俳句庵

10月『穭田』全応募作品

(敬称略)

京都府     中村 万年青
ひつぢ田や落穂を拾ふ雀かな
干拓の宇治のひつぢ田元は池
ひつぢ田や法隆寺より鐘の音
ひつぢ田に風の色づく嵯峨野かな
ひつぢ田や案山子と稲架日の匂ひ
岡山県     純子
ひつじ田の雨に勢の色となる
兵庫県     ―
ひつぢ田や萌ゆるは命限りなり
ひつぢ田を健気に思う夕陽かな
東京都     淵田芥門
ひつじ田の日暮れて村に灯のすこし
ひつじ田へ祝詞を風に出羽の山
広島県     有馬 未知
ひつじ田を眺めておりぬ十五歳
愛知県     石川 順一
穭田を風吹きぬけて土が舞ふ
穭田で転ぶ少年図書館へ
飛行機が穭田知らずに飛び去れり
穭田を紳士と歩き議論する
穭田にラジオを置けば世界地図
東京都     水野 二三夫
朱鷺飛ぶや越後ひつぢ田見下ろして
千葉県     祐
清々しひつじ田渡る始業ベル
昨日からひつじ田渡る始業ベル
ひつじ田におらが村さの虫の声
ひつじ田におらが村さの虫遊ぶ
ひつじ田を飛び跳ねてゆく赤い靴
埼玉県     長澤 千鶴子
ひつち田の勢いのあり群雀
ひつち田に遊ぶ子等ゐてとほりゃんせ
東京都     安西 信之
ひつじ田やひねもす風のほしいまま
ひつじ田の雨に深まる緑かな
ひつじ田や獣医傍ら子を見舞ふ
ひつじ田や庭に獣医のスクーター
産気付く黒毛のはなやひつじ;稲
神奈川県     佐々木 僥祉
ひつじ田や見沼に高き石地蔵
ひつじ田に鹿二頭とて追いもせず
埼玉県     米田 哲
ひつじ田や降りてバラバラいっせいに
ひつじ田や色鳥忙し旅支度
岡山県     土屋 徹三
ひつじ田はキャッチボールに日が暮れる
ひつじ;田に翁はじっと煙草する
ひつじ田を睨む翁の影長し
ひつじ田に影は向かいて四股を踏む
ひつじ;田の隣は最早休耕地
埼玉県     守田 修治
ひつじ田の畦に残りし道祖神
ひつじ田に離農うながす小糠雨
減反に泣きのひつじ田日が沈む
ひつじ田も主も揃って愚直です
ひつじ田を役者名で呼び慰労する
愛知県     川俣 周二
休耕田かつて一面ひつじ生ふ
近江路に青きひつじ田広がりぬ
一面のひつじ田いまや処々に散る
ひつじ田に雀の群れの飛び降りぬ
ひつじ田の風に吹かれて歩みける
ブラジル     林 とみ代
ひつじ田の畦に一服農夫かな
ひつじ田にボール蹴りして子等楽し
収穫を終へし田圃のひつじかな
ひつじ田に夕日の映えて村静か
東京都     石見 光夫
ひつぢ田やデイサービス車来て停まる
東京都     岩川 容子
活き活きと捨田の横にひつじ生ふ
ひつじ伸び連山色の動きけり
夢語るときは少年ひつじ生ふ
ひつじ穂に雀にぎわう日の光
どこまでも続くひつじ田陸奥の国
東京都     蘭丸
ひつち田や暗闇を置く山の風
ひつち田の指切りの縁進めたる
千葉県     犬槇庵 光晴
ひつじ田の続く上総や夕昏るる
大阪府     太田 紀子
分譲地去年ひつじ田でありしかな
ひつじ田に白鷺一羽舞ひ降りぬ
ひつじ田に暮れ六つ告げる鐘の音
東京都     鈴木 眞由美
ひつぢ田や手のひらに受く風強し
ひつぢ田や二泊は長しと母の云ふ
ひつぢ田の長靴跡の小さきかな
ひつぢ田や水路は枯れた色をみせ
滋賀県     濱本 勝美
ひつじ田の息吹く残生励まされ
故郷の捨田ひつじ田茅葺きや
終えたるもひつじ田に咲く二番穂や
ひつじ田にうなずく母の凛々しさや
ひつじ田に残涯思う夕明かり
東京都     宗田 利一
ひつじだや半年後には分譲地
