俳句庵

10月『渡り鳥』全応募作品

(敬称略)

神奈川県     佐々木 僥祉
渡り鳥教ゆる父の若かりし
乗っ越しの風強かろう渡り鳥
東京都     安西 信之
渡り鳥群れて水面の重たかり
燈台は白亜の墓標鳥渡る
待たすより待つ方が好き鳥渡る
合宿の朝鳥渡る洗面所
長旅の車窓朝焼け鳥渡る
茨城県     坂場 俊仁
筑波峰は愛しき目印鳥渡る
十重二十重なるしがらみや鳥渡る
愛知県     石川 順一
渡り鳥木々に群がる詐欺師たち
鳥渡る我は一指も動かさず
金輪際鳥渡る報告するなかれ
渡り行く鳥のさよなら風が吹く
日が陰り渡り鳥の数増して行く
千葉県     横井 隆和
サヨナラと読めなくもなし渡り鳥
ヒマヤラの壁を眼下に渡る鳥
故郷へ視線鋭く渡り鳥
埼玉県     哲庵
鳥渡るスカイツリーを袈裟切りに
介護士の指さす先に渡り鳥
熔け歪む原子炉建屋鳥渡る
開け放つホスピスの窓小鳥来る
公園の思い出ベンチ小鳥来る
三重県     平谷 富之
新天地向かって我も渡り鳥
千葉県     水立日月
秋雨を たたえし庭に 羽は触れ
家の軒に 往復切符の 巣は残り
木霊する 雁鳴く声は 葉を紅に
渡り鳥 萌ゆる暮れ雲 従えて
渡り鳥 集またひとつ 減りにけり
東京都     蘭丸
渡り鳥暫し留まり湯屋の跡
鐘声の滑らかな空鳥渡る
ブラジル     林 とみ代
行くあてのある幸や渡り鳥
殿を行くは老いたる鳥渡る
住み慣れた国を残して鳥渡る
原発の国は避けろよ渡り鳥
又の逢ふ瀬約束しつつ渡り鳥
東京都     岩川 容子
渡り鳥駅弁売りの訛りかな
鳥渡る誰も降りない木の駅舎
渡り鳥老人ホーム見て歩く
捨てられぬ生家の重み鳥渡る
埼玉県     小玉 拙郎
海峡を越えて群れ解く渡り鳥
渡り鳥下校の列の上を行く
渡り鳥バラバラバラと千枚田
人の居ぬわけを知らずや渡り鳥
映画ではギターを持った渡り鳥
東京都     丸山 清子
はらはらと文の届くや渡り鳥
北海道     澤野 まひる
朝焼けを吉と飛び立つ渡り鳥
埼玉県     守田 修治
利根川に遊び下手なる渡り鳥
泳ぐでも飛び立つでもなく渡り鳥
啄木が泣いた浜辺に鳥渡る
出勤の人と目が合う渡り鳥
還らざる北方四島鳥渡る
千葉県     隼人
雲をぬく吾国は眼下渡り鳥
ふるさとに降り立つ香り渡り鳥
大阪府     太田 紀子
面光る溜め池三つ渡り鳥
淀川の彼方のビルや渡り鳥
渦潮の海に灯台鳥渡る
神奈川県     相模太郎
先達の着水さすが渡り鳥
有明の月を隠して渡り鳥
鎮まるる歴史の海や渡り鳥
戦なき空に安んじ渡り鳥
ざわざわと千羽の着地渡り鳥
東京都     若木
又来いよ尾根道越える渡り鳥
御巣鷹に見上げてご覧渡り鳥
渡り鳥去って尾瀬沼風が舞い
渡り鳥温暖化日本いつ帰る
上目線ふところ肥やす渡り鳥
東京都     石見 みつを
空仰ぐ新婚夫婦渡り鳥
気流に乗りヒマラヤ越ゆる鶴の列
東京都     紫候
渡り鳥 一糸乱れぬ 協調性
ビザ取らず 旅券も持たず 鳥渡る
東京都     紫渡
エッシャーの 騙し絵如く 鳥渡る
鳥雲は 夕日と交わる 情(こころ)なし
東京都     紫漂
鳥風へ 思いを馳せし 籠の鳥
鳥雲や 時空切り裂く 流線形
東京都     小江戸紫
種々(くさぐさ)の雲を横切り渡り鳥
夕映えの四つ木橋かな鳥渡る
夕映えの首都高はるか鳥渡る
京都府     短夜
渡り鳥 根の生えた我 本の中
揺り椅子に 我ありながら 渡り鳥
渡り鳥 大根刻む 空の上
まな板を 干しに出たれば 渡り鳥
渡り鳥 アンテナ聳ゆ 空をゆく
神奈川県     川島 欣也
サンクチュアリー鳥来て帰るエアポート
小鳥来て旅を語らふ国訛り
