれし犬の背に降る別れ霜
東京都     よしだ悠
母の声われに届かず別れ霜
草千里埋めて千里や霜の果
別れ霜わかれた後の噂無く
少しだけ黒も混じれり名残霜
東京都     安藤ゆき子
別れ霜空き家の庭の三輪車
白猫とすれ違ふ朝別れ霜
薄曇り踏切開かず別れ霜
東京都     伊藤訓花
晩霜や眠れぬ朝の血糖値
日が差せば霜の名残の緩みかな
忘れ霜かすかな音の遊歩道
別れ霜下駄の鼻緒の薄湿り
エッセイの締め切り迫る霜の果
千葉県     伊藤順女
菜園にしゃりりとひかる別れ霜
愛犬の墓ふくらみて別れ霜
神奈川県     井手浩堂
山裾に続く水田や別れ霜
子と決めし妻とわが墓地別れ霜
尼寺の小さき飛石別れ霜
見渡して畑一面の別れ霜
徳島県     井内胡桃
小康の味噌汁椀や別れ霜
別れ霜テレビの予報案ずのみ
厨事やっと片付き別れ霜
別れ霜土寄せ高く高く盛る
朝粥に散らす青物別れ霜
群馬県     塩原 香子
別れ霜川原の石のひとつづつ
笑む仏畑一面の別れ霜
朝日さす掃きよせし葉に別れ霜
夜が明けて畑一面に別れ霜
群馬県     塩原 香子
廃屋の枯草の上別れ霜
富山県     岡野 みつる
これよりは農に勤しむ別れ霜
二度三度別れ霜かと思いけり
茶畑の緑増したる別れ霜
埼玉県     釜眞手打ち蕎麦
別れ霜葉を縁どりて刺々し
青天に剥がれしマルチ別れ霜
福島に大きな余震別れ霜
神奈川県     亀山酔田
朱の橋ここより路地と別れ霜
裏富士の裾野豊かよ別れ霜
魔女からの文句たらたら別れ霜
宅地てふ昔田畑別れ霜
手際よき町の豆腐屋別れ霜
茨城県     菊池風峰
生薬の味は五種類別れ霜
ふりそそぐ月のかけらや別れ霜
笹の葉の傾げるおもさ別れ霜
別れ霜卓の上おく割れ煎餅
七十の手習い一句別れ霜
岐阜県     金子加行
臼までも積む段畑や別れ霜
信濃路の車窓に解けし別れ霜
別れ霜拭ひて父祖の墓仕舞ふ
飛騨の朝別れ霜踏む独り旅
掘り出せし山城跡や別れ霜
千葉県     四葩
畑中の木造校舎別れ霜
果樹園の径細りゆく別れ霜
別れ霜吉の神籤を小さく結ひ
東京都     斜楽
別れ霜南へくだる旅に出る
晩霜や月山読み終へしづかなる
東京都     斜楽
丁寧に鋤かれし畑や別れ霜
別れ霜朝餉の味噌のつゆうすし
根菜の葉の朽ちゆきて忘れ霜
大阪府     酒梨
眼前の茶葉甘からん別れ霜
ながらへて別れ霜さへ涙ぐみ
陸奥に捧ぐ折鶴別れ霜
久しかる逢瀬の朝別れ霜
はかなきは人のいのちと別れ霜
神奈川県     重兵衛
忘れ霜和服姿の美しきひと
前衛といはれしひとや別れ霜
山峡の宿のひと日や忘れ霜
新聞の小さな訃報別れ霜
別れ霜はにかみ笑ひの遺影かな
埼玉県     小安章代
別れ霜そろそろ始動老農夫
別れ霜廊下に猫の土足跡
クリスマスローズ別れ霜の頃盛る
鳥よけの風車回るや別れ霜
敷き藁にほどよき疲れ別れ霜
北海道     小殿原 あきえ
真夜中に危篤の知らせ別れ霜
別れ霜タイタニックは海の底
別れ霜納屋のかゝしのしかめ面
神奈川県     上田みつき
野の草に突然来たり別れ霜
春潮や海藻運ぶ波となり
飛花落花水に浮かびて行く大河
別れ霜一人住まいの家移り 
思案して休むに似たる別れ霜
大阪府     森 佳月
