俳句庵

季題 2月「初午」

  • 初午の疫病祓ふ願ひかな
  • ブラジル     林 とみ代 様
  • 初午や父の寄進の朱の鳥居
  • 神奈川県     川島 欣也 様
  • 初午や海を見下ろす赤鳥居
  • 兵庫県     高見 正樹 様
  • 一の午二の午過ぎて友の忌来
  • 長野県     木原 登 様
選者詠
  • 古里はいま入試時三の西
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の季節は「初午」です。辞書には次の様に解読してあります。「二月の初の午の日、京都の伏見稲荷大社の神が降りたのがこの日であったといい、全国で稲荷神社を祭ります。この日を蚕や牛馬の祭りとする風習もあります」。伝統のある祭礼です。与謝蕪村もこう詠んでいます。<初午や物種売りに日のあたる 蕪村>。皆さんの句の選評に入ります。
優秀賞の林とみ代さんの句。今やコロナ禍は世界中にその猛威を蔓延し、新種をふやしています。この句の思いは、異なる国に於ても同感です。時事俳句としても、一本の筋が通っています。
川島欣也さんの句。「父の寄進の朱の鳥居」が、威を張ることもなく、ありのままに述べられているところに、共鳴を呼びます。その分余計にふところの深い句となっています。見上げる参拝人の思いの通った鳥居です。
高見正樹さんの句。「海を見下ろす赤鳥居」の姿が美事な風景を成しています。海との色彩の対比が善く納っています。参詣人のしばらく途絶えた一瞬の間、「海を見下ろす」朱の鳥居の姿には、まさに神を祀る社の姿が感じられます。
木原登さんの句、故友の命日は過ぎゆくのも早いです。一の午、二の午と日常に追われているのも世情です。その世事の一つである友の命日は、決して忘れてはいないのに、時は過ぎ去っていることが多いです。その喜怒、哀楽の 中にこそ、人世はあり得るのだと、諾う作者の姿が見えて来ます。
今月の佳句。<礼装の市議駆け付くる一の午 新美達夫>、<初午や農の大事を願ひつつ 村田正光>、<懐かしきしんこ細工や午祭 岩川容子>。<狐日の女行き交ふ一の午 別役昌子>、さまざまな光景が行き交うのも、初午の姿です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。