俳句庵

9月『秋彼岸』全応募作品

(敬称略)

岐阜県      金子加行
寺の子のピアノの音や]秋彼岸
一俵の米を貰ふや秋彼岸
父祖眠る杉の大樹や秋彼岸
回し読む父の恋文秋彼岸
説法の訛りなつかし秋彼岸
兵庫県      はなちる
秋彼岸独り登りし霊峰に
秋彼岸白檀香る祖母の服
供花揺れて報告ありき秋彼岸
古里や墓碑銘連なる秋彼岸
畦道も平安の世や秋彼岸
愛知県      遊泉(ゆうせん)
寛解の妻の白髪(しらが)や秋彼岸
会報に目立つ訃報や秋彼岸
剃り痕の髭のまばらや秋彼岸
遠き日の家族写真や秋彼岸
散歩する犬の和みて秋彼岸
千葉県      宇都宮正
割腹の将の碑に供花秋彼岸
無縁墓を穿つ破砕機秋彼岸
墓誌の記に母と継母秋彼岸
大阪府      金成愛
ながらくの御無音ゆるす秋彼岸
神奈川県      白銀
秋彼岸で 故郷へ逝く 弔い日
牡丹餅は すってんころんげ 秋彼岸
彼岸花の 赤曼寿紗華 秋彼岸で
秋彼岸 雑木林で  彼岸参り
秋彼岸 我が心の思い 胸咽ぶ
新潟県      近藤博
墓洗ひ心さやけし秋彼岸
さびしさを味はひ初むる秋彼岸
昼と夜ともに均しき秋彼岸
閑かなる寺領賑はし秋彼岸
千葉県      柊二
路線バス花束抱え秋彼岸
大分県      小野山 道山
秋彼岸仏花の野草手折りたり
秋彼岸墓石に掛くる般若湯
秋彼岸出湯で落す娑婆の垢
秋彼岸仏間の遺影セピア色
若院家(わかいんげ)口称(くしよう)念仏秋彼岸
愛知県      西谷寿
秋彼岸ひっそりと泣いて友送る
露と消え夫を見送る秋彼岸
涙かれ記憶うすれし秋彼岸
遺産分け兄と縁断つ秋彼岸
涙ふき笑って見送る秋彼岸
山口県      ひろ子
積み上げた無縁菩薩や秋彼岸
歳月の重み憂いて秋彼岸
荒みたる墓地の清めや秋彼岸
線香の燻らす風や秋彼岸
東京都      石川昇
徘徊も今は思い出秋彼岸
門柱に残る父の名秋彼岸
愛媛県      渡邊國夫
老いたれば人の恋しき秋彼岸
禅苑の修復なりて秋彼岸
紅茶派も緑茶派もをり秋彼岸
遠来の友は饒舌秋彼岸
喜寿祝ぎて後の彼岸の同期会
大阪府      藤田康子
秋彼岸銀杏の葉舞う本能寺
秋彼岸信長公を横切りて
秋彼岸他人には一人言に見え
三重県      平谷富之
秋彼岸また来るよと言い墓の前
秋彼岸我を守ってご先祖様
東京都      内藤羊皐
秋彼岸父に遺愛のトルコ帽
剥製の眼爛々秋彼岸
秋彼岸閼伽井の雫毀ちたり
円らかに麒麟糞りをる秋彼岸
秋彼岸母はおはぎを大振に
長野県      木原登
ゆく雲に心あそばす秋彼岸
而してわれも喜寿なる秋彼岸
赤松の夕べ明るき秋彼岸
秋彼岸日本蜜蜂墓に群れ
野の花のなべていとしき秋彼岸
京都府      欲句歩
言わぬのに聞かれし弱音秋彼岸
秋彼岸父母の拓いた田圃道
一人来てとんぼ返りや秋彼岸
宮城県      林田正光
故里に直立不動秋彼岸
