俳句庵

7月『虫干』全応募作品

(敬称略)

東京都     安西 信之
露座佛の胎内佛も土用干
虫干や今も書架には英和辞書
あらたふと初学のころの書を曝す
空き部屋に大屋久しく風通す
傍線の夥しき書を曝しけり
北海道     澤野まひる
虫干の手の止まりたる遺品かな
虫干の衣装干さるる楽屋かな
三重県     石川 喜美子
雨ばかり 虫干しできずに いらいらと
虫干しや 陽のにおいうけ いい気持ち
兵庫県     北前 恵嗣
虫干しの途中や電話長々と
虫干しや恋文端に並べをり
千葉県     横井 隆和
胸中も晒して新た土用干し
虫干しの栞に走る若きメモ
そよ風に虫干すシーツの読書かな
神奈川県     佐々木 僥祉
虫干や誂へし祖母の藍好み
虫干や翳る座敷に揺れる藍
愛知県     石川 順一
ヴェランダで虫干本と紙ばかり
虫干は魔法の風が必要だ
雲行きが虫干時間を半分に
風水で虫干場所も八通り
虫干しが注目されず少し拗ね
埼玉県     守田 修治
どの家も物語ある土用干
虫干や祖父の結城に父の染み
長生きもいまが峠か土用干
書を売って身仕舞い軽く土用干
巻落ちの落語全集曝書かな
北海道     飯沼 勇一
虫干の如来の顔の綻んで
夫の香を留めるジャケツ虫干す
虫干の背広の胸に紅の跡
納戸より鼻歌交じりの虫払い
窓を開け書斎と我が身虫干す
東京都     安達 健治
虫干しや若き親父にそっと触れ
虫干しや年一回の懐かしさ
虫干しやさまざまなこと飛び交いて
虫干しや心模様空模様
虫干しをする家も無く子も育ち
大阪府     太田 紀子
虫干しや能楽堂の展示会
虫干しや和綴じの本に紙魚一つ
東京都     石見みつを
諸肌脱ぎ吾も虫干すひと日かな
土用干記念の硬貨眺めをり
千葉県     藤原 純夫
虫干さんちりあかほこり定年す
虫干さんこころのひだのおもてうら
虫干や己の虫も追いだせり
虫干され出たら帰らぬ仕事虫
東京都     鈴木 眞由美
虫払すらと着られし去年のこと
虫干や母と姉とは衣装持ち
風入て羽裏の峨眉の微笑みぬ
虫干て袖も通さぬ形見かな
栃木県     長浜 良
虫干の和服家中に華やぎて
虫干の夜は樟脳の香に眠る
青春の想い新たに曝書かな
虫干して捨てるつもりを覆す
富山県     岡野 満
曝書する真偽不明の家宝かな
虫干しや恋の未練のあれやこれ
びっしりと線の引かれた書を曝す
愛知県     山歩
虫干や家康公の逃げし寺
本尊は秘仏の寺や土用干
虫干の現役頃の一張羅
虫干やもう二度と着ることもなく
虫干の青い山脈捨てきれず
東京都     蘭丸
寺の子の玩具も並ぶお風入
虫干や写真の人は皆死せり
東京都     大槻 実
虫干しの 場所も手狭な 日曜日
虫干しで 深呼吸する 昭和本
虫干しの 知恵を引き継ぐ 誕生日
東京都     岩川 容子
曝書してしばし昭和の中に居る
古着屋のごとく吊るせり虫払い
陽と風を使いきったる土用干し
虫干しや路地の奥よりカレーの香
埼玉県     小玉 節郎
虫干しやついに由来の知れた軸
虫干しに日向日陰の指示があり
虫干しや明治大正昭和まで
虫干しや蝿虻蝶に蟻も来る
「太陽の季節」どうする虫払い
千葉県     隼人
青春を読み耽りたり曝書かな
書を曝す朱線父の愛読書
神奈川県     相模太郎
白昼を避けて虫干地獄絵図
虫干すガリ版刷りの句集かな
虫干や登山のニッカボッカーズ
虫干や押入れひと日風通す
虫干や探せしものも並べられ
埼玉県     哲庵
