俳句庵

季題 12月「年忘れ」

  • コロナ禍やひとり手酌の年忘れ
  • 神奈川県     川島 欣也 様
  • 湯治場に妻とふたりの年忘れ
  • 東京都     岩崎 美範 様
  • 一升瓶どんと真中に年忘れ
  • 大阪府     津田 明美 様
  • 忘年会終はれば主婦の顔となり
  • 東京都     岩川 容子 様
選者詠
  • 年忘れ父愛飲の酒杯手に
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 十二月の題は「年忘れ」です。傍題は「忘年会」。しかし語感として、忘年会は複数の集まり、年忘れは数に関係なく、一年を回顧する、と受けとられます。如何にも俳句らしい題名です。皆さんの作品には多様な「年忘れ」がありました。今年は更に、折からのコロナ禍のため、中止の止むなきに到ったのも多かったと思います。「年忘れ」を身近に感じる年末だったと思います。
優秀賞の川島欣也さんの句。「コロナ禍」を上五に置いたのが正解です。中七、下五の言葉と善く照応しています。「手酌」の句は他に幾つかありましたが、時局との対応が、この句を成功させています。
岩崎美範さんの句。「妻とふたりの年忘れ」が善いですね。会社勤めの夫の忘年会の帰りを待つ妻ではなく、「妻とふたりの」は、如何にも現代風です。「湯治場」も善いです。素直に受けとれます。
津田明美さんの句。一読景が浮かんで来ます。仲間同士の忘年会でしょう。「一升瓶どんと真中に」に、四、五人の仲間と、半分ほどになった一升瓶の酒のゆらぎが、大写しにされています。たまには、こういう即物的な句も善いでしょう。
岩川容子さんの句。この句、大方の主婦にとって、正にその通りの句です。年に一度の大勢参加の忘年会も果て、帰路の同じ仲間と乗りかえた電車の中、話題はいつしか、一家を切りもりする主婦の顔になっているのです。俳句の奥ゆきは深いです。同時に、一句に使う言葉の選択も、その深さを補足します。この句の「主婦の顔」もその一つです。
今月の佳句。<忘年会抜け出てしばし星仰ぐ 木原登>。<寮歌もておひらきとなる年忘れ 森佳月>。<誰一人欠けず古稀過ぐ年忘れ 亀山酔田>。<独り酌む越の銘酒や年忘れ 西山勝男>。

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