俳句庵

2月『芹(せり)』全応募作品

(敬称略)

芹摘みて清しき香身にまとふ
せせらぎに洗へば芹の白さなほ
野良仕事終へし夫婦や田芹摘む
妻と来て野の香に遊ぶ芹日和
ばばの椀フリーズドライの芹たんと
農の嫁群れ競り生うる芹を摘む
芹を摘む背中ばかりの一家族
漫歩せる田路ついでに芹を摘み
平凡な暮らしが好きよ芹洗ふ
俎板に載せれば芹の香のしきり
芹の香の胡麻和にしてまた香り
芹摘めば息吹ける水の滴れり
初芹のかほりほのかや箸のさき
季の香りむんずと掴み芹を摘む
芹摘みの後ろ手で曳く田舟かな
「これ自生」芹を指差す朝市女
育ちゐしコップの芹の根の白し
野の香り厨にほのか芹刻む
芹の香の峡の小字や嬰の声
芹摘みてけふの献立決まりけり
せりなずなごぎょうはこべら母の声
雅味人と分け合い芹かいな
芹の水うごかぬ味に箸運び
冷水に袖まで漬けて芹を摘む
祖母の背な芹の香立ちて日暮れ時
靴底の冷えに急かされ芹を摘む
百選の水ふんだんに芹洗う
足裏の痺れに耐えて芹を摘む
老ゆ母の芹のお浸し手軽かな
清流で芹の根洗ひ山と積み
大原も嵯峨も千年せり洗う
下校児の見つけし芹を摘みに行き
飽食をいやすや芹の粥しみる
芹摘んでいつか日暮れとなりにけり
青春の苦き思い出芹を摘む
芹はある豆腐もあるが鴨がない
子を背負い子をあやしつつ芹を摘む
芹入れて一草がゆとしゃれてみる
芹を食み遠く住む母思ふてる
芹摘んでままごと始めしし幼かな
祖母がいて幼子のわれ芹を摘む
ほろ苦き芹呼び戻す遠き日々
七草や際立つ芹の香りかな
芹摘んで妻持ち帰る野の香り
芹引いて綺麗な水を汚しけり
思い出を野に摘む如く芹を摘む
芹摘みしあの野のあとに団地立つ
芹摘みの腕で拭ふ顔の泥
行軍で芹を踏みたる父が逝く
雑炊や芹の香りを散りばめて
あの夕陽芹を茜に染めている
芹やがて椀にひろがるバレリーナ
歯切れ良き野の香の芹のサラダかな
野仏の裳裾を縫って芹の川
ほろ苦き恋の思い出芹香る
陽の温み背中に溜めて芹を摘む
芹なずなあとが続かぬ妻を見る
芹摘んで旧正月の節とする
即席の汁も引き立て芹香る
古代人愛でし芹とよ高麗の郷
芹の香や椀に広ごるすまし汁
清らかな川が育む芹を摘む
芹摘みや子らのはしやぐ畔の道
釣果なし濯ぎ終えたる芹魚籠へ
芹洗ふさざれ水にも季の移り
清らかな川が育む芹を摘む
「芹飯」と出掛けに妻言ふ夕の膳
母の声入れて七草芹香る
鍋料理仕上げの如く芹を入れ
{風邪引くな}添書きもあり母の芹
芹摘むや母に呼ばれているやうな
連れて来し幼を眼で追ふ芹菜摘み
畦行けば芹摘む人と立ち話
芹を摘む老女の姿母に似て
幼児が母の後追ふ芹菜摘み
芹の香に酔いてころびる雀かな
芹田中諸手刈りする師走かな
駄菓子屋の匂いに混じる芹の束
仄かなる香り誘う古里へ
喧嘩して無言で二人芹を食ぶ
朝粥に芹の香香る七日かな
芹の香のうやうやしきは水の中
芹摘みしあの野辺に陽は傾きぬ
芹の香を手締めの如く鍋料理
母在らば芹摘む日和となりにけり
芹洗ふための小川を起こしけり
ひとにぎり寒芹の根の白さかな
釣人の魚篭一杯の野芹かな
芹摘みの日の豊かなる山河かな
真っ直ぐに伸びたる芹の歪みなし
小流れの影に揺らめく芹菜摘む
芹伸びる天地(あめつち)結ぶトンネルぞ
眼裏に猫背の母や芹を摘む
特別な椀に乗す芹結びたり
小流れの田芹を妻と摘みにけり
流水の芹切り穫りぬ破れガラス
芹の香の清き人々分かち合う
芹摘んで故郷遠くなりにけり
赤貧の昔は芹を摘みにけり
食誘ふ芹の芽浮かぶスープかな
芹を摘み魚を追いし遠き日々
水田に青芹ゆれて清しかな
野仏に香り届けて芹の川
芹摘みし里の小川を遠思ふ
亡き母の手つきで洗ふ妻の芹
郷愁は野に満ちあふれ芹を摘む
遠き日の思い出摘んで芹の川
水炊きに姿見へねど芹の味
芹の香を上手に引き出し鍋料理
芹摘むや故郷遠くまた近く
包丁に残る芹の香朝厨
芹洗ふ妻の手の指香りけり
子供らの遊ぶ傍ら芹を摘む
芹を摘む子の影揺らす水の面
せせらぎの音に囃され芹を摘む