曝書して祖母のへそくり舞ひ落ちる
虫干しのチョッキ息子が狙ってる
虫干しや大正ロマン匂ひ立つ
曝書して青春詩集捨てられず
遺産なる骨董どもを土用干し
神奈川県     矢神 輝昭
虫干しや人の香とも防虫剤
虫干しの畳の下から古新聞
虫干しや物干し竿のたわみけり
大阪府     津田 明美
虫干しの蔵戸を開ける軋みかな
虫干しや本の折りあと夢のあと
虫干しの真中に座して十重二十重
虫干しやあの日この日の夢の数
千葉県     伊藤 和幸
虫干や 少年時代の 宝物
虫干や 母の思ひ出 父の影
虫干や 昔を語る 通信簿
茨城県     坂場 俊仁
虫干や甲乙丙の通信簿
貰い手のなき全集の曝書かな
兵庫県     山地 美智子
捨てられぬ亡父の蔵書を土用干し
虫干しやもう着るつもりなき和服
慕わしや曝書の若き父の文字
風入れる夫の使わぬ道具箱
ポケットに残る半券土用干し
神奈川県     井手 浩堂
虫干や見覚えのある妻の服
虫干に初学の頃の英文法
虫干や変色すすむ本の数
虫干や古書のにほひも消さむとて
埼玉県     井上 寿郎
虫干や行間にある小宇宙
虫干やまだキューポラの残る街
虫干や父に繋がるわが記憶
虫干や古地図に残る旧地名
虫干や東照宮へと蔵の道
千葉県     本間 順子
虫干の 単衣ひろげて 旅をまつ
山口県     山縣 敏夫
遠き日の写真集いま曝しをり
亡き父の蔵書を庭に曝しをり
黄ばみたる記事に読み入る曝書かな
偏屈な父の箪笥の風入れず
引越の前に古着の土用干し
岡山県     八木五十三
虫干やなんだなんだと斑猫
曝書して妻に内緒の現れり
他愛なき古傷捲る曝書かな
東京都     紫雲
虫干や こんなとこより 父形見
虫干の 胸ポケットに 捜し物
東京都     紫晴
思い出も 虫干をして 補強する
虫干の 立会いするや 風ひとつ
東京都     紫風
虫干や 数独のごとく 並べ置く
虫干や サイズ小さき ものばかり
山口県     有田 ひろ子
虫干しの形見の着物袖長し
神奈川県     山崎 祐一
虫干や 晴れの舞台は いつの日か
虫干や 母の姿が よみがえる
風そよぐ 虫干しの日の 晴れ姿
虫干は 年三回の ありがとう
ありがとう 時が流れの 虫干し日
佐賀県     平吉 俊郁
体型も保ち背広を虫干しす
兵庫県     岸野 孝彦
虫干しや風髪流る汨羅江
虫干しや潮騒響く瀬戸の里
虫干しや祖父の形見の涅槃像
虫干しの仕方を誰に教えよう
虫干しや記憶の穴にナフタリン
神奈川県     川島 欣也
眼鏡を上目に遣い曝書かな
曝書して繙書の跡を顧みる
虫干や臍の緒箱を見つけたり
風を入れ押入れの闇開放す
土用干し参拾六景へ風流し
大阪府     高塚 政宜
虫干の恋衣よと叔母言へり
東京都     三浦 靖男
虫干しや平和憲法むしばまれ
老いの身を虫干し粋に散歩かな
虫干しや樟脳の香母の顔
虫干しと友を誘いて居酒屋へ
タワ─住まい虫干しいかにただ仰ぎ
神奈川県     佐藤 博一
虫干しやつい声を出す唐詩選
岐阜県     長谷 都代
虫干しや防虫剤の効き目なく
虫干しの進まぬ部屋の息苦し
虫干しや母の匂いの物ばかり
虫干しや母と呉服屋通った日
母に詫び虫干し終えてたとう紙に
大阪府     瀬戸 順治
虫干の作法を伝授すると母
長野県     木原 登
風入の本の中より友の文
来し方のいよよ遠のく曝書かな
捨てきれぬ母のアルバム土用干
虫干の虫小癪ともあはれとも
曝書無用電子ブックの世なりけり
神奈川県     パラレル
