俳句庵

季題 5月「夏木立」

  • 医療従事者瞬時を憩ふ夏木立
  • 神奈川県     志摩 比魯 様
  • 夜は星と何を話すか夏木立
  • 大阪府     津田 明美 様
  • 献血を終へて帰るや夏木立
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 口ずさむゲーテ・ハイネや夏木立
  • 東京都     安藤 ゆき子 様
選者詠
  • また一つ忌の日重ぬる夏木立
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 五月の題は「夏木立」です。夏季の青葉若葉を茂らせた木立を称します。一本の場合は「夏木」です。今年は春の開花が早かったせいか、若葉青葉もいつもより緑が濃く感じられます。この季語の句には、<先づ頼む椎の木も有り夏木立芭蕉>があります。対象の夏木立の堂々とした姿が見えて来るようです。早速皆さんの「夏木立」を拝見して参りましょう。多数の佳句がありました。
 優秀賞の志摩比魯さんの句。新型コロナウイルスの惨状は、日々の新聞、テレビで報道され、その被災者の多さ悲惨さには、心痛する毎日です。しかしその被災者を看取る医療従事者の皆さんの、ご苦労、ご心労を忘れることはありません。「瞬時を憩ふ」に、只ただ頭を下げ、安全を願うばかりです。
 津田明美さんの句。擬人化された童話を見ているような句です。天上の星と地上の夏木立を結ぶ「話し」。句を見る人も、ひと時、その話しの中に溶け込みそうです。対象が余りにも拡大過ぎますが、その拡大さを通う「心」を、ふと感じ取る思いがあります。
 井手浩堂さんの句。この「献血」は今回のコロナ禍と結ばれるものでしょうか。献血の用途にも多々あります。しかし献血という血液の提供は、人の生命の確保に通じます。中七の「帰るや」に安堵の思いが感じられます。「夏木立」が活きています。
 安藤ゆき子さんの句。若々しい句です。「ゲーテ」が登場し、「ハイネ」が出て来ます。ゲーテはドイツの詩人、作家。「若きウェルテルの悩み」を読んだ人は多いでしょう。ハイネもドイツの詩人です。「口ずさむ」に思わず読み手の唇も開きます。この句も下五の「夏木立」が効果的です。
 今月の佳句。<校風は文武両道夏木立 砂川恵子>。<隣る木と影を一つに夏木立 木原登>。<病棟の静けさ包む夏木立 峰崎成規>。<牧牛の声伸びやかや夏木立 井内胡桃>。それぞれの夏木立に個性があります。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。