| 麨の遠き日の香に噎せりけり | 石臼の読経に生るる麦こがし |
| 遠き日の香に噎せりけり麦こがし | 笑い合ふ鼻へ積もるる麦こがし |
| 皿跡を残してこぼれ麦こがし | 忘るまじ雨漬く壕の麦こがし |
| 練り進み色濃くなりぬ麦こがし | しかめづら弛みゆくかな麦こがし |
| 麦こがしむせ食みしこと懐かしむ | ふるさとの水はやさしき麦こがし |
| 麦焦がし咽せると言う事教へけり | はったいを口にまぶして泣く児かな |
| 麨粉ふるさと便にさりげなく | 噎せること知りつつ噎せる麦炒り粉 |
| SLと田谷力三と麦こがし | たらちねの祖母の乳房や麦こがし |
| 犯科帳読み手を闇に麦こがし | 遠きこと近くに想う麦こがし |
| 留年や本の山間麦こがし | ふるさとがまーるくなりしはったい粉 |
| 麦こがし昭和の香り放たれて | 麦こがし吹き出し遊びたる昔 |
| 麦こがしただ一筋に遠き母 | いすの木の葉っぱなつかし麦こがし |
| 麦こがし米寿の母の浅眠り | 麦こがし砂糖が目当ていただきぬ |
| 萩焼の茶碗に残る麦こがし | 幼時の調味が一番はったい粉 |
| 亡き祖母の小言のあとの麦こがし | ケアプラザ色んな味のはつたい粉 |
| 同窓会笑顔の皺に麦こがし | ねつたい夜逆療法のはつたい粉 |
| 麦こがし喧嘩のあとの仲直り | はつたい粉出されて始む国自慢 |
| 祖母ちゃんの魔法の指の麦こがし | 麦こがし噂話に加わらず |
| 鍵っ子の三時のおやつ麦こがし | 銀婚をつむぐ時間や麦こがし |
| 麦こがし子どものころが懐かしい | 麦こがし孫との距離は糸電話 |
| みちのくの宿のお茶請け麦こがし | ふるさとに近づく旅や麦こがし |
| 弟はいつも多めの麦こがし | 麦こがし無口な祖父がおかわりし |
| もどかしや母煉る手元麦こがし | 別の名はなんといったか麦こがし |
| 臼挽けば零れる昔麦こがし | 懐かしく独りいて食う麦こがし |
| 椀の底鼻も美味かろ麦こがし | 麦こがし戦火の前の花やしき |
| 母の背や終戦の空麦こがし | 麦こがし咽び飛び込む母の胸 |
| 煉るほどにアンドロメダや麦こがし | はつたいを練って思ひは宇宙食 |
| 路地売りの八つ時目掛けコーセンコーセン | お捻りの舞台に米や麦炒粉 |
| 土の香かなつかしき味麦こがし | 鐘楼の鐘は八つ半麦こがし |
| 麦こがし手に下げ歩く帰り道 | 懐かしのこがし見付ける道の駅 |
| 応接間先生の前麦こがし | ぼた餅のくわんくわんや麦こがし |
| お茶の横ちょこんと置かれた麦こがし | 亡き母と会へる兼題麦こがし |
| 中の餡何が出てくる麦こがし | 幼き日思い起こせり麦こがし |
| 寒い夜熱い番茶と麦こがし | 麦こがし茶の一服と母の面影 |
| 麦こがし咽せれば砂漠思いけり | 麦こがし思い出かみしめまた一つ |
| 麦こがしお湯をそろりと母注ぐ | 麦こがし口元鼻にまた化粧 |
| はったいかがっかりおやつ最右翼 | 麦こがしおやつで孫が少しむせ |
| 麦こがし食べたくないが懐かしき | 太陽の匂いをさせて麦こがし |
| わいわいと兄弟咽せし麦こがし | 素朴だが工夫を込めた麦こがし |
| 麦こがし砂糖控えめ貧乏で | 麦こがし遠くとほくでハーモニカ |
| 麦こがし時代遅れと言われても | 少年の夢はマドロス麦こがし |
| 麦こがし幼い頃の名でよばれ | ランドセル投げ出し祖母と麦こがし |
| 麦こがし百歳までのプランたて | 麦こがし薬缶の水をまはし飲む |
| 麦こがし近頃とみに咽せやすき | 駄菓子屋の裸電球麦こがし |
| 遺伝子は草食系よ麦こがし | 田を渡る風はさみどり麦こがし |
| 不意に来た嫁に珈琲麦こがし | お茶受けは小江戸川越麦こがし |
| 手探りに歩む余生や麦こがし | 戦中派にて牛乳に麦こがし |
| 年経れば忌もまた佳き日麦こがし | 戦争を知らぬ世代や麦こがし |
| 茶袱台の丸き昭和や麦こがし | 麦こがし 鼻息かかり 吹雪舞う |
| 麦こがし母泣くところ納屋の陰 | 黒蜜と からめて食べる 麦こがし |
| はつたいや里のはづれの祠古り | 麨に噎せるを笑ひ我も噎せ |
| はつたいや浅間の煙り低く這ふ | 麨に噎せる父見し夢に覚め |
| 麦こがし謝りたくも母のなし | 麦こがし戦中戦後生きて来し |
| 他になきお八つは戦中麦こがし | 不思議なるもの見る子の目麦こがし |
| 麦こがし似つく口髭子ら威張り | 母のメモセピア色繰る麦こがし |
| 麦こがし一餉となりし食糧難 | 坊守の心配りや麦こがし |
| 麦こがし素朴なる味懐かしく | むせる児に婆笑み優し麦こがし |
| 麦こがし噎せ背(せな)敲きし母の亡く | 麦こがし山から水を引いてをり |
| 稀に見ゆ今なほ売らる麦こがし | 麦こがし兄弟喧嘩姉なかへ |
| 麦こがし祖母のやさしい匂いかな | 麦こがし割り箸折れてをりにけり |
| 麦こがし木綿のような舌触り | 茶屋の籏風に遊ぶや麦こがし |
| なつかしき昭和の薫り麦こがし | 麦こがし吹けば昔が飛散する |
| お三時のおやつうれしき麦こがし | 下町の人情厚き麦こがし |
| 麦こがし嗅げば遥かなノスタルジー | 老残の序章に少し麦こがし |
| 麦こがし紅茶とともにいただけり | 麦こがしつんつるてんの丸坊主 |
| ほろ苦く静かに溶ける麦こがし | 麦こがし子供集めた紙芝居 |
| あの頃は菓子の無き日々麦こがし | 縄文の壺の中から麦こがし |
| 水を足し砂糖を足して麦こがし | 石臼で貧しさ挽いた麦こがし |
| 麦こがしわれら貧しき昭和の子 | エノケンの唄に雨降る麦こがし |
| 口にして笑ふに笑えぬ麦こがし | 駄菓子屋で昔を探す麦こがし |
| 練るたびに麦香ばしきはったいこ | 袖口で青ばな拭いて麦こがし |
| 麦こがし卓袱台の日々ありし頃 | 蓄音機音が弛めば麦こがし |
| 麦こがし手抜きするなと父のこゑ | 木の匙の塗りが剥げてた麦こがし |
| ネクタイの要らぬ暮しや麦こがし | 頬杖をして待つ祖母の麦こがし |
| 普段着の交り同士麦こがし | 川越に菓子屋横町麦こがし |
| 飯台の麨かこむ聖家族 | 石臼は生家に埋れ麦こがし |
| 我こそは庶民の生まれ麦こがし |
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