ひとり減りふたり減りゆく秋彼岸
秋彼岸見知らぬ老女ひとりをり
愛媛県      向井桐華
母に告ぐ また帰られん秋彼岸
山寺のだんだら坂や秋彼岸
戒名の墓誌に増ゆるや秋彼岸
神奈川県      月野木 若菜
大正のハイカラ偲び秋彼岸
秋彼岸墓石は白き大理石
秋彼岸飛行機雲の一直線
秋彼岸継ぎたる人のなけれども
湘南の入江見下ろし秋彼岸
神奈川県      月野木潤子
墓碑銘は女ばかりや秋彼岸
隣り合ふ墓も参りて秋彼岸
小流れのさざめき後の彼岸かな
般若湯たづさへ秋の彼岸かな
閼伽桶に風のゆらぎや秋彼岸
千葉県      伊藤博康
参道の光和らぐ秋彼岸
甍にも柔かき陽の秋彼岸
強がりを一枚脱ぎし秋彼岸
秋彼岸廊下に寝入る猫の腹
秋彼岸足取り軽き通学路
埼玉県      岸保宏
秋彼岸折り紙の鶴また増えて
故郷の僧もなまりし秋彼岸
秋彼岸単行本が進むなり
秋彼岸霧雨濡らす遍路道
けもの道掻き分け進む秋彼岸
兵庫県      紫 桔梗
寂聴の説教に沸く秋彼岸
はらからの集ふ生家や秋彼岸
万屋で線香を買ふ秋彼岸
早足の僧の行き交ふ秋彼岸
秋彼岸墓所に臨時の駐車場
神奈川県      佐藤博一
幼名で呼ばれ振り向く秋彼岸
忘れるも供養の一つ秋彼岸
三世代揃い詣でる秋彼岸
逢いたきは亡き人ばかり秋彼岸
香煙の絶えぬ境内あき彼岸
宮城県      福田良光
秋彼岸お萩を待ちて墓掃除
塵ひとつ無き境内や秋彼岸
子ども等の歓声響き秋彼岸
次世代の人ら行き交う秋彼岸
六地蔵の迎えを受けて秋彼岸
愛知県      斉藤浩美
秋彼岸野の花摘みて供華とする
水子仏ミルクを供え秋彼岸
廃れたるここも無住寺秋彼岸
慰霊碑へ慰霊碑へと秋彼岸
哭くことは諦めに似て秋彼岸
埼玉県      飯塚璋
秋彼岸父の好物吟醸酒
愛知県      新美達夫
御萩食ふ義務の如くに秋彼岸
老の私語咎むもならず秋彼岸
兵庫県      噂野アンドゥー
餡子餅 暑さ寒さも 彼岸まで
秋彼岸 死者に手向ける オルフェンズ
秋彼岸 おはぎぼたもち 論争し
ヒガンバナ 血液黒く 染める文字
墓の前 一輪咲いた ヒガンバナ
山梨県      天野昭正
初めての遠祖の墓参秋彼岸
秋彼岸人影まばら山の墓
魚の目や杖が頼りの秋彼岸
病む友のふるさと遠き秋彼岸
供へ物鴉が待つや秋彼岸
愛媛県      中川正子
鈴棒の重さ響くや秋彼岸
秋彼岸墓参の四世代へ風
秋彼岸伯父は戦病死にて終ふ
兵庫県      岸野孝彦
限界の村は紫秋彼岸
蝋燭の炎庇いし秋彼岸
逆打ちや大師の里の秋彼岸
フルートの音色も侘し秋彼岸
忠魂碑蕭条の雨秋彼岸
東京都      くれいじいそると
秋彼岸隣の墓のなくなりて
住職に久々に会ふ秋彼岸
秋彼岸小さき地蔵に手を合わせ
墓石の文字まで磨き秋彼岸
父好きなヤクルト供へ秋彼岸
神奈川県      川島欣也
店先に仏花そろう秋彼岸
