俳句庵

11月『時雨』全応募作品

(敬称略)

埼玉県     飯塚璋
しぐるるや浮桟橋に人の影
兜煮の目玉こぼるる小夜時雨
時雨忌や多羅葉書く文字遊び
愛媛県     砂山恵子
みづうみに蓋あるごとき時雨かな
夕時雨叱り過ぎたる子を探し
しぐるるやバックミラーに消ゆる影
時雨傘猫背の医師とその妻と
片時雨漁村のバーに付けまつげ
新潟県     近藤博 
時雨るるや媼駆け込む雁木かな
時雨雲稜線すっぽり覆ひけり
時雨晴れ雨粒きらら照りにけり
初時雨上枝を濡らし過ぎにけり
時雨るるやぴたり肩寄す催合ひ傘
兵庫県     季凛
散歩中犬と目の合ふ時雨かな
はたはたと風呂場の外は時雨かな
苔のある心時雨に洗わるる
時雨るゝや第4コーナー傾斜して
闇時雨ダイヤの煌めきだけ残す
千葉県     柊二
裏に聞くブルーシートの町時雨
神奈川県     松野勉
しぐるるや順番待ちの自由軒
二軒目は裏の角打ち時雨かな
愛媛県     佐藤めぐみ
夕時雨シチューの鍋の底に焦げ
時雨るゝや薄衣まとふ山頭火
初時雨敷物を替え夕餉とす
小夜時雨独り黙って糸を編む
朝時雨同窓会の知らせ有り
千葉県     玉井令子
ワイパーを弱く動かす時雨かな
強風のなぎ倒したる木に時雨
襟立ててやり過ごしたる時雨かな
時雨るなブルーシートの屋根愁う
自転車のサドルを濡らす時雨かな
熊本県     貝田ひでを
しぐるるや下町気質江戸しぐさ
しぐるるや嵯峨野の店に軒を借る
しぐるるや三味の音を聞く先斗町
時雨来て四囲の山々墨絵めく
万事屋も昼を灯して村時雨
神奈川県     佐藤博一
さっと来てささっと去し時雨かな
時雨るるやつれづれなるまま方丈記
時雨来てしみじみものを思ふかな
ブランデーあたためめをれば時雨止む
東山晴れて西山時雨けり
千葉県     渡邉竹庵
時雨るるや握つたままの火傷の手
時雨るるや軍記物読む講談師
埼玉県     いまいやすのり
改札の出口挟んで片時雨
急かさるる移動販売夕しぐれ
朝しぐれ出掛けの迷ひ喪服かな
開いては又開いては時雨傘
時雨るるや釣り人立たず見上ぐ空
奈良県     堀ノ内和夫
しぐるるやどこまで続く峠道
初時雨濡れて光れる石舞台
大阪府     木山満
化粧取り寛ぎて聞く時雨かな
時雨虹架かりて夫の回忌果つ
時雨来る取り残されし風鈴(すず)の鳴る
時雨つつ時雨つつなお時雨けり
街時雨看板の文字消す如く
兵庫県     岸下庄二
しぐるるや相合傘の老い二人
しぐるるや出口一つの無人駅
飛石の上に留め石片時雨
夕時雨バス待つ列の長きかな
小夜時雨最終便の汽笛鳴る
山口県     ひろ子
しぐるるやバス停傘の出番待つ
鉢植えのアボガドの実や秋時雨
断捨離を終えてことしの秋しぐれ
墓じまい増えてしぐるる六地蔵
栃木県     鹿沼 湖
おはしよりの芸妓の小股時雨傘
夫を待つ鄙のバス停夕時雨
まつさらな朝刊滲む時雨かな
岐阜県     金子加行
首都のビル厚き硝子や時雨飛ぶ
老いてなほ働く肩に時雨れたる
時雨るるや一献もよし旅独り
時雨るるや革靴ひとつ駄目とせし
時雨るるや次のバスまで小半日
大阪府     藤田康子
洗礼名持つ母なりし村時雨
村時雨オラショの島の赤レンガ
東京都     岩崎美範
珍しく予報通りにしぐれけり
青春の本郷菊坂しぐれけり
しぐるるや茶房の壁に一茶の句
花街に蛇の目の開く夕時雨
しぐるるや車窓に夜の観覧車
宮城県     武田悟
時雨るるや閑散として湯治風呂
時雨るるや寝返りあった古戦場
病床の窓へ時雨のイ短調
