俳句庵

6月『入梅』全応募作品

(敬称略)

東京都     よしだ悠
入梅や廃炉九年の雨水桶
入梅の毛穴へぞろりコロナ虫
妻(め)の陰(ほと)を汗噴き出すや梅雨に入る
入梅の猿股ずりずりずり落ちて
入梅や壱億弐阡萬人へ錢
東京都     伊藤訓花
ブラウスの梅雨めく湿り朝の窓
骨折の足と連れ添ふ梅雨入かな
入梅の日本列島感染症
空低く草青々と梅雨兆す
梅雨に入る月は大きく重々し
千葉県     伊藤順女
緑濃き小径となりて梅雨入かな
掌に湿り気少し梅雨に入る
月曜の朝の気分や梅雨に入る
千葉県     伊藤博康
入梅に東も西も雲ばかり
農作業計画通り梅雨に入る
東より入梅を呼ぶ雲のあり
入梅や作業着重き魚市場
新しき傘振り回す梅雨入かな
神奈川県     井手浩堂
公園の木々も木馬も梅雨に入る
入梅や重たき革の旅鞄
いく度も水位見に出る梅雨の入り
徳島県     井内胡桃
群鳩のくぐもる声も梅雨に入る
堂鳩が雨の風呼ぶ梅雨入かな
かき上げし重き前髪梅雨に入る
長靴は十七センチ梅雨に入る
小さき屋根白い門扉も梅雨入かな
東京都     右田俊郎
休校のつづく子不安梅雨に入る
コロナ禍の宣言解除梅雨に入る
入梅や無沙汰の友へ手紙書く
入梅や不安と安堵入り混じる
入梅やむかしの手紙処分する
大阪府     永田
初夏やラジオ体操正確に
広島県     永野昌人
下駄好きの妻のペディキュア走り梅雨
湿気てゐる駄菓子の袋梅雨に入る
煮魚に添へる生姜や梅雨に入る
大仏の鎧ふ緑青梅雨に入る
愛媛県     アリマノミコ
入梅や墓の和草すると抜け
草木染めいのちをうつし梅雨に入る
枝うちの北山杉に梅雨入りかな
神奈川県     志保川有
探し物いまだ見だせず梅雨に入る
若きらの訃報の絶へず梅雨に入る
入梅や武郎四十五歳の死――有島武郎
雨樋が主役に浮ぶ梅雨入かな
孫の手で薬引寄す梅雨入かな
千葉県     風泉
・核にコロナに梅雨入りの汗防護服
・名を入れる吾子の雨具や梅雨の入り
・梅雨入りの山路の犬へフライ買う
富山県     岡野 みつる
午後からは読書と決める梅雨の空
梅雨入りの山はいよいよ青みたり
午後からは読書と決める梅雨の空
梅雨入りにいよいよ山の青さかな
梅雨晴れに用事抱えて走りけり
愛媛県     加島一善
入梅の自然菜園草を抜く
梅雨に入る今日は記念日ケーキ買ふ
梅雨めくや善根宿の屋根直す
入梅やトマトの苗にビニール傘
梅雨めくや消えずに残るi飛行機雲
愛知県     加藤峰子
梅雨入りを女予報士笑みで告ぐ
入梅や鬼籍の人の日記出づ
梅雨入りの気配はそこに本を積む
入梅を阻む家紋の鉄扉
捗らずため息ばかり梅雨に入る
神奈川県     海野優
入梅を家居のままに迎へけり
地下街の天上見上げ梅雨入かな
何となく傘持ちて出る梅雨入空
閉店の文字くろぐろと梅雨に入る
兵庫県     岸下庄二
入梅や三本立ての映画観る
研ぎに出す包丁二本梅雨に入る
入梅や反応鈍き風見鶏
入梅や通路の狭き古本屋
入梅や窓から外見る猫二匹
兵庫県     岸野孝彦
入梅や鉛の空に浮かぶ月
入梅や草刈り終えて塩むすび
入梅やぬかるみ消えて里消えて
入梅や棚田に向かう父母は亡き
入梅や越中富山の薬売り
長野県     岩井馨子
りんの音のかすかに湿る梅雨入りかな
東京都     岩崎美範
良経の歌そのままに梅雨に入る
街商の空を見上ぐる梅雨入かな
姉の忌の近づくを知る梅雨入かな
髪の毛のうねり始むる梅雨入かな
苔寺の日がな賑ふ梅雨入かな
東京都     岩川容子