秀峰や雲をひとはけ秋彼岸
秋彼岸檀家をまわる高級車
秋彼岸墓碑に彫られし新仏
散骨の船や出てゆく秋彼岸
山口県      山縣敏夫
愛犬をお供に参る秋彼岸
秋彼岸家族を連れて里帰り
秋彼岸孫の手を引き保育園
連れ合いと数珠を片手に秋彼岸
連れ合いと線香持って秋彼岸
東京都      笹木弘
閼伽桶の水に宇宙や秋彼岸
天国と交信したる秋彼岸
秋彼岸硯の海が鎮まれり
竹林の風に和らぐ秋彼岸
母の味やっと出来たよ秋彼岸
神奈川県      猪狩 千次郎
秋彼岸力士手形の彫り深く
父握る寿司大らかに秋彼岸
秋彼岸閼伽のひとつのくわりんたう
秋彼岸もんじやのたねで字を書きぬ
秋彼岸恩師が僧となる日かな
東京都      岩崎美範
穏やかに海の暮れゆく秋彼岸
愁ひなき妣の声する秋彼岸
団子屋に行列できる秋彼岸
秋彼岸父母の位牌をそつと拭く
故郷に帰る家なし秋彼岸
兵庫県      山地美智子
忘れそうな約束メモる秋彼岸
死仕度進まず呆け秋彼岸
永らえて用なき身なり秋彼岸
死に方もままにはならず秋彼岸
老妻の意見も聞くや秋彼岸
神奈川県      守安雄介
秋彼岸三年振りに遺影拭く
俗名の死産の兄や秋彼岸
盆花を労ろうている秋彼岸
秋彼岸クルスの姉へ花供う
秋彼岸光速越ゆる物否定
東京都      伊藤はな
雑草の命をむしる秋彼岸
秋彼岸西より風の吹きにけり
この世にも地獄のありぬ秋彼岸
今生の生者の集ふ秋彼岸
をりをりに母の所作でる秋彼岸
滋賀県      東野了
青空に幣舞ひ上がる秋彼岸
秋彼岸母よりおはぎ届きけり
山のもの野のもの供へ秋彼岸
秋彼岸妻に長居の客二人
白髪に正午の日射し秋彼岸
神奈川県      井手浩堂
特攻機発ちし知覧や秋彼岸
特攻花多きこの道秋彼岸
父母の墓遠のく思ひ秋彼岸
県境の山を雲越ゆ秋彼岸
故郷のなまりやはらか秋彼岸
埼玉県      青木泰山
父母との暮らし懐かし秋彼岸
亡き父や鉄路一筋秋彼岸
奈良県      一人坊
秋彼岸 偲びギターは 無縁坂
秋彼岸 夜半に聴き入る 父の謡
里帰り 鱚釣り控え 秋彼岸
千葉県      野木編
秋彼岸 母の好物 素甘あり
秋彼岸 二葉の写真 並べいて
母遺す 線香烟る 秋彼岸
兵庫県      堤輝行
彼岸花 父母思い 墓参り
墓参り 彼岸花咲き 思い出に
東京都      坂田誠太郎
秋彼岸昔変わらぬ丘の道
野菊手に丘の細道秋彼岸
屋敷森遠くに見えて秋彼岸
香焚きて空の広さや秋彼岸
故郷はまた来年か秋彼岸
神奈川県      塚本治彦
誰も来ぬ永代墓地や秋彼岸
分譲の墓地の看板秋彼岸
千の墓洗ひをる雨秋彼岸
小坊主の短き袈裟や秋彼岸
園長兼和尚の多忙秋彼岸
東京都      佐藤博重
広縁に雨のこゑ聴く秋彼岸
硝子器の水膨らめる秋彼岸
東京都      住澤義英
義母見舞い亡母恋しい秋彼岸
里帰りおやきを供え秋彼岸
亡き人の偲ぶ落語や秋彼岸