時雨去り里は光の水たまり
福岡県     深町明
しぐるるや単車が息を吹き返す
しぐるるや履き潰したるスニーカー
しぐるるや単車のキック二三発
玉浮子のぴくりぴくりと初時雨
構はずに洗車してゐる時雨かな
千葉県     伊藤博康
カーテンを引くが如くに時雨けり
しぐるるや信号早く変わらぬか
いつも見るここらの山も時雨けり
しぐるるや小走りになる駅舎まで
繰り言を時雨の陰に控へさせ
宮城県     西條光観
朝に陽の夕に時雨の金華山
しぐるゝや間もなく犬の展覧会
しぐるゝや軒先借りて野点かな
遠山の輝き増してしぐれ来る
しぐれきて悠然と行く妊婦かな
岡山県     渡辺 牛二
片時雨播州平野真つ二つ
長野県     岩井馨子
田の鮒の引きあげ時や時雨ふる
神奈川県     皆空亭
そんな名の献立思ふしぐれ哉
窓際の珈琲二杯時雨どき
ワイパーに滲むネオンの夕時雨
二児乗せて漕ぐ足急ぐ夕時雨
天帝の涙腺緩しまた時雨
愛媛県     加島一善
しぐるるや野良猫歩く塀の上
仁和寺の白砂に消へる時雨かな
ネオン消へ銀座の路地の月時雨
写経する窓の向こうに時雨かな
立ち竦み時雨の色を愛でにけり
長野県     木原登
しぐるるや檜皮葺なる善光寺
雲割れて千曲川へさつと時雨虹
碑に是より木曽路初しぐれ
山毛欅の幹しづかに濡らすしぐれかな
熊笹を時雨が過ぎてゆきにけり
神奈川県     川島欣也
道草の子供の竹刀時雨傘
時雨るるや富士に四つの登山口
時雨るるやLEDの交差点
小夜時雨八十路に届く別れかな
時雨ゆく善男善女の女坂
静岡県     城内幸江
内職の手の薄明り小夜時雨
東京都     内藤羊皐
夕時雨加賀十万の夜を韻き
窯跡の陶片乱す時雨かな
埋葬を終へて時雨を聴く夜かな
しぐるるやヴォーカリストに高きこゑ
味噌工場跡の小路を時雨けり
茨城県     風峰
ゆるらかに湖に溶け込む時雨虹
しばし寝の時雨過ぎゆき夜の黙
切れ切れに棚田映りし時雨虹
時雨るるや待ち人多きらうめん屋
夕時雨橋下群るる部活の子
兵庫県     髙見 正樹
時雨避けつい立ち話晴れゆける
大阪府     津田明美
五百羅漢濡れて一山時雨けり
人生の踊り場に居て時雨けり
軒先に会話花さき夕しぐれ
見舞へども連れて帰れず時雨たり
石だたみ時雨て古都の色となり
神奈川県     塚本治彦
山の辺の道の半ばや村時雨
片時雨五百羅漢の泣き笑ひ
横時雨後ろ姿の山頭火
耳成の晴れて畝傍の片時雨
三塔の法起寺だけの片時雨
宮城県     林田正光
退院の妻の黒髪片時雨
散髪を終へて時雨に出会ひけり
恩人の送別会なり小夜時雨
逝きし人送る人にも通夜時雨
時雨忌や奥の細道旅立ちぬ
東京都     勢田清
時雨降る音ばかりなる山路かな
時雨の日もう薄暗き午後一時
山道の時雨行き交う人も無く
しぐるゝや社の中は板の床
時雨道芭蕉蕪村も旅の人
広島県     永野昌人
しぐるるや京に西入ル東入ル
濡れてゐる道は時雨の去りしあと
しぐれては道を濡らしておはりけり
舗装路の湿りは先の時雨かな
日帰りの旅の松江の時雨かな
神奈川県     矢神輝昭
時雨ては猿の群れあり木木渡る
時雨来て雉が鳴きたり走りたり
釣舟や時雨来るらし足早む
しぐるるやコンテで描く奈良盆地
時雨ては丹沢山系神隠し
千葉県     峰崎成規
タワービル隠し昭和へ街しぐれ
たちまちに黒む玉砂利初時雨
しぐるるや逃げ音速しピンヒール
ワイパーの振り分け忙し横時雨
電飾の赤ときめけり夕時雨
徳島県     白井百合子