親離れ子離れの旅鳥渡る
渡り鳥道なき道を知ってをり
鳥渡る遮るもののなかりけり
栃木県     長浜 良
茜さす雲の彼方へ渡り鳥
大いなる杜の産土鳥渡る
故郷に山河在りけり渡り鳥
窓開きし山の分校渡り鳥
東京都     鈴木 眞由美
渡り鳥いつかは戻る彼の地かな
鳥渡るこれよりふたり異邦人
鳥風や貨車の量感いま過ぐる
缶切のいらぬ鮭缶鳥渡る
東京都     村上 ヤチ代
渡り鳥眺め背伸びと深呼吸
埼玉県     沼崎 和子
鳥渡る一直線のひかりかな
分校の運動場や鳥渡る
東京都     森 清
坂鳥やいくつこぼしてオホーツク
鳥風にシベリアの白かくしをり
鳥渡る金色の雲ひきながら
灯台の空を残して鳥渡る
鳥渡る急ぐ秩父の落葉かな
岐阜県     ときめき人
伝えたき言葉を残し渡り鳥
一点に前しか向かぬ渡り鳥
兵庫県     山地 美智子
点々と湖上に増ゆる渡り鳥
まだ先へ行くか月下の渡り鳥
同窓会みんなで仰ぐ渡り鳥
山荘の丼飯や鳥渡る
国境があること知らず渡り鳥
福岡県     幻草
高々とひたすら鳥の渡りけり
伸び縮みして群れをなす渡り鳥
鳥渡る孫は就職活動中
神奈川県     井手 浩堂
灯台に灯ともる空を渡り鳥
湖に一陣二陣渡り鳥
渡り鳥いつしか瓢湖せまくなり
岡山県     八木 五十三
渡り鳥ふわりと重き覚悟かな
ためらひをひとはばたきし鳥渡る
遠き島鳥疑はづ渡りけり
大阪府     津田 明美
渡り鳥道の駅なと置いてやろ
友去りし空を濁して鳥渡る
蒼穹の点塗り残し渡り鳥
埼玉県     岸 保宏
編路地に沿うて群れ飛ぶ渡り鳥
休息に古墳選びし渡り鳥
蛇行する川をなぞらう渡り鳥
山口県     山縣 敏夫
渡り鳥廃線敷きの空を往く
日曜日棚田の嶺を鳥渡る
朽ち果てた校舎の上を鳥渡る
珍しやシャッター街に渡り鳥
里山の駅舎の上に渡り鳥
東京都     花泉
電線の上に電線鳥渡る
帰心早や旅の岬に鳥渡る
東京都     直木 葉子
故郷の変はり果てたり渡り鳥
どの家も代替はりして小鳥来る
北の海夜を日に継ぎて鳥渡る
大阪府     永田 よう子
すべき事すべてなし終へ鳥渡る
千葉県     長谷川 公二
庄内の平野に鶴の渡り来る
鳥渡る電波時計の狂ひけり
渡り鳥住所氏名を言いなさい
デジタルの一眼レフや渡り鳥
鳥渡る中に標識見つけけり
東京都     かつこ
渡り鳥スマホの電波オフにして
いきいきと羽の光や渡り鳥
山口県       ―
町民もデコイも待ちし渡り鳥
首長くして待つ鳥のデコイかな
福岡県     平山 なな子
渡り鳥 どこまで飛んで 行くのやら
真っ直ぐに 群れて飛びゆく 渡り鳥
渡り鳥 貴方について いけたなら
渡り鳥 体内時計 持っている
渡り鳥 空の高さを 知っている
大阪府     都女
ゆく夏に 池から巣立つ 鷭一羽
口移し 水草を食む 鷭親子
畦遠く 羽繕いする 番い鴨
岐阜県     あさり
翻り土蔵に別れ渡り鳥
群れなして光の中や渡り鳥
故郷の遠き道のり鳥渡る
渡り鳥老婦しずかに見送りて
下校時の校庭賑わし鳥渡る
愛知県     岩田 勇
戦の止まぬ時なし鳥渡る
先頭をリーダーといふ鳥渡る
超高層ビルの真下や鳥渡る
里山の池面に移る渡り鳥
鳥渡る果ては何処や大八洲
大阪府     黄山木
Vの字に託す応援渡り鳥
涯のなき空の広がり鳥渡る
鳥渡り茜の空の影絵かな
東京都     大槻 実
渡り鳥 行き着く先に 幸願う
懸命に 羽ばたき進む 鳥と君
優しき目 ナビ持つ様な 渡り鳥
渡り鳥 何処から来たか 尋ねたい
日本の 居心地どうか 渡り鳥
神奈川県     矢神 輝昭
立つ波に涙紛らせ渡り鳥
鳥渡る一座の無事を見送りて
空の道風にまかせて渡り鳥