入梅や泣きだしそうな羅漢あり
入梅やしばらくぶりに手紙書く
縁側に顔洗う猫梅雨に入る
愛知県     岩田遊泉
コロナ禍の収束近し梅雨に入る
相撲部屋の重きのぼりや梅雨に入る
古傷のまた痛み出す梅雨入かな
搦手の開かずの扉梅雨に入る
梅雨に入り三処攻めの辛さかな
神奈川県     亀山酔田
遺失物係の机梅雨に入る
入梅やプラモ塗装の換気中
稚児が淵潮渦巻く梅雨入り哉
大峰山奥駆道の梅雨めいて
槍の先見えぬと古老梅雨に入る
茨城県     風峰
入梅の街はモノクロ雨ざんざ
予報士の瞳みず色梅雨に入る
珈琲の挽く音かすれ梅雨入かな
めんつゆの味は薄味梅雨入かな
鬱の字は二十九画梅雨に入る
埼玉県     いまいやすのり
梅雨めきて今日のパソコン不調なり
入梅の百人番所靄の中
風見鶏をりふし動き梅雨に入る
改札を出でて見上ぐる梅雨入月
古希近し赤い傘買ふ梅雨入かな
岐阜県     ときめき人
入梅や五百羅漢を覆ふ苔
東京都     よしだ悠
校庭なほも梅雨めく空や打球音
梅雨めくや毛穴へじとりコロナ虫
感染者五百万超え入梅す
梅雨始まるコロナ戦争これからぞ
梅雨に入る廃炉九年の腐水桶
神奈川県     みぃすてぃ
入梅や渡り廊下で空見上げ
入梅や昨日と違う暗き空
バスを待つ小さき雨靴梅雨の入り
葉と葉と葉重なり合いて梅雨はじめ
若葉から青葉に変わる梅雨の入り
千葉県     玉井令子
梅雨入りて手入れのされぬ農地かな
日本一早い入梅めんそーれ
梅雨に入る屋根崩れたる空き家かな
入梅や二か月遅い新学期
下駄箱に風通したるついり前
新潟県     近藤博
入梅やコロナに重ね気の滅入る
素足なる足裏じめじめ梅雨に入る
涸れ沼の待ちゐし雨や梅雨に入る
鬱陶し読み書き難き梅雨に入る
梅雨滂沱ひすがら止まず昏れにけり
岐阜県     金子加行
天空も人も憂ひや梅雨に入る
入梅や一晩に伸ぶ草の丈
入梅や水に浮かせし島ひとつ
玄関に靴の乱れや梅雨に入る
ステンドのイエス涙や梅雨に入る
神奈川県     原川篤子
三つ編みの髪すぐ解けついりかな
濡れて来し星の切手や梅雨に入る
隠沼のにごりて暗き梅雨入りかな
水玉の傘贖ひて梅雨に入る
五十階雲は眼下に梅雨のいり
埼玉県     吉野 静
入梅やウイルス流す雨になれ
入梅や晴れの一と日の忙しき
入梅のやうな空とはこんな空
入梅や普通になりしテレワーク
入梅に色深めゆく山の樹樹
福岡県     戸澤孝一
入梅や若女将は傘ひらく
三重県     後藤允孝
関宿の街並み湿り梅雨に入る
梅雨に入る何するとなく昼灯し
鈍色の光を放ち梅雨に入る
磯の鳥みな羽たたみ梅雨に入る
この風は梅雨入の知らせ樹樹騒ぐ
兵庫県     高市敦之
入梅や前線の牛モーと啼く
入梅や翼となりて櫂光る
入梅や天気図を踏む猫の足
入梅や池に映りし点描画
入梅や天まで届く細き糸
愛媛県     佐藤めぐみ
朝風呂も楽しからずや梅雨に入る
長靴の並んで歩く梅雨の入り
遅目覚めそれもよしなに梅雨に入る
水溜りひょいと飛び越へ梅雨に入る
入梅やまだコロナ禍の浮かぬ朝
兵庫県     はなちる
入梅や産声響く待合室
入梅に土の乾きは一過性
入梅の風の重たき町となり
入梅や空気の読めぬ朝帰り
入梅に深き眠りの生家かな
東京都     勢田清
入梅の溝蕎麦半ば水の中
入梅の梅の実の毒恐ろしと
入梅の池広々と渓深く
入梅の畦のざりがに鋏立て
入梅の池端の道水没す
東京都     笹木弘
仁王像の剥げた膝から梅雨に入る
入梅や赤い衣の似合ふ巫女
天領の水嵩増やし梅雨に入る
入梅や鼻先光る摩崖仏