別れても別れなくても時雨降る
時雨傘滴もどこか重たくて
髪濡れたままの参拝村時雨
時雨忌や天も芭蕉の句に遊ぶ
忘れ時の月命日に時雨けり
神奈川県     海野優
子なき身へ写真葉書の来る時雨
京四日奈良の三日もしぐれけり
妻問ひの途次にしぐれて宿りかな
時雨して坂道のみのつづく道
千葉県     三好弘國
時雨るるや西山越えて東山
時雨るるや朦朧体の東山
少子化を憂ふ大仏秋時雨
しぐるるや蛇の目を選ぶ石畳
時雨雲切れて日矢射す桂川
東京都     笹木弘
秋時雨に武者震ひして猫戻る
ガス灯の煙る小樽の秋時雨
石垣の苔を育てる初時雨
礒の香の浜に漂ふ時雨雲
時雨来て舟に揺れたる小名木川
島根県     寺津豪佐
豆腐屋に大豆の仕込みしぐれ来る
蕎麦湯もう一杯時雨やり過ごす
カボチャ煮て魚焼く間の時雨かな
雪雲の産声幽か小夜時雨
時雨過ぐ町は夕陽の黄金色
滋賀県     船岡房公
一力の赤壁くすむ小夜時雨
高欄の木目浮き立つ時雨かな
彩なせる嵐山隠す京時雨
石積みの里に灯ともる夕時雨
南座の跳ねし祇園や夕時雨
埼玉県     岸保宏
読書して付箋進まぬ時雨かな
昨日より咳静かなり時雨かな
ひと時雨過ぎて仏壇掃除せり
埼玉県     守田修治
しぐるゝや高砂部屋の朝稽古
少し酔い少し眠りて時雨かな
しぐるゝや御室の里は幕を閉じ
遠景に農夫の鍬のしぐれかな
留守番の独り言多し時雨かな
千葉県     鳥越暁
ささぬ人さす人混じるひと時雨
番傘の骨の集めるひと時雨
立枯れの葉の軽ろき音の時雨かな
裾はしょり時雨るる中の下駄の音
高原の時雨の狭間色失せて
東京都     石川 春兎
旗艦店のドアマン異人街時雨
しぐるるや片手に重き広辞苑
耳だけのフレンチトースト朝時雨
兵庫県     岸野孝彦
父母と夜半に目覚める時雨かな
葉に置きし水玉光る時雨かな
無人駅茜に染まる時雨かな
苔寺の薄暮に白き時雨かな
傘ささず黒髪濡れる時雨かな
神奈川県     守安雄介
時雨るるや軍艦島の黒ペンキ
初時雨ブルーシートに水の窪
時雨るるや山本山は茶に帰せり
時雨るるや視界不良の大和堆
時雨るるや狭庭の土の黒痘痕
愛知県     常磐
臨月の半歩半歩を村時雨
兵庫県     はなちる
仕事終え帰宅を迷う夕時雨
待ちわびる妻の帰宅や小夜時雨
祈る日の葉の雫落ち朝時雨
小夜時雨吾子の寝息に目覚めたる
君の腕つかんで走る夕時雨
千葉県     長谷川ぺぐ
屋根めくれ風にさらされ時雨かな
しぐるるやブルーシートの屋根の町
さすらひてさすらひてなほ時雨まち
嵐去り町はひつそり時雨傘
三重県     後藤允孝
嵯峨野来て時雨移りを展望す
北山の時雨て古都の暮急かす
三尾巡りいつも何処かで逢ふ時雨
梵鐘の余韻背に受け時雨坂
茅葺の苔の艶めく夕時雨
岐阜県     ときめき人
廃線の鉄橋消ゆる北時雨
神奈川県     立野音思
夜深し読む手を止める虫時雨
喫茶店硝子を濡らす夕時雨
しぐるるや墨絵のごとき松林
しぐるるやほのかに滲む橋灯り
神奈川県     猪狩 千次郎
初しぐれ鳴門海峡静かなる
燈明の地に映り初む夕しぐれ
しぐるるや亡父愛用のソフト借り
しぐるるや光り初めたる力石
しぐるるやきざはし穏き二月堂
東京都     伊藤はな
アイロンにあずける皺や朝時雨
悲しみに涙の時雨明日は晴
止まり木にワインの匂ふ時雨来る
夕時雨曇る硝子に名を記す
東京都     伊藤之忠
改築のブルーシトに時雨来る
自転車に立ちはだかるや村時雨
時雨来る砂防に落ちる砂時計
千葉県     四葩
