俳句庵

季題 7月「夕焼」

  • 夕焼に生くる喜びの手を合はす
  • ブラジル     玉田 千代美 様
  • 海に向く棚田千枚夕焼くる
  • 兵庫県     岸下 庄二 様
  • 夕焼けや町工場の灯がともる
  • 兵庫県     岸野 孝彦 様
  • ご飯よと母さんの声夕焼空
  • 三重県     後藤 允孝 様
選者詠
  • 天上の余力を明日に夕焼くる
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 七月の題は「夕焼」です。日本の四季は、春夏秋冬それぞれの趣を呈し、生活環境を整えています。夕焼は四季を通して生活の中にありますが、俳句では「夕焼」と言えば夏を指す季語です。夏の夕焼の鮮明さ、印象の深さには、他の季節に優るものがあります。今月の皆さんの出句に、それは、印象深く表現されていました。一部仮名遣を直した句もあります。では拝見して参りましょう。
 優秀賞の玉田千代美さんの句。真摯な思いの句です。「生くる喜び」がそれを善く表しています。今日一日を、充実したひた向きの思いで過ごした。それを感謝して、この「夕焼」に、「生くる喜び」の手を合わす、という謝意の溢れる作品です。茜に染まる夕焼の空が、見える思いの句です。
 岸下庄二さんの句。「棚田」は、急な傾斜地を耕して、階段状に作ってある田です。千葉県の南房総にもあります。同様海に向いています。段差のある田畑の造形は、四季それぞれの馴染を見せます。「海に向く棚田千枚」が、その景を善く表しています。
 岸野孝彦さんの句。「町工場」、懐かしい呼名です。その町工場は、夕方になると工場に灯が点り、残業に入るのでしょう。作っている品は何でしょうか。規模としては大きくはないでしょうが、その町とは馴染の深い歴史のある工場と思います。「灯がともる」に、その思いが出ています。
 後藤允孝さんの句。一転、間近に母の呼声を聞く思いのする句です。夕方、路地で遊んでいる子供たちへ、「ご飯よ、帰りなさい」と呼ぶ母。仰ぐ西空には、茜色の夕焼雲が架かっています。「母さんの声」が善いですね。やや時を遡った思いのする、なつかしい句です。
 今月の佳句。<夕焼の高層階に母独り 金子加行><夕焼に祈る平和はいまだ来ず 西谷寿>。<夕焼や勅額の文字きはやかに 鈴木千年>。<堤防のふたりを包む大夕焼 加島一善>。高層階、平和、勅額、堤防、それぞれの背景を善く活かした句です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。