俳句庵

季題 6月「昼寝」

  • 遠山の雲をみてゐる昼寝覚
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 潮風に覚めし昼寝や旅の宿
  • 千葉県     伊藤 順女 様
  • 昼寝覚はたと農夫の顔となる
  • 福岡県     西山 勝男 様
  • コロナ禍や昼寝の吾子のいとほしき
  • 神奈川県     髙梨 袴 様
選者詠
  • 昼寝覚きのふに変はる何もなし
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 六月の題は「昼寝」です。傍題に「三尺寝」があります。これは、日脚が三尺移るだけの僅かな時間の昼寝を言います。一日二十四時間の中の、寸時とも言うべき生活の部分の名です。しかし皆さんの句を見ていると、その「生活の部分」の中に、それぞれの作者の四季が浮かんでいるような作品が多いでした。
 幼児から老夫婦まで登場する、多彩な昼寝です。早速拝見しましょう。
 優秀賞の井手浩堂さんの句。自宅の居間での景でしょう。開け放った部屋で昼寝から覚めた作者。その窓の遠くにある山に、一ひらの雲の掛かっているのを見ています。それだけのことですが、俳句の形として見ると、それは一つの風景となっています。生きた風景です。「昼寝覚」が善く効いています。
 伊藤順女さんの句。海に近い旅館です。ホテルというより、「宿」の字の似合う「旅の宿」です。窓から吹き入る潮風に、ふと目覚める作者。一瞬「旅」を忘れるような思いに居ることに気付きます。その平常心こそ、「旅の宿」の似合う俳句です。
 西山勝男さんの句。掲出句の前に、<昼寝して戦のことを忘れけり>の句があります。第二次世界大戦のことでしょう。「昼寝覚」の句、「はたと農夫の顔となる」が善く出来ています。この思いこそ、まさに「昼寝覚」の思いです。時の流れが善く感じられます。
 髙梨袴さんの句。世界中に蔓延している新型コロナウイルスは、いつまで続くことでしょうか。更なる新型も発生しているそうで、不安は弥増すばかりです。今、「昼寝の吾子」を見ながら、そういう思いに更ける作者です。「昼寝の吾子の愛ほしき」の思いは、善く分ります。
 今月の佳句。<普請場に昼寝二人のヘルメット 德翁>。<傍に母のゐるかに昼寝覚 原川篤子>。<ふるさとの広き座敷の昼寝かな 龍野ひろし>。<風鐸のことりと昼寝覚めにけり 鈴木三津>。多様な昼寝の中に、それぞれの生活が息衝いています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。