山頭火の一間の家の軒時雨
時雨きていとど静けき空家かな
千葉県     入部和夫
トランプの奇策や如何時雨けり
雑踏に馴染の飲み屋夕時雨
尽くしても尽くせぬ議論小夜時雨
北陸路しぐれがちなる海の色
バス停に母を送りて時雨るるや
東京都     かつこ
野良猫にポーズ撮らせし時雨かな
ベランダの洗濯見てる時雨かな
エプロンでカメラ片手の時雨かな
愛媛県     渡邊國夫
しぐるるや村に一宇の天満宮
校庭の尊徳像のしぐれをり
しぐれけり目鼻のうすき六地蔵
禅苑の鶴亀の島しぐれいる
銃眼を備ふ名刹しぐれけり
東京都     豊宣光
時雨るるや老いぼれ犬の濡れそぼつ
道中を追いかけてくる時雨かな
半島の煙りて海の時雨かな
時雨るるや待ち人遅き喫茶店
托鉢の僧の鉢打つ時雨かな
京都府     吉田稜光
藍染の暖簾に替へる初時雨
マネキンの腕はずされて初しぐれ
プリンタの文字の掠れや夕時雨
一人減り二人減りけり夕時雨
正室の茶室に光る時雨かな
千葉県     いなだはまち
赤提灯あかく灯りて夕時雨
バス停に傘差しのべる時雨かな
白タクに出で逢ふ二人小夜時雨
愛知県     斉藤浩美
ビル壁を走るライトや小夜時雨
尊徳像読書つづけて夕しぐれ
駅頭に迎えの車時雨けり
裸婦像の乳首尖りて初時雨
国道に広がる油紋小夜時雨
愛知県     木下澄枝
玉砂利の軽き足音片時雨
神鶏のしだり尾ぬらす時雨かな
海分かつ橋立の道しぐれけり
北山の磨き丸太や朝時雨
しぐるるや島に西港東港
神奈川県     志保川有
早朝のしぐれ危急の兆なり
時雨るるや日暮れて道のなほ遠し
故郷(さと)追れし時雨に今は癒さるる
時雨るるや心経の声高く低く
時雨るるや止るべきか行くべきか 
神奈川県     龍野ひろし
時雨たる京の一日を寺巡り
初時雨オランダ坂を濡らしゆく
時雨るるや灯り消えたる老舗宿
時雨るるや定刻過ぎしバスはまだ
愛知県     新美達夫
鍛冶町も鉄砲町も時雨れけり
小窓より湯舟に聞きぬ夕時雨
蓑傘を着け露天湯の時雨かな
兵庫県     村山祥江
君となら 時雨も嬉し 傘一本
一杯の 珈琲飲む間の 時雨かな
時雨虹 友の門出を 祝いたる
山口県     山縣敏夫
軒下に駆け込む二人夕時雨
下校する子等の背中に夕時雨
しぐるるや愛犬供に家路急く
里山の棚田に注ぐ村時雨
ガン告知受けて家路の時雨かな
大阪府     永田
初しぐれ十勝の土間の広きこと
三重県     西井治男
夕時雨傘は挿さずに二人道
埼玉県     水夢
料亭の明りが灯る小夜しぐれ
海猫なく北の波止場の小夜時雨
しぐるるや京都太秦撮影所
時雨るるや松美しき瑞巌寺
時雨くる花見小路の裏通り
奈良県     平松洋子
下校時の生徒騒めく時雨かな
しぐるるや小道ゆっくり二人連れ
出勤の夫の背丸くしぐるるや
神奈川県     重兵衛
鯖街道時雨を抜きつ抜かれつつ
大橋を渡れば湖西時雨けり
時雨るるや弁柄格子に古簾
片時雨京の町屋黒格子
托鉢の僧の網笠時雨けり
東京都     佐藤博重
夕しぐれ竪穴住居煤匂ふ
広葉の縄文の森時雨れけり
時雨るるや故山にはかに遠くなり
三重県     平谷富之
ヘルパーの買物邪魔する時雨かな
この時雨巨人軍の涙とも
神奈川県     井手浩堂
あんパンを買うて時雨の裏通り
桟橋を客船離る夕時雨
なかんづく祇園小路のしぐれかな
神奈川県     亀山酔田
海沿いの時雨に濡れて人と犬
茶粥吹く南都は今朝もしぐるるか
しばらくは茜の波頭しぐれ去る
しぐるるや小さき寺に響く鐘