坐布当てて和尚の喝で秋彼岸
釣り人や釣果無くとも秋彼岸
三重県      遊眠
オカリナは「少年時代」秋彼岸
秋彼岸母の十八番の「涙そうそう」
秋彼岸父の遺品のハーモニカ
和太鼓の連打波間へ秋彼岸
神奈川県      矢神輝昭
秋彼岸釣り竿並べ爺と孫
錦繍の妻を偲びて秋彼岸
秋彼岸天下に轟く演習音
秋彼岸死者ともどもの宴かな
秋彼岸雨降るなんぞ誰そ思ふ
東京都      中田ちこう
礫つみし墓沈黙し秋彼岸
墓守の像の跫音秋彼岸
兵庫県      登るひと
炎昼を潜り昭和の生き字引
東京都      右田俊郎
また一軒廃屋となる秋彼岸
住職も世代交代秋彼岸
お地蔵の緋の前垂れや秋彼岸
秋彼岸気になる人に寺で遭ふ
秋彼岸故郷に集ふ同級会
ブラジル     林とみ代
長生きのこつに談笑秋彼岸
秋彼岸夫の遺せし闘病記
亡き父の旅行記探る秋彼岸
親子集ふよすがとなりて秋彼岸
移住史の節目を祝ふ秋彼岸
埼玉県      よしこ
久に訪ふ兄の墓守秋彼岸
手料理の小皿に揃ふ秋彼岸
秋彼岸人ぬくもり残る椅子
行きずりに目礼交はす秋彼岸
秋彼岸こちらの岸に風そよぐ
福岡県      西山勝男
発心の札所打ちつぐ秋彼岸
しづしづと秘仏に見ゆ秋彼岸
大根撒く秋の彼岸を目途として
父になき余命しみじみ秋彼岸
香を薫く村の骨堂秋彼岸
兵庫県      西行法師
朝露の草刈る足下に彼岸花
父や母眠りし墓前秋彼岸
東京都      飯塚佳代
それぞれの祈りのかたち秋彼岸
秋彼岸猫の鈴音きは立ちぬ
秋彼岸ひとり暮らしの咳ひとつ
大阪府      津田明美
落日の鳥居のかなた秋彼岸
母逝きし日々も均して秋彼岸
在りし日の薄墨色に秋彼岸
秋彼岸ゆっくり戻る車椅子
山門を急いでくぐる秋彼岸
京都府      村田稔子
秋彼岸 郷里の空に 手を合わす
手桶だな 収まる暇なし 秋彼岸
蒼空を ひこうき雲や 秋彼岸
秋彼岸 赤いあぜ道 孫笑う
神奈川県      原川泉水
秋彼岸石肌拭いて風あらた
秋彼岸香に想う幾十年
香煙に故人を偲ぶ秋彼岸
秋彼岸炭火の魚煙なつかしむ
秋彼岸遺影の傍に草の束
奈良県      平松洋子
ひと休み小豆たっぷり秋彼岸
温泉はつけ足しですよ秋彼岸
秋彼岸四天王寺の真っただ中て
京都府      村田高久
石段を腓のぞきし秋彼岸
秋彼岸保育園児の声隣り
幼子の鳴き靴追いし秋彼岸
神奈川県      石鎚 優
あぜ道をたどる家族や秋彼岸
初めて鳴く虫らしき声秋彼岸
秋彼岸だれかに似たる黄蝶かな
山脈にも久闊を叙し秋彼岸
大黒のまるき微笑や秋彼岸
茨城県      りんむう
秋彼岸見えぬ誰かに会釈して
もち米を蒸す匂ひなり秋彼岸
秋彼岸曾祖父母の名知らぬなり
大分県      財前智子
秋彼岸虫除けスプレー念入りに
亡き人のあんこの甘さ秋彼岸
住職の一気に増える秋彼岸
三重県      後藤允孝
