俳句庵

季題 9月「梨」

  • 朝市の屋台に香る日本梨
  • ブラジル     林 とみ代 様
  • 牛の声風にのり来る梨畑
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 梨ひとつ剥いて小昼の老い二人
  • 沖縄県     稲福 達也 様
  • 地方紙にくるまれ並ぶ箱の梨
  • 埼玉県     小玉 拙郎 様
選者詠
  • 梨畑や残んの梨の日を挙る
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 九月の題は「梨」です。辞書にもある通り、日本の中部以南の地に自生する原種から、果樹として改良されました。俳句では、「梨」と言えばその実を指します。秋季です。春に白い花をつけます。「梨の花」です。柿や栗のように、秋に実の生ることは周知の通りです。決して目立つ季語ではありませんが、私たちの生活によく合った季語と言えましょう。
皆さんの作品も、そういう句が多いでした。
優秀賞の林とみ代さんの句。「日本梨」は品名であると共に、「日本の梨」の思いもあります。作者はブラジル在住。出掛けた朝市の屋台に梨が置いてあるのを見て近寄ると、それは正に「日本梨」です。しかも新鮮な香りをしています。「屋台に香る日本梨」に、万感の思いが託されています。
井手浩堂さんの句。梨畑に牛の声を置いた配置が善いです。高原の梨畑、遠くに山並が見えます。広々とした牧場に、数匹の牛が草を食んでいます。時折鳴く牛の声、それが梨畑に居る作者に聞こえて来るのです。伸びやかな風景が眼に見えるようです。「風にのり来る」が生きています。
稲福達也さんの句。「小昼」はこの句の場合、「おやつ」でしょうか。「老い二人」とありますが、この「老い」は自称です。しかし「老い二人」が善く効いています。この二人は作者ご夫妻です。「梨ひとつ」が、それを善く受けています。微笑ましい句です。
小玉拙郎さんの句。スーパーなどで善く見る景です。到着した梨箱が幾つか積まれている脇に、蓋をあけた箱があります。店先に並べるために取り出した梨の残りは、新聞紙にくるまれています。その「地方紙」が、作者の目にとまったのです。梨にもとりどりの景があります。これは初梨の、ニュース性のある句と言えましょう。
今月の佳句。<百寿への母へ小さく梨を割く 金子加行>。<梨を剥く介護の夜の静寂かな 伊藤訓花>。<座りよき洋梨ひとつ表紙絵に 船岡房公>。<梨食ふやふと君とゐる思ひして 亀山酔田>。百寿の母、介護の夜、表紙絵のスケッチ、思い出。それぞれの景に梨が善く納まっています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。