ひつじだや人影もなく風の音
ひつじだに水はり月待つ人もいて
ひつじだの掘り返されて鷺集う
ひつじだや遊ぶ子も無い過疎の村
神奈川県     川前 明
ひつぢ田の遠近法や郷を出る
岐阜県     ときめき人
ひづち田や棚田のみどり天近く
東京都     笹木 弘
ひつじ田のみどりに放つ兎の子
ひつじ田の真上を遅々と飛行船
山からの風をとらえしひつじの田
ひつじ田の畦道を行く虚無僧かな
ひつじの穂一枚ごとの棚田かな
栃木県     長浜 良
神の田のひつじの色のやはらかき
ひつじ田の丈書きをくも農日記
北海道     飯沼 勇一
一村を使いきったるひつじの田
植え育て刈りたる棚田ひづち田に
故郷はひづち田時期やメール打つ
ひつじ田や現役誇る八十歳
ひつち田の棚田一村開拓史
岡山県     渡辺牛二
ひつじ田の緑濃くなる雨続き
ひつじ田の三角ベース日暮まで
ひつじ田を横切り猫の朝帰り
東京都     直木 葉子
ひつち田や部活帰りの中学生
ひつぢ田に東京行きの機影かな
東京都     紫柿
稲孫(ひつじ)伸び 夜の黙に フォルテシモ
ひつじ田や 次は陸稲と 思い込む
東京都     紫梨
ひつじ田や あっという間に 畦の丈
ひつじ伸び 命の息吹 堪能す
東京都     紫栗
ひつじ生え 畦の高さを 自覚して
ひつじ田や 高校球児の 五厘刈り
東京都     中田地溝
ひつじ田にコナラ林の風遊ぶ
千葉県     隼人
ひつじ田に犬とじゃれあふ朝かな
ひつじ田の遥か彼方に灯里かな
岡山県     岸野 洋介
ひつじ田ははや獣らのぬた場なり
落日やひつじ田帰る部活の子
大水もひつじ田なれば気にならず
ひつじ田にひねもす鷺の立ちにけり
百選の棚田のひつじ風に揺れ
大阪府     津田 明美
ひつじ田に遊び呆けし下校かな
ひつじ田や夢を語りし友の顔
ひつじ田の手を振る友や単線車
ひつじ田の風に任せし落暉かな
ひつじ田の夕日に向かう単線車
埼玉県     櫻井 玄次郎
ひつじ田や槌音響く造成地
大阪府     石英
穭田や蹲りたる老いし犬
穭田や斜め向かいも家こぼし
穭田や真白に建てるケアハウス
穭田やゆくり抜きたるあが白髪
穭田やまだ半袖の新学期
兵庫県     山地 美智子
株ごとに違うひつじの長さかな
ひつじ田や日々発見の子供たち
ひつじ田に紙飛行機の着いており
ひつじ田に早や穂の見えていたりけり
ひつじ田に要らぬ穂の出る速さかな
神奈川県     相模太郎
ひつじ田となりて連山遠ざかる
こけし木地干すひつじ田の明るさに
電車待つひつじ田望むホームかな
ひつじ田を野兎跳んで暮にけり
ひつじ田や伸び放題の髭のつら
神奈川県     塚本 治彦
穭田や鎮守の杜の笛太鼓
穭田となりて静もる峡の村
穭田の斜め横断登校す
穭田やよそ者入れぬ峡の村
穭田やすぐ仲直りすぐ喧嘩
東京都     豊 宣光
ひつじ田や納屋に錆びたる鎌一刃
朝日射すひつじ田息吹新たなり
ひつじ田の畦道を行く囃子かな
ひつじ田や子は故郷を出でしまま
福岡県     風有路
ひづち田の実入り無き穂や群れ雀
ひづち田や石灰鉱区山を切り
堤防に果てしひづち田鳶の笛
ひづち田の水の開ける空のかたはし
ひづち田の影柔かに藁の塚
静岡県     柳谷 益弘
用済みてひつぢ田に立つ案山子かな
富山県     岡野 満
ひつじ田に勢いのある青さかな
刈り終えて早やひつじ田となりにけり
ひつじ田に安堵している農夫かな
千葉県     伊藤 和幸
ひつじ穂に生きる力を貰ひけり
