俳句庵

季題 11月「立冬」

  • 立冬の列に並びて接種かな
  • ブラジル     林 とみ代 様
  • 樹々はみなゐずまひ正し冬に入る
  • 大阪府     津田 明美 様
  • 立冬や庭師の作る空広し
  • 神奈川県     沼宮内 薫 様
  • 産声を待つ間の窓や今朝の冬
  • 宮城県     佐藤 沙なゑ 様
選者詠
  • 立冬のひと日静けき海の色
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

十一月の題は「立冬」です。今年の立冬は十一月七日でした。皆さんから、取り取りの「立冬」の句が集まり、選句にも励みが出ました。選は全五〇四句を丹念に見て書き抜き、次にその書き抜いた句を再三照合して、二十句を選び、その中から選出しました。
注意したい点があります。一つは同じ句が上下に並んでいる句です。又、先般も書きましたが、や、かな、けりの語が重複した句です。切字の重複は不可です。ご注意ください。
優秀賞の林とみ代さんの句。一昨年発症のコロナ禍は、十一月に入って幾らか減少して来ましたが、まだまだ注意が必要です。予防接種も来年早々から第三回目に入る、という予報があります。この句の場合は、第二回目と思います。世界の注目する接種です。
津田明美さんの句。上五の「樹々はみな」、が樹木の茂り立つ、作者の居場所を明示しています。中七の「ゐずまひ正し」も善い表現です。擬人化が善く効いています。更に下五の「冬に入る」も肯定的で詠み易いです。
沼宮内薫さんの句。この句に詠まれている庭は、宅地としてはかなり広い方と思います。春から夏にかけて、伸び切った枝を切るべく、庭師を呼ぶ作者。庭に備えた小径の左右には、庭師の剪定した木々が並んでいます。剪定の終った庭は、今まで梢で見えなかった空も、くっきりと見えて来ました。まさに「空広し」です。「庭師の作る」がみごとです。「立冬や」も効果的です。
佐藤沙なゑさんの句。産院での景でしょうか。「産声を待つ間の窓」が全てを語っています。初産なら尚更の事です。この句を読む人は、女性なら我が身の過日を思い、男性なら妻の過日を思い、感激の日に思いを致すことでしょう。「今朝の冬」も立派です。
今月の佳句。<一望の北信五岳冬に入る 木原登>。<恙なく暮らす家族や冬に入る 右田俊郎>。<立冬と呟き鰥夫飯をたく 岸野洋介>。<立冬や青き空見る桶の水 岱鵬>。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。