草枕奈良の時雨を聞いてをり
岡山県     岸野洋介
時雨傘たたみ熱燗頼みけり
陶器市時雨れてしばし品定め
古都奈良の駅を出れば片時雨
山峡に虹かけ過ぎる村時雨
小夜時雨生きているかと電話くる
東京都     中田ちこう
軒内の三和土染めわけ時雨けり
埼玉県     小玉拙郎
時雨抜け路面電車の乾きゆく
寺町は時雨てましたと畳む傘
竹林の葉音くぐもる時雨かな
時雨てもぬくもり消えぬ商店街
埼玉県     哲庵
落柿舎の簔傘濡らす時雨かな
しぐるるやすべて京向く流人墓
時雨傘産寧坂を下り行く
遺句集を読むやしぐるる湖明かり
嵯峨時雨じゃこ煮る烟混じりたり
東京都     岩川容子
はやばやと都電灯ともす夕時雨
時雨れきておいてきぼりの三輪車
しぐるるや極楽寺への坂長き
朝しぐれ昨日と違う木々の色
時雨冷波うちつける能登荒磯
千葉県     隆泉
秋のツケ返すジョギング朝時雨
両の手に白菜好きのしぐれ坂
交差点花のワルツや時雨傘
末っ娘の八百屋走りや夕しぐれ
ブラジル     林とみ代
舞子はんの下駄音かろき京時雨
時雨来て相合傘の二人かな
園丁の一服してる時雨かな
露天商の店たたみたる夕時雨
担ぎ屋のよろめき行くや朝時雨
福岡県     西山勝男
奥嵯峨の古刹めぐるも時雨傘
古色めく水城をまたぐ時雨虹
大いなる阿蘇をそびらに時雨雲
土寄せの土の香ほのと初時雨
埼玉県     吉野静
路地裏のカレーの匂ひ夕時雨
夕時雨わびる心をメールする
地下道を出る銀座の時雨かな
山頂の日の照りながら時雨をり
寂しさに触れて過ぎ行く時雨かな
神奈川県     原川篤子
湖の面騒がし過ぐる夕しぐれ
延段を少し光らせ時雨過ぐ 
時の鐘時雨の街をとよもせり
ランドセル揺らし来る子や時雨なか
しぐるるや小江戸に響く時の鐘
大阪府     太田紀子
長き貨車時雨るる街を通り抜け
歌仙展出るや時雨るる京の町
時雨るるや小町はいつも顔みせず
東京都     安西信之
日韓の埋らぬ溝や片時雨
しぐるるやすこし歩けば西銀座
恋人に戻る時雨の銀座かな
しぐるるや湯引きにちぢむ鯛の粗
大阪府     椋本望生
妙齢のナイスショットや片時雨
しぐるるや夢の続きを眠薬に
しぐれても色を隠せぬ観世音
べこの声村にこぼしてゆく時雨
とめどなく乳を欲しがる児に時雨
ブラジル     玉田千代美
時雨るるやはかない恋を捨てたまま
時雨来て旅の楽しさ邪魔さるる
時雨来て昔の恋を想ひ出す
時雨来る相合傘の恋燃ゆる
兵庫県     ぐずみ
角打ちの店を時雨の灯りかな
早仕舞ひ告げる庭師に時雨かな
しぐるるや人間嫌ひ募る午後
しぐれゆく松葉の先の光りたる
もみあげを終えし松葉を時雨けり
福岡県     多事
碁打らの四五人の見し時雨かな
資本論新訳出たり初時雨
我が胸の鳩放つ時初時雨
しぐるるや見舞籠より薫り来り
鉄臭き掌をしたままの夕時雨
東京都     飯田 哲司
母の顔近道急ぐ時雨かな
改札や傘忘れたり時雨雲
年寄りや時雨おしのけ巣鴨行く
東京都     豊島 仁
初時雨一直線なり隅田川
酔うて寝てやがて晴れゆく時雨かな
宿見えて天城峠の初時雨
天も地も富士も時雨るゝ摩天楼
待ち人をじらす銀座の時雨かな
京都府     中村 万年青
自転車で嵯峨野走れば夕時雨
しぐるるや酒倉に入る人の影
大井川釣人の背に村しぐれ
神奈川県     髙梨 裕
しぐるるや猫に餌やるホームレス
父母を看取りし生家しぐれけり
しぐるるや富士に甲斐あり駿河あり
縄文の遺跡さすらふ時雨かな
しぐれきて煮炊きの鍋のふくれけり