静けさやピアノの流る秋彼岸
墓石は草に埋もれ秋彼岸
秋彼岸黄泉の道のり遠からず
吾一人墓守となり秋彼岸
旅先の道連れとなる秋彼岸
三重県      治もがり笛
秋彼岸墓石に浸す地下の水
父が編む莚の結び秋彼岸
福岡県      たこ
忙しなき 辻に伽羅の香 秋彼岸
鳶の声 しかと届くや 秋彼岸
秋彼岸 開いたままの 花鋏
土鍋出し 粥炊く秋の 彼岸かな
青空に 大島映ゆる 秋彼岸
熊本県      貝田ひでを
現世の雑事に過ぎし秋彼岸
合掌を真似て児もする秋彼岸
仮の世に長居許され秋彼岸
北海道      飯沼勇一
海見へる墓地の賑はい秋彼岸
極太の書の香供へし秋彼岸
大柄の僧の足早秋彼岸
秋彼岸ギラギラの波キラキラへ
長雨の果ての青空秋彼岸
愛媛県      加島一善
母の背(せい)小さくなりし秋彼岸
薄衣一枚羽織る秋彼岸
畦道を今年も赤に秋彼岸
孫来たり爺の目笑う秋彼岸
鈴(りん)磨く傍に孫寝る秋彼岸
愛媛県      山路翼
我が家の戸籍謄本秋彼岸
亡き人とともに歩んだ秋彼岸
秋の彼岸に祈りを込めてまた一年
秋彼岸赤いあいつに目を凝らす
瀬戸大橋に見ゆるは秋の彼岸かな
神奈川県      龍野ひろし
福耳の僧の説教秋彼岸
大阪府      澤部富喜男
ひぐらしや手桶線香秋彼岸
天に消ゆ煙1本秋彼岸
母と行く手桶線香秋彼岸
東京都      腹胃壮
糠床を還す手つきや秋彼岸
出張のあわひの実家秋彼岸
耳遠き父母と夕餉や秋彼岸
ブラジル     玉田千代美
秋彼岸遺影に供ふマンゴの実
亡き夫を偲びつ祈る秋彼岸
うとうとと法話を聞きぬ秋彼岸
叶へごと祈る老人秋彼岸
大阪府      太田紀子
奥津城の箒目白き秋彼岸
寺に人集ひ散りゆく秋彼岸
岐阜県      ときめき人
秋彼岸円空仏の笑み真似る
千葉県      吉沢美佐枝
墓までを海沿ひの道秋彼岸
御手綱に結ぶ願ひや秋彼岸
酒一升墓にかけてや秋彼岸
渋滞のバスに倦みたり秋彼岸
東京都      豊宣光
秋彼岸隣の墓も黒光り
秋彼岸雲なき富士の近さかな
血の色に咲く花ばかり秋彼岸
沈む日は浄土の色や秋彼岸
秋彼岸けふより長き袖通す
ブラジル     広田ユキ
まだ若き夫の遺影や秋彼岸
戸籍我一人となりて秋彼岸
秋彼岸おはぎは母の十八番
異人僧の読経朗朗秋彼岸
妻の墓に誰が参りし秋彼岸
千葉県      横井隆和
・鳴き始む卒塔婆に虫の秋彼岸
・君発ちて早や一歳の秋彼岸
アメリカ     姥桜
赤ジンジャー常夏の墓地秋彼岸
秋彼岸海の彼方に手を合わせ
マンゴーとアボガド揺れて秋彼岸
カーディナル来る庭先に秋彼岸
母おくり初孫迎え秋彼岸
岡山県      岸野洋介
郷の家つぐは弟秋彼岸
牡丹餅を上戸もつまむ秋彼岸
ひとしきり世間話や秋彼岸
スーパーに僧侶もおりし秋彼岸
いずこにも妻の影あり秋彼岸
神奈川県      成田あつ子
よき声の法話響くや秋彼岸
