俳句庵

季題 2月「二月」

  • ひたむきに生きて老いしや古稀二月
  • 東京都     岩崎 美範 様
  • 杉玉のまだ新しき二月かな
  • 愛媛県     渡邊 國夫 様
  • 予備校の門へ一礼二月尽
  • 宮城県     武田 悟 様
  • 老犬と海を見てゐる二月かな
  • 滋賀県     船岡 房公 様
選者詠
  • 鳥の眸の風に鋭き二月かな
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の題は「二月」。二月と言う月は多様な表情を持っています。月初めに節分があり、翌日は立春。中学、高校、大学の入学試験も始まります。正月のめでたさも去り、月始めの雛祭や、社会的には人事異動などもある三月を翌月に控えた二月です。余寒の厳しい月です。皆さんの出句にも、その多様さが出ていました。最終予選の中から厳選の四句です。鑑賞に入りましょう。
 優秀賞の岩崎美範さんの句。「ひたむきに生きて」は世の常の倣いです。その結果に「老いしや」が待つのもまた同じです。しかしこうして俳句の上五中七の形を取ると、自ずと納得されます。作者にとって今年の二月はまた、古稀となる月でもあります。
 渡邊國夫さんの句。「杉玉」は、「酒屋で、杉の葉を束ねて球状にし、軒先にかけて看板とするもの」と辞書にあります。よく見る景です。この句、「まだ新しき」が文字通り新鮮な表現となっています。加えて「二月かな」の結びも良く分かります。
 武田悟さんの句。「予備校の門へ一礼」で、全てが理解されます。長い受験生の日々も研鑽のお陰で無事合格となり、今日は予備校にお礼参りに来たのです。その喜びが良く出ています。「門へ一礼」の謙譲さがいいですね。「二月尽」も適確です。
 船岡房公さんの句。「湖」は「海」としました。一見作者の意志は出ていませんが、「海を見てゐる」に、無言劇のおもむきを感じます。「老犬」と「海」が、そのパントマイムを良く助けています。「海」には無限の存在があります。
 今月の佳句。〈一色の絵具買ひ足す二月かな 金子加行〉。〈一水の煌めきに来る二月かな 津田明美〉。〈稀に人通る二月の切通し 塚本治彦〉。〈母の忌の二月の水の硬さかな 原川篤子〉。二月が良く出ています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。