俳句庵

季題 3月「燕」

  • 燕来る父の表札そのままに
  • 兵庫県     岸下 庄二 様
  • 特攻隊のかつての空やつばくらめ
  • 福岡県     西山 勝男 様
  • 燕飛ぶ空を水田に映しつつ
  • 東京都     勢田 清 様
  • 電線に疲れを癒す燕かな
  • ブラジル     林 とみ代 様
選者詠
  • 江戸川の流れ安けき飛燕かな
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

今月の季題は「燕」です。つばくろ、乙鳥とも書きます。春期に渡来して、秋期に南方に帰ります。春に見る鳥の中では、最も親しく見かける小鳥です。秋、南方に帰る燕は、「帰燕」と言い、秋の題となります。燕には生活が伴っています。燕は私たちの暮しの中に馴染んでいます。子燕は夏期です。今月も燕の多様な有り様を拝見致しましょう。
優秀賞の岸下庄二さんの句。作者は故郷を遠く離れた土地に生活しているのでしょう。久しぶりに帰郷した我が家には、かつての日の様に、父の表札が残っていました。その時の思いは、経験した人でないと分りません。かつての日々が、瞬時に心に点るのです。時の移りと、心の動きを、善く十七文字に収録してある句と言えましょう。
西山勝男さんの句。終戦の頃を遠く回想しての句と思います。私の生家も九州南部にあります。原句の「特攻」は「特攻隊」としましょう。「特別攻撃隊」の略です。相手の空母等に体当たり攻撃を行なった攻撃隊です。私もこの句を見て、多様なことが思い出されて来ました。「つばくらめ」が輝いています。
勢田清さんの句。広い水田の畦に立っていると、頭上を幾羽かの燕が飛んでいます。その姿が一枚の絵のように見えます。この句はその景が水田に写されていると、視線を変えて詠んだ句です。壮大な風景句です。
林とみ代さんの句。数羽の燕が白い腹を見せながら電線に止っているのは、良く見る景です。その燕を、疲れを癒す燕と捉えたのは何時頃からでしょうか。燕には懐旧の思いが連想されます。善い思い出の連想です。
今月の佳句。<つばくらめ急ぐことなき旅の宿 砂山恵子>、<古希過ぎてわれも老いたる燕かな 豊宣光>、<棟上げの祝いの空や初燕 岩川容子>。<つばめ来て少し元気になりし村 右田俊郎>

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。