俳句庵

季題 8月「八月」

  • 玉音の今なほ耳朶に八月来
  • 新潟県     近藤 博 様
  • 母おはす八月の空縹色
  • 東京都     伊藤 訓花 様
  • 八月や平和の鐘をつく小女
  • 東京都     豊 宣光 様
  • 八月のオリンピックや世の平和
  • ブラジル     林 とみ代 様
選者詠
  • 牛の眼も雲も八月力充ち
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 八月の題は「八月」です。今年の立秋は八月七日ですが、学校の夏休みは八月中が一般です。しかし八月は普通には夏の季節として生活しています。その八月は私たちにとって、「終戦日」という大きな過去をもたらしています。今回の皆さんの出句も、大方がその「終戦日」に依る作品が多いでした。注意点として、「や、かな」・「や、けり」の句が三句ありました。注意しましょう。
優秀賞の近藤博さんの句。この思いは、或る年齢層の人たちには、頷くことの多い作品です。「玉音放送」は辞書にも出ています。私はその時小学校六年生でしたが、昭和天皇の抑揚のある放送は、今も記憶に残っています。多くの人にとって、八月という月は、玉音放送と結びつくことが多いでした。
伊藤訓花さんの句。母堂は八月に逝去されたのでしょう。「八月の空」が、的確です。
「縹色(はなだいろ)」は、薄い藍色、上五の「母おはす」は共鳴を呼ぶ表現です。
豊宣光さんの句。毎年八月六日の広島忌と八月九日の長崎忌には、それぞれの地で「原爆忌」が催されます。今年の広島忌では、小学生の男子女子の二人が司会をしていました。平和の鐘をつくのも同じです。被爆七十六年、核の廃絶への思いは今では世界に及んでいます。折からのオリンピック開催と共に、世界の目が日本に集っている八月でした。
林とみ代さんの句。右の句で触れた東京五輪は、八月八日に一七日間の幕を閉じました。世界二百五か国、選手一万人余の皆さんの参加の許、オリンピックは連日テレビで放映され、人びとに平和の安らぎを充分に味わって貰いました。まさに「世の平和」です。
今月の佳句。<砂文字を消す八月の波がしら 津田明美>。<祈る日の多き八月来りけり 西山勝男>。<八月や正座して読む手記二冊 いちご一会>。<八月や万年筆で書く手紙 池田恵美>。背景の八月は、それぞれテーマは異なりますが、一貫して「八月」に対する思いがしっかりと感じられます。三句目の手記は内容の深さが読み取られ、四句目の万年筆は今では懐かしく思われます。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。