虫干しや頁を繰れば十円札
東京都     岩崎 美範
鍵かけて他人には見せぬ土用干
広島県     安冨 正則
虫干や箪笥の底の一分銀
埼玉県     大野 美波
虫干やあやしい書物が気になって
虫干の終わったあとの風がいい
虫干や虫も元気だ仕方ない
虫干の髪かきあげる仕草かな
若い子と一緒にやって虫干よ
東京都     服部 かつこ
虫干の侘しさ竿に 掛けにけり
虫干に錆びたる刀光りけり
虫干の子育て終り着れるかな
埼玉県     岸 保宏
子等のもの何も出てこぬ虫干しや
虫干しや父の袴をはく羽目に
掛け軸をかしこまらせる虫干しや
東京都     丸山 清子
名立たりし明治文豪虫干しす
愛知県     柵木 充義
経版木千巻はありお虫干し
筆順のわからぬ花押お風入
寺領差し下さるる状お風入
整理まだつかぬ遺品や虫払
読みもせぬ全集ばかり書を曝す
神奈川県     佐藤 博一
虫干しや捨て難きもの増やしつつ
兵庫県     岸下 庄二
亡き母の長持ち開き風入れる
虫干しの着物にじゃれる児を叱る
捨て切れぬ無用の長物土用干し
捨て切れぬままに今年も土用干し
曝す書の隙間を選び猫歩く
大阪府     高塚 政宜
虫干に式立会の日取りかな
虫干の夜のビールに生き返り
虫干の衣を語らぬ三保の松
福岡県     紙田 幻草
虫干しや針金ハンガー総動員
曝書してぱらりと写真現れし
合掌の形に畳土用干し
神奈川県     佐藤 博一
青春を曝すが如く書を曝す
北海道     江田 三峰
老妻は母の遺品を曝しけり
貰ひたる俳書百冊曝しけり
書を曝す数多の恥も曝しけり
土用干し書の山埋もれ三日間
捨てがたき子の卒論を曝しけり
東京都     岩崎 美範
あぶな絵も一枚混じる土用干
神奈川県     佐藤 博一
虫干しや父の手擦れの広辞苑
岐阜県     金子 加行
虫干に十年ぶりの探し物
虫干の箪笥全段母の物
虫干に検閲済みの父の恋
虫干の遭難を見し登山靴
虫干の天金光る父の本
東京都     摩耶
虫干しや広げて落つる覚え書き
虫干して隅に転がる紙縒りかな
神奈川県     佐藤 博一
虫干しや俎板曝し裏表
熊本県     貝田 ひでを
朱線太き中也の詩集土用干
夢路画の古き栞や書を曝す
引き揚げの柳行李もお風入
土用干真偽判らぬ書画のあり
土用干大方母の遺品かな
愛知県     岩田 勇
資本論これが最後の曝書かな
家族写真セピア色増す曝書かな
虫干や叔父の遺品の海軍帽
又一年馬齢重ねる曝書かな
断捨離のなじまぬ暮らし土用干
ブラジル     林 とみ代
移住時の思ひ出の品土用干
派手な衣装何時しか褪せて虫干す
虫干やセビア色なる写真集
細々な旅の土産や虫払
亡き夫の闘病日記曝書かな
大阪府     黄山木
白昼に曝す素顔や土用干し
白昼の虫干し呪ひ幽霊図
虫干しの一石二鳥骨董市
新潟県     近藤 博
手垢付く歳時記ことに書を曝す
虫干せし母の遺せし衣収め
書を曝す中に昭和史軍事便
虫干せば去年の臭ひす防虫剤
虫干や要らぬは棄つか選ぶとす
埼玉県     佐藤 茂
虫干や岩波文庫資本論
神奈川県     むこう
この香り 虫干をする 時期がきた
古の 知恵を込めたる 虫干よ
虫干で 新茶の香り なる箪笥
虫干しを 忘れた夏の 懺悔あり
嫁箪笥 祖母の遣いで 虫干しす
京都府     中村 万年青
虫干や古いセーター穴二つ
虫干の古書懐かしきセピア色
虫干や古い日記に手を止めて
虫干や亀も甲羅を干す晴れ間
虫干や黴に愁ひの無き物を