秋彼岸妣の帯しめ妣を訪ふ
石濡れて誰か詣でし秋彼岸
穏やかにひと日暮ゆく秋彼岸
秋彼岸手桶に白き雲流れ
千葉県      隼人
終活に思ひ至るや秋彼岸
吾が墓所を何処に為さむ秋彼岸
溝川にぽかりと雲や秋彼岸
大阪府      椋本望生
ペリカンも河馬も帽子も秋彼岸
米洗ふ音にも秋の彼岸かな
埼玉県      武市昭良
秋彼岸別れ話を切り出され
亡き妻の言葉偲びぬ秋彼岸
仏にも秘めしことあり秋彼岸
秋彼岸犬の遠吠え淋しげに
秋彼岸喪服の似合う女なりき
広島県      平川和裕
セピア色 十人十色 秋彼岸
愛知県      川俣周二
秋彼岸宅配便で供物の来
住職の代替わりして秋彼岸
秋彼岸先に訪ふ人のゐて
あいさつを次々交はす秋彼岸
秋彼岸檀家の絶えし墓仕舞ひ
神奈川県      重兵衛
少年の神妙な顔秋彼岸
霊園の広さに惑う秋彼岸
秋彼岸手押しポンプのある古刹
齢とらぬ遺影の母や秋彼岸
閼伽桶の段数増えて秋彼岸
東京都      岩川容子
住職は話し上手よ秋彼岸
生きすぎと笑う幸せ秋彼岸
老いの身に故郷遠し秋彼岸
大阪府      永田
偶数のやうな人なり秋彼岸
東京都      村井葛彦
秋彼岸持って行くのは赤い花
川を越え橋を渡りて秋彼岸
秋彼岸献立表に箸休め
東京都      中込眞澄
ふるさとの山穏かに秋彼岸
埼玉県      守田修治
秋彼岸甥叔父叔母に記憶なし
見えている国後遠し秋彼岸
なにごともなかったような秋彼岸
一人っ子雲の家族と秋彼岸
五時の鐘足早となる秋彼岸
埼玉県      小玉拙郎
この夏が山といわれて秋彼岸
秋彼岸練習曲のまだ未熟
復刊の文庫に迷う秋彼岸
千葉県      山田香津子
仏花買ふ房総の旅秋彼岸
庭野菜じつくり煮込む秋彼岸
祖母つくる牡丹餅五重秋彼岸
東京都      遠山比々き
石が着る衣裳売りをり秋彼岸
血液型各種集まる秋彼岸
死者よりも歳多き子ら秋彼岸
親まねて玄孫しやがめり秋彼岸
コンテストの入賞祈願秋彼岸
岡山県      岡村正美
撞く鐘に犬の遠吠え秋彼岸
秋彼岸参りし坂に蓼赤し
弁当のきんぴら香る秋彼岸
讃岐路のイモ天甘し秋彼岸
秋彼岸吉備路の塔の空青し
千葉県      下総真里
キャタピラの多き町なり秋彼岸
秋彼岸釣具の形して埃
巻爪は誰にも似ずや秋彼岸
東京都      碩真由美
紫の似合し祖母の秋彼岸
兵庫県      山崎衣玖
米二斗を車に積む祖母秋彼岸
飼ひ犬の位牌増えたる秋彼岸
運転を婿に譲りて秋彼岸
秋彼岸餡子嫌ひの末娘
秋彼岸供花直す手指輪なく
神奈川県      髙梨裕
手桶汲む水に生かされ秋彼岸
ざるそばは父の味かと秋彼岸
おひがんね臥す妻ぽつり秋彼岸
杖の音入日に去るや秋彼岸
参詣のお茶香り立つ秋彼岸
京都府      中村 万年青
秋彼岸従兄妹は黄泉へ神奈川で
温度差も西高東低秋彼岸
青空や足取り軽し秋彼岸