ホルン響く飛火野に降る別れ霜
大阪府     森 佳月
八百八橋欄干に置く別れ霜
別れ霜こども佇む滑り台
六地蔵赤い頭巾に別れ霜
別れ霜終着駅は物悲し
埼玉県     水夢
駅前の小さき花壇や別れ霜
別れ霜駅舎にかかる古時計
別れ霜小さきラヂオの天気予報
カラス鳴くごぼう畑に別れ霜
別れ霜都会の狭き空の下
鳥取県     瀬尾 柳匠
会ふまでの不安一掃別れ霜
別れ霜湖白々と明けにけり
これからの長き老後や別れ霜
蜘蛛の囲に絡めとられし別れ霜
別れ霜我ストーマを公言す
東京都     勢田清
別れ霜打ちひしがれし青菜畑
満天の星別れ霜無き祈る
別れ霜野原一面真白なり
茶畑の風車休まず別れ霜
夜の焚火農家恐れる別れ霜
埼玉県     石塚彩楓
綺羅星を天にとどめて別れ霜
別れ霜更地の増えて一丁目
別れ霜垣根に赤き実の覗く
別れ霜墓所は朝日にそぼ濡るる
別れ霜ひかる野鳥の水飲み場
香川県     辰野
天気図を読んで徹夜の別れ霜
別れ霜また見た夢に寝汗拭く
別れ霜異動の前の部署覗く
神奈川県     池田恵美
木の洞に何の命や別れ霜
忘れ霜うぶ毛わづかに夫の頬
食細き子を励ますや別れ霜
東京都     中田ちこう
気動車の音こもる街別れ霜
日がさして土手かけおりる別れ霜
神奈川県     猪狩鳳保
足音を立てぬまがつひ別れ霜
ぶつぶつとつぶやく田螺別れ霜
きららかに残る星影別れ霜
雛僧の今朝大くさめ別れ霜
軒下の雀おとなし別れ霜
千葉県     長谷川ぺぐ
別れ霜十年ぶりの大地震
長ながと風呂に浸かりて忘れ霜
しよひ籠でぎつくり腰や忘れ霜
千葉県     徳翁
別れ霜季の移ろいは待ったなし
言いかねてメモ一枚に別れ霜
軽風や旅に誘われ別れ霜
色褪せるあの日あの時別れ霜
暁闇一事を決し別れ霜
東京都     内藤羊皐
隣室の情事の如く忘れ霜
後の世の如く匂へる別れ霜
別れ霜喃語の女児のむづかりぬ
児ごとに異なる呱々や別れ霜
西武線遅れる報せ忘れ霜
徳島県     白井百合子
五剣山みる足元の別れ霜
菜園の萎れる野菜別れ霜
別れ霜明日の予報に気が気なり
病院食今日が最後の別れ霜
徳島県     白井百合子
友垣の訃報の朝に別れ霜
埼玉県     飛翔
美しく老いて生きたし別れ霜
草花に別れもあるや別れ霜
恩人を忘れてならぬ忘れ霜
老いて許されること増え忘れ霜
いつまでも昭和を思ひ忘れ霜
千葉県     柊二
一天に関東平野別れ霜
北海道     風花美絵
開花日にあはせるやうに別れ霜
自転車が線引く道に別れ霜
別れ霜花壇に白き花咲かせ
千葉県     風泉
・別れ霜化粧も淡く今朝の庭
・数多ファン護る茶畑や忘れ霜
・今朝までと寂しくもあり別れ霜
・畑一面畦ひとすじに忘れ霜
・朝日差すベンチにゆるむ霜の果て
奈良県     平松 洋子
制服を脱いで一時別れ霜
ガラス戸を磨く力や別れ霜
サラリーマン靴音鈍し別れ霜
埼玉県     宥光
日の思案して試歩の道別れ霜
大仏の手に包まるる別れ霜
別れ霜崩し漕ぎ出る渡し舟
別れ霜被る実生の撓りし芽
解体の陋屋の更地別れ霜
神奈川県     立野音思
祭壇の笑ふ遺影や別れ霜
満天の星瞬きて別れ霜
大阪府     鈴木三津
別れ霜禅堂へ踏む甃