ひつじ田に老人力の強さあり
ひつじ田や風に負けざる吾が余生
山口県     山縣 敏夫
ひつじ田の上空高くトンビ舞う
ひつじ田を抜けた途端に俄か雨
少年がひつじ田の傍駆け抜ける
ひつじ田を丘から見遣る二人連れ
ひつじ田に何やら床し象が立つ
神奈川県     井手浩堂
ひつじ田の稲穂に雀降り来る
ひつじ田の薄黄みどりに日のやさし
ひつじ田に静かに雨の降る日かな
出でし穂の熟れてひつじ田華やげり
ひつじ田に稲穂実らす残り肥
東京都     村上 ヤチ代
ひつぢ田に建売りの札刺さりけり
兵庫県     岸野 孝彦
穭田や淡き翠の命なり
穭田や若き父母在り夕茜
穭田や潮騒響く蒼き空
穭田に陵遥か明日香かな
穭田の意味も知らずに遊びし子
神奈川県     矢神 輝昭
ひつじ田に遊ぶ子らいて夕間暮れ
ひつじ田の逞しきかな向こう見ず
ひつじ田の花の咲かねど余生かな
ひつじ田や剃り忘れたる無精ひげ
ひつじ田に実のならぬかな老ひの恋
茨城県     たいようたろう
沈黙の夕照ひつじ田をあふれ
ひちじ田をゆらして向こう岸の風
発進の電車ひつじ田ひきしぼり
東京都     岩崎 美範
ひつじ田をお宮参りの夫婦行く
ひつじ田に豊後の夕陽燃え盛る
ひつじ田を見下ろす丘の無縁塚
長野県     木原 登
「ひつち田」や昔ここらも二毛作
「ひつち;田」のあをあをあをと安房の国
「ひつち;田」の水にさざめく落暉かな
「ひつち;田」に耳を澄ませば母のこゑ
水漬く田に「ひつち」は丈を伸ばしけり
山口県     ひろ子
ひつじ田をついばむ鳥の名を知らず
見渡せばひつじ田広し旅の窓
神奈川県     佐藤 博一
ひつじ田や明日の夢を見て眠る
ひつじ田や我に似て来し子の仕草
ひつじ田や吾子に乳歯の生え初むる
ひつじ田や青春いつもささくれて
ひつじ田や長男農家継ぐと言ふ
千葉県     柊二
ひつじ田の龍の鱗や里の神
ひつじ田を父の小声や青の穂に
兵庫県     岸下 庄二
ひつじ田の実らぬ定め知りもせで
ひつじ田を斜めに過り近道す
ひつじ田を雀自由に群れ遊ぶ
ひつじ田に貧素なる穂の並びけり
ひつじ田に再び風を呼び込みぬ
埼玉県     岸 保宏
ひつじ田や古刹と杖と遍路道
ひつじ田に続く道なり草深し
ひつじ田に売り子の声や道の駅
神奈川県     守安 雄介
ひつじ田でドローンの技を磨きけり
ひつじ田のオンブ飛蝗や老いの恋
ひつじ田の芝生となりし温暖化
ひつじ田や大きく曲がるブーメラン
ひつじ田に狂い芽吹きの籾混ざる
岐阜県     金子加行
ひつぢ田の明るき中に新神輿
千枚のひつぢ田に鳴る日本海
ひつぢ田を抜け最短の通学路
ひつぢ田の中で通過の列車待つ
ひつぢ田に探すボールや本塁打
神奈川県     川島 欣也
実をつけぬひつじ田雀見切りつけ
ひつじ田の三角ベース遠き日々
ひつじ伸ぶ田の字たのじの米どころ
ひつじ田を左右に分かつ暴れ河
ひつじ田の列の歪みや親譲り
東京都     飯塚 佳代
ひつじ田や本音語らず去り行けり
ひつじ田に4CCの涙かな
新潟県     近藤 博
ひつぢ田に忘れ置かるる野良着かな
ひつぢ田の捨て田なるらし跡目なく
ひつぢ田にそこそこ見ゆる穂の緑
ひつぢ田に鴨の二三羽啄めり
ひつぢ田に滂沱の雨や沼となり
神奈川県     高橋 勇
穭田の鮮やかさの裏鹿を呼び
ひつじだの色に誘われ鹿鳥踊る
北海道     藤林 正則
穭田にまさかの花の咲きにけり
穭田を風の又三郎渡る
穭田や東西南北山並ぶ
穭田に鳥来て遊ぶ日暮かな
穭田や農民画家の深き皺