渡り鳥未練残これど汽笛鳴る
渡り鳥死闘の旅や波の果て
神奈川県     佐藤 博一
鳥渡る空に国境無かりけり
駄菓子屋は子らの故郷小鳥来る
鳥渡る故郷遠くなるばかり
鳥渡る空にレーダーある如く
地球儀のどこも正面鳥渡る
広島県     安冨 正則
行き先を選ぶ自由や鳥渡る
愛知県     斉藤 浩美
鳥渡る廃炉の町を眼下にし
鳥渡る次の時間を空に得て
鳥渡る空の機嫌を知り尽くし
おもて裏地球にありて鳥渡る
渡り鳥船には船の掟あり
山梨県     天野 昭正
屋上に暫し眺むる渡り鳥
何処から何処に行くや渡り鳥
大航海時代の如く鳥渡る
東京の空は夕焼け渡り鳥
海を来て鎌倉を行く渡り鳥
佐賀県     平吉 俊郁
渡り鳥晴天待ちてV飛行
渡り鳥天の動きを知り尽くす
青森県     笹原 郁子
鳥渡る無人灯台開放日
海峡に白波増えて鳥渡る
鳥渡る階段国道登り切り
兵庫県     岸下 庄二
千里来て千里南下す渡り鳥
渡り鳥蹼広げ着水す
行き違ふ雲間に見ゆる渡り鳥
けふ来るかあしたは来るか渡り鳥
国境を俯瞰しながら鳥渡る
大阪府     ドルちん
端境の野菜と燕姿消す
シベリアンエキスプレスの白い群れ
歌川の水面を発ちて月に雁
ラムサール束の間やまとのおもてなし
浪花鳥キタへミナミへ日は西へ
岐阜県     金子 加行
鮮明な富士背景に渡り鳥
迂回するスカイツリーや渡り鳥
佐渡空路すれ違ひたる渡り鳥
渡り鳥帰る日友の減り知らず
槍ヶ岳富士標識に渡り鳥
東京都     岩崎 美範
安産を宮に祈れば鳥渡る
再生のみちのく平野鳥渡る
私にも翼ください鳥渡る
母の棲む終の楽園鳥渡る
人知超ゆ自然の摂理鳥渡る
大阪府     高塚 政宜
渡り鳥事もなしげに降りにけり
猛禽の眼の隙間鳥渡る
長野県     木原 登
海峡の暗きを待ちて鳥渡る
天上に友をり鳥の渡るなり
渡り鳥見やる縄文土偶かな
花巻のイギリス海岸鳥渡る
身一つ海山越えて小鳥来る
福島県     小野 和宏
白河の関を跨ぎて鳥渡る
岐阜県     後藤 恵美
渡り鳥Ⅴ字の様を見続けり
塾向かふ子の遥か上渡り鳥
灰皿を持ちいて庭へ渡り鳥
渡り鳥風の中なる父のこと
兵庫県     岸野 孝彦
病なる母は翔ばずや渡り鳥
渡り鳥一期一会の越後獅子
生きるとは飛ぶことばかり渡り鳥
幾山河国境越えし渡り鳥
渡り鳥後悔知らず飛ぶばかり
埼玉県     ―
なりたいな うまく世間を 渡る鳥
神奈川県     川村 均
道如く谷戸を抜け行く渡り鳥
渡り鳥冬は越せなき者同士
Vの字に鳥駆けいよよ秋深し
蹴散らしてみたきVの字渡り鳥
北海道     江田 三峰
渡り鳥空真黒の六万羽
渡り鳥北の大空おもふまま
知床の五湖の楽園渡り鳥
なにもなき襟裳岬に鳥渡る
指呼にして北方領土鳥渡る
熊本県     貝田 ひでを
鳥渡る湖に黒々逆さ富士
点点と干潟に人や鳥渡る
指で開く鯖の缶詰鳥渡る
鳥渡る宇宙は今も膨張中
鳥渡る番小屋に打つ五寸釘
新潟県     近藤 博
棲み適ふ湿原求む渡り鳥
渡り鳥空を曇らせ群をなし
大空を我が物顔に鳥渡る
上空を追いつ追われつ鳥渡る
空を鳴き渡り来る鳥仰ぎけり
神奈川県     守安 雄介
渡り鳥神の投網は洲掬う
鳥風を吸いて大木姦しい
明日の糧求めて吾も渡り鳥
初嵐渡海の翼の尖がりけり
佐賀県     古賀 由美子
渡り鳥かすかに風が動き出す
渡り鳥見上ぐる君の白き首
病棟の子らのつぶやき小鳥来る
鳥帰る何処にいても異邦人
渡り鳥腕(かいな)広げてわれも飛ぶ
京都府     中村 万年青
渡り鳥遠き国より夢乗せて
鷹渡り運動会を見納めぬ
夕暮れの梢に宿る渡り鳥
渡り鳥「いざ帰りなん」故郷へ
唐の国の子等無事だろか渡り鳥