赤牛黒牛晩霜の草千里
大阪府     鈴木三津
晩霜予報農やめてより幾年ぞ
月明に夜富士の影や別れ霜
朝六時別れ霜おく花時計
大阪府     鈴木千年
箒目の浮足立ちて別れ霜
春の霜降りて古墳のまばゆかり
暁光の絵馬のきらりと別れ霜
整然とうねる茶畑別れ霜
遠山の近々とあり別れ霜
広島県     老人日記
老いの坂逆らい登る別れ霜
子も親に言いたきことあり別れ霜
切り取りし肺のうづきや忘れ霜
扇風機の回る茶畑別れ霜
忘れ霜一足ごとに消えゆけり
大阪府     藤田康子
猫の額ほどの畑別れ霜
長き長き夜行列車よ別れ霜
別れ霜畑は猫の額ほど
兵庫県     岸下庄二
草庵の飛石五つ別れ霜
過疎村の捨て田を覆ふ別れ霜
別れ霜鼻緒の黒き宿の下駄
町中の地震の更地に別れ霜
籬垣(ませがき)の男結びに別れ霜
愛媛県     砂山恵子
テキストは過去形ページ忘れ霜
忘れ霜我に家あり家族あり
仔牛抱く実習生や忘れ霜
素手でとる豆腐のまろさ忘れ霜
光とも影とも成らず忘れ霜
埼玉県     飯塚璋
素つ気無く川は流れて別れ霜
埼玉県     飯塚璋
温泉のけむり横に流れて別れ霜
素つ気無く川は流れて別れ霜
別れ霜畑の片隅堆肥積む
ブラジル     玉田千代美
若れ霜神戸の港泣き別れ
別れ霜二度と逢へない夫逝きし
別れ霜思へば胸に祖母の顔
ブラジル     林とみ代
移住てふ戸惑ふ心別れ霜
農産物の手入れ急ぎぬ別れ霜
銅鑼響く波止の見送り別れ霜
疫病に翻弄されて別れ霜
別れ霜風の尖れる並木道
奈良県     堀ノ内和夫
鉢植ゑをそろそろ外へ別れ霜
大阪府     木山満
共白髪の誓虚しく別れ霜  
日の出かも夕日かもただ別れ霜 
茶や桑に害してならぬ別れ霜    
別れ霜束の間置かれ手水鉢
紅引けどやはり老人別れ霜 
神奈川県     守安雄介
後ろ手のビニールハウス別れ霜
別れ霜聖火リレーの始まりぬ
別れ霜コロナワクチン待ち遠し
別れ霜ビニールハウスのデジサーモ
別れ霜テレビドラマの盛り上がる
愛知県     西谷寿
早朝に別れ霜でて仕事いく
空晴れて鳥がさえずる別れ霜
待ち望む別れ霜去り晴れやかに
別れ霜負けずに遊ぶ子どもかな
おだやかな気分にさせる別れ霜
東京都     岩崎美範
地震十年今年も粛と別れ霜       (ないとと
遊学に旅立つ朝の別れ霜
父の忌やこの日忘れず別れ霜
復興の槌音ひびく別れ霜
行商女名残の霜を踏みしだく
兵庫県     岸野孝彦
別れたるわけも解らず別れ霜
さよならと告げられもせず別れ霜
退職の足跡残す別れ霜
忠魂碑白きベールの別れ霜霜
別れ霜踏みて無人の駅遥か
島根県     非掲載
不器用が農を継ぎけり別れ霜
深煎りのエスプレッソや別れ霜
白が好き言ってた母や別れ霜
別れ霜ゆっくり錆びる観覧車
黒土を撫でる手のひら別れ霜
埼玉県     北川清
忘れ霜 忘れてならぬ 親のこと
競走馬 走った後の 忘れ霜
取引で 売掛ふやし 忘れ霜
買い物を カード払いで 忘れ霜
孫装い カード手渡し 忘れ霜
大阪府     藤田康子
父の匂ひ納屋にそのまま別れ霜
死ぬ日までみな一人旅別れ霜
ブラジル     林とみ代
銅鑼響く波止の見送り別れ霜
移住てふ戸惑ふ心別れ霜
