俳句庵

季題 4月「松の花」

  • みな同じ雲を見てゐる松の花
  • 滋賀県     東野 眞知子 様
  • 糟糠の妻特養へ松の花
  • 神奈川県     川島 欣也 様
  • 見送りの厚き子の手や松の花
  • 東京都     佐藤 美智子 様
  • 松の花野点の席にこぼれけり
  • 岡山県     岸野 洋介 様
選者詠
  • 逝きし兄と語りゐるかに松の花
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

今月の季題は「松の花」です。松の花と言っても、海棠や杏の花のように華やかに立木を飾る花ではなく、歳時記で見るように、新芽の上に、紫色の雌花が咲き、雄花は新芽の下部に薄茶色をして出て、やがて雄花の花粉は風に散ります。梅や桜のような華やかな「木の花」とは異なります。しかし、樹木の生命という点から観察すると、正しく「花」として成長する「松の花」です。皆さんの出句は、何時もより少ないでしたが、「松の花」という対象を、しっかりと捉えた句が多くありました。早速拝見しましょう。
優秀賞の東野眞知子のさんの句。この句、「松の花」という季題の、最も普遍的な写生句と言えましょう。それはこの題の季寄せを見ると納得します。然しこの句には、その平均的な写生句に留まらないものがあります。それは上五の「みな同じ」です。この上五で句に広がりが出て来ます。それはまた、「松の花」の本質に通うものと言えましょう。
川島欣也さんの句。この句の善さは、「糟糠の妻」です。長い間連れ添って苦労を共にして来た妻、の意です。その妻が、「特養に入居することになった」と言う句です。「特別養護老人ホーム」は、老いて心身の障害を持つ入居者のための施設です。作者も米寿近い古老です。その無念さが善く分かる句です。
佐藤美智子さんの句。この句を見ていると一つの景が浮かびます。東京に住む作者が離れ住む子息の家に行き、今まさに駅舎で、子息と別れを告げる場面です。「厚き子の手」が光っています。別れの握手に、子息の成長を感じ取ります。「松の花」が善く効いています。
岸野洋介さんの句。この句は一転、公園の施設での野点の景です。今日は茶会、点在する松に、松の花が咲き出しています。多分、毛氈など敷いた野点の「座敷」でしょう。近くの松の木から「松の花」がこぼれています。風情に満ちた野点です。尚、「のだて」には両用の文字があります。野立と野点、この句の場合には野点です。確認が必要です。
今月の佳句。<防風林ところ余さず松の花 近藤博>、<百年を村出ぬ家や松の花 金子加行>、<若き日の夢に遊びて松の花 西山ひろ子>。<華やぎのなきが風情や松の花 鈴木千年>

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。