別れ霜風の尖れる並木道
疫病に翻弄されて別れ霜
別れ霜の被害恐るる農家かな
長野県     木原登
手を振つて友ゆく霜の名残かな
黒土の畝かがやかす別れ霜
まつさらな切株のあり忘れ霜
晩霜の畑を啄む群雀
桑畑落葉松林霜の果
神奈川県     嶋村博吉
別れ霜踏むまだ自粛解けぬ日の
別れ霜野に広々と牛放つ
新潟県     近藤博
季は移りなれどまた降る別れ霜
けじめなく止むとも思へぬ別れ霜
目覚むれば庭にべつたり別れ霜
別れ霜これにて果つるや季は移り
降り止みて庭にそちこち別れ霜
愛知県     斉藤浩美
ようやくに入山ゆるされ別れ霜
別れ霜校歌の中の沃野にも
野仏の満身創痍別れ霜
別れ霜蝦夷地はどこも沃野なる
別れ霜ピッケル立てて墓標とす
宮城県     非掲載
天よりの響く言霊別れ霜
足音も陰も無きしや別れ霜
合掌や闇を重ねて別れ霜
別れ霜心残りの夫の黙
父逝くや賛美歌ふるえ別れ霜
静岡県     城内幸江
断捨離の決心つかず別れ霜
かき卵のふんわり浮び別れ霜
パンプスの足軽やかに別れ霜
別れ霜緑と話す露天風呂
別れ霜足に馴染まぬ登山靴
宮城県     林田正光
微笑みの遺影に会釈別れ霜
晩節を穢すことなき別れ霜
別れ霜秘湯の宿を守りをり
夜勤明け踏むに踏まれぬ別れ霜
旅先の友となりけり別れ霜
東京都     猪俣ま悠
別れ霜少しやつれた里程標
なだらかな坂続きおり別れ霜
カステラを切るや無口の別れ霜
別れ霜夜の匂いを残しおり
遠吠えの高く響けり別れ霜
東京都     長岡馨子
育苗のビニルハウスに別れ霜
千葉県     伊藤博康
朝一番納屋の扉の別れ霜
立て掛けし榾木に薄く別れ霜
これまでに抜かりは無いか別れ霜
神奈川県     川島欣也
葬送の轍に残る別れ霜
ベランダの鉢に弧かけ霜恐れ
別れ霜夜陰に刻む時の針
遅れ霜瑞穂の国の日を跳ねる
君は逝きはやととのせや忘れ霜
神奈川県     塚本治彦
別れ霜傾きて立つ開墾碑
別れ霜底の底なる峡の村
石ころの混じる山畑別れ霜
山畑の立小便や別れ霜
別れ霜牛の尿に湯気立ちて
三重県     後藤允孝
生薬の匂ふ石臼別れ霜
別れ霜息整ふる一の弓
擦るマッチ焔小さき別れ霜
三重県     後藤允孝
折り鶴は羽を尖らせ別れ霜
進みべき道はすぐそこ別れ霜
京都府     村田稔子
別れ霜 茶畑に一人たたずむ
別れ霜 茶畑に咲く 赤たすき
別れ霜 茶娘の指 軽やかに
東京都     笹木弘
力石を持ち上げしごと別れ霜
屋号で呼び合ふ畑に別れ霜
言葉無く解けて儚き別れ霜
単身赴任の荷の届く別れ霜
豆乳に甘みの増える別れ霜
東京都     二川昌弘
別れ霜それでもマスクつけ歩き
別れ霜恋の始まる予感して
別れ霜コロナ去り行くとき告げて
別れ霜太公望の笑顔増え
別れ霜空晴れ渡り鳥は飛び
広島県     永野昌人
石段に湿りし跡や別れ霜
別れ霜絵の具のチューブ絞り出す
別れ霜掃くや畠の竹箒
良く晴れて風の無き朝忘れ霜
鎌の刃に薄き錆あり別れ霜
沖縄県     稲福達也
煙草の火映す窓辺の別れ霜
別れ霜思ひ入ること告げぬまま
朝光に幽けき月と別れ霜
滋賀県     船岡房公
保津峡のトロッコ列車別れ霜
寒冷紗被りし畑や別れ霜
別れ霜四足門ある隠れ里
東京都     右田俊郎
別れ霜鍬の手入れをする農夫
東京都     右田俊郎
花種の袋を選ぶ別れ霜
農小屋の模様替えする別れ霜
近況をメールで告げる別れ霜
別れ霜作付けプランあれやこれ
兵庫県     髙見正樹
別れ霜始発電車に急ぐ道
回り道草地を阻む別れ霜
別れ霜朝体操に人疎ら
別れ霜靴跡のこる歩道橋
真っ新な晩霜の畑鍬を打つ
岡山県     岸野洋介
子を叱る声の筒抜け別れ霜
別れ霜新入り増えしケアハウス
別れ霜遺影の妻はいつも笑み
別れ霜踏んで傘寿の一人旅
別れ霜新茶葉まもるタイヤ焚き
三重県     北村英子
出勤に神仏に依る別れ霜
赤色のアイライン引く霜の果
有休の同じふたりや霜の果
通勤の自転車重く別れ霜
別れ霜繰り返したる英単語
神奈川県     沼宮内薫
別れ霜今年最初の挫折かな
二度三度うつかりもあり別れ霜
朱の橋ほんのり白し別れ霜
父の顔血の気も失せる忘れ霜
何事もなきよに消える別れ霜
大阪府     津田明美
別れ霜 人の噂の 七十五日
老農の 畝真っ直ぐに 別れ霜
別れ霜 明日解体の 母の家
大阪府     津田明美
別れ霜 光芒放つ 曠野かな
駆け足で 乗る始発バス 別れ霜
埼玉県     岸保宏
妻の家どこに座るも別れ霜
終活の靴底減りし別れ霜
オンライン少し薄着や別れ霜
滋賀県     別役昌子
テキストは『今日の伊予弁』別れ霜
残りしは吾と猫のみに別れ霜
禁煙となりしチロルや別れ霜
別れ霜あの子もつまり都会へと
別れ霜「だんだん」と挨拶のこゑ
神奈川県     龍野ひろし
巌門の尖りし波や別れ霜
霊峰に法螺の響くや別れ霜
別れ霜わが学び舎はダム底に
別れ霜いまは灯のなき商店街
東京都     佐藤富幸
別れ霜足跡残す庭の芝
けもの道笹分け入りぬ別れ霜
庭先に届く朝刊別れ霜
庭の隅鬼門赤石別れ霜
サンダルに足先濡れし別れ霜
東京都     佐藤美智子
菜園に藁敷く父や別れ霜
ぬくぬくと暮らす日々打つ別れ霜
ひそやかに出掛ける朝の別れ霜
隙間穴入りし猫の背別れ霜
凶御籤結ぶ枝先別れ霜
滋賀県     中島光汰朗
みづうみの波静かなり別れ霜
河川敷に広がる畑別れ霜
山裾につづく茶畑別れ霜
滋賀県     中島光汰朗
チエンソーに散りゆく木屑別れ霜
月光に比叡の尖り別れ霜
埼玉県     小玉拙郎
別れ霜連れて鉢植え日の下へ
六畳のレンタル畑の別れ霜
移る陽に消える木陰の別れ霜
谷間の小畠今日の別れ霜
千葉県     峰崎成規
別れ霜昔話も底をつき
レコードに昭和のノイズ別れ霜
別れ霜栞褪せたる中也の詩
別れ霜見舞ひて後の涙かな
姉老いて妣の面ざし忘れ霜
東京都     松本征枝
悔やまるる言葉の綾の別れ霜
別れ霜一期と義弟決めいしか
弟の先に逝きしや別れ霜
格言の如き降りたる別れ霜
学ぶれど農は難儀よ別れ霜
愛媛県     山家志津代
ささくれを舐める舌先別れ霜
軽トラに軍手三双別れ霜
貰い子と聞かされし祖母別れ霜
胎児流す腰水の川別れ霜
葉タバコの三角帽や別れ霜
東京都     豊宣光
別れ霜天が与えし句読点
重ね着に戻りたる朝別れ霜
逝きし友「別れ霜」なる詩を遺し
三年の恋は終わりぬ別れ霜
別れ霜原発被害まだ消えず
三重県     平谷富之
別れ霜時を告げたるものとして
福岡県     深町明
きのふけふ素面の霜の別れかな
晩霜や星を見やうと星野村
別れ霜片恋なきにしもあらず
金山や今朝しんかんと忘れ霜
晩霜や八女の奥地に澄雄句碑
神奈川県     海野優
別れ霜親しき人と誤解かな
忘らるる夜干しの白き別れ霜
別れ霜高層階に変はる街
北海道     飯沼勇一
別れ霜山小屋はまだ闇の中
山ひとつ越せば信濃は別れ霜
「黙」の字の目だつ旅館や別れ霜
静岡県     大澤定男
古稀までは白黒付けて別れ霜
持重るライカと父と別れ霜
百数ふ祖母と女湯別れ霜
指切りの母の身持ちや別れ霜
ため息の深きをさ中別れ霜
茨城県     小松崎孝志
別れ霜プロペラ廻る畑かな
「注意報」畑に急ぐや別れ霜
今日からは余生と決める別れ霜
グランドの陰に残るや別れ霜
白球と走る少女や別れ霜
東京都     山﨑勝久
珈琲の少し濃いめや別れ霜
桟橋に名残の霜の矢切かな
茶畑にプロペラ廻り別れ霜
九十九折りのぼるマイクロ別れ霜
遅霜の予報伝へるテレビかな
神奈川県     矢神輝昭
反り合わぬ友の転校忘れ霜
神奈川県     矢神輝昭
難産や子牛生まれて忘れ霜
峰近し足元軽し別れ霜
疳の虫霜の別れの虫封じ
お百度や満願迎へ忘れ霜
愛知県     新美達夫
忘れ霜添ひ寝の妻の深眠り
深刻なことをさらりと忘れ霜
終着がそのまま始発別れ霜
東京都     岩川容子
別れ霜いつしか身内遠くなり
別れ霜納屋に並びし茶摘み籠
草陰の虫のあわれや別れ霜
別れ霜草の匂いを残し消ゆ
神奈川県     原川篤子
句碑あまた鞍馬の山の別れ霜
別れ霜ほつほつ芝に灯をともす
竹箒の光(かげ)の欠片や別れ霜
家並の黒き甍や別れ霜
塔見えても磴のけはしき別れ霜
愛媛県     加島一善
最後とは知らずに踏みし忘れ霜
晩霜や牛乳瓶の跳ねる音
別れ霜はちきん未だ飲んでをり
晩霜を寄せぬプロペラブォ~ンブォ~ン
別れ霜やけに老けたる豆腐売り
茨城県     長洲研志
デイサービスの迎え来て別れ霜
宣言の2度目の解除別れ霜
2年目の田舎暮らしや別れ霜
習い事2年を過ぎて別れ霜
隣人の庭を掃く音別れ霜
埼玉県     守田修治
床上げの兆しとなるか別れ霜
埼玉県     守田修治
別れ霜気象予報士にっこりと
別れ霜新野球部もいきいきと
投薬の二つも減って別れ霜
別れ霜パジャマざぶざぶ洗濯す
福岡県     西山勝男
発心の札所打ち終え別れ霜
起き抜けの土と向き合ふ別れ霜
結願の霊地へ一歩別れ霜
坊跡の更地となりし霜の果て
神奈川県     佐々木重夫
二階の窓に射す光別れ霜
朝日さすカーテン眩し別れ霜
影をつくる里の楠別れ霜
別れ霜ふとき欅のちひさき葉
静止する夜明けのポタジェ別れ霜
東京都     水野邦彦
汁椀の青菜貴し別れ霜
笑い合い園児らは踏む春の霜
蹴飛ばした布団探すや別れ霜
春の霜とけるを待たん泥あそび
神奈川県     松野勉
ブランコの赤い手袋別れ霜
神奈川県     髙梨裕
防波堤漁り小舟や別れ霜
寂光院明けの水音別れ霜
爛漫の空跡形の別れ霜
雲水の旅の衣や別れ霜
下京の夕残の雨や別れ霜
東京都     豊島 仁
釣り船や錆びた錨に別れ霜
ふるさとは用心深き別れ霜