心字池の水面窪ませ梅雨に入る
神奈川県     三好康子
切れ悪しき碁石の音や梅雨に入る
どんみりと雲の垂れ込む梅雨入かな
草も木も呼吸(いき)を整へ梅雨入かな
瀬戸の海のたりゆったり梅雨に入る
梅雨入前厨の戸棚磨き上げ
東京都     山本 左利
吾子ひとり小銭を握る入梅路
子雀も家路の長き入梅かな
梅雨はじめ二輪背負う荷の行先や
幼子は入梅そこのけゴム草履
後書きは針重なりて入梅かな
山口県     山縣敏夫
コロナ禍の街に梅雨入り寂として
梅雨入りに妻の差し出す朱い傘
梅雨入りや傘差す子等の登下校
梅雨入りに綺麗どころが傘を差す
梅雨入りの観覧席に声も無し
島根県     寺津豪佐
ざあっと風ざあっと雲来て梅雨に入る
入梅や埃被りし鯨尺
乱取のやうな雨来て梅雨に入る
梅雨入りは去年もプール掃除の日
入梅や試掘調査の粘土層
埼玉県     守田修治
快活に唄う雨あり梅雨に入る
名画座に駆け込む二人梅雨に入る
荒梅雨や水琴窟の音澄める
しとどなる梅雨こそ楽しハーモニカ
合宿の振子時計や梅雨に入る
東京都     秋元幸男
籠り入梅 ガラス押し付け こぶた鼻
入梅の鞍 泥迸る 京都右回り
おしかかる 入梅雲傘越し えいと返し
入梅きざす 街の路面に くろびかり
鼻先に ガラス押し付け 籠り入梅
茨城県     小松崎孝志
入梅や認知の検査始まりぬ
入梅や吊り天井の如き雲
入梅と障子の軋み報せおり
入梅や巣もぐり生活まだ明けぬ
入梅か曇天の日続くなり
神奈川県     岳
丸善の洋書の匂ひ梅雨に入る
梅雨空の彼方に何を見るゴリラ
囚われの河馬の屈託梅雨の空
梅雨の夜サーチライトの警備艇
図書館の句集三冊梅雨ごもり
東京都     松小庵
入梅に 歌声競う 蛙たち
入梅と 冷やし中華が 徒競走
入梅や 傘が満開 通学路
入梅や 初孫と猫 なき止まず
入梅で 出番が増える 乾燥機
神奈川県     松野勉
入梅や夕餉は家族水入らず
入梅や畳でごろり堕落論
静岡県     城内幸江
入梅や母の後ろをゆく子ども
入梅や渇くこと無き水溜り
古井戸の深さを知らず梅雨に入る
入梅や葉も花弁もやや重し
愛知県     新美達夫
物捨てて机上広ごるけふ梅雨入
雨もまた楽しからずやけふ梅雨入
隣家より調律の音梅雨に入る
断捨離の捗る今日の梅雨入かな
大阪府     森 佳月
本五冊積めばすぐにも梅雨入りかな
パソコンの起動待てずに梅雨に入る
下宿にてヘアピンの謎梅雨に入る
入梅や猫右足で顔洗ふ
一人居の広き湯船や梅雨に入る
福岡県     深町明
貝殻のとりどり九十九里梅雨入
江戸切子きらりきらりと梅雨に入る
入梅や茹で上がりたる手長蝦
梅雨入りや頬かむりする夜勤明け
納竿の刻も過ぎたる梅雨入かな
神奈川県     十弍番
浪砕く荒磯諌む梅雨の入り
入梅やつま先ばかり見て歩き
入梅やせいろ一枚追加せり
入梅や井戸端会議の空笑い
梅雨の入り水平線を流し去り
東京都     一塁手
梅雨晴にさしてすぼめずこども傘
梅雨寒に染め抜く紋の鮮やかさ
梅雨曇り黴たる餅の前線図
空梅雨に親子蛙の遠近法
梅雨入りの母の手ひく子雨合羽
大阪府     杉本義雄
入梅雨やてるてる坊主あちら向き
入梅雨や工事現場の鉄花火
入梅雨に母より届くふるさと便
入梅雨や孫の旅立ち眩しくて
電柱に献花置かれて梅雨に入る
三重県     西井治男
栄養素入梅時期の一工夫
列島もよう入梅開花時期同じ
福岡県     西山勝男
梅雨に入る阿蘇の寝姿朦朧と
粛々と迎ふほかなき梅雨の入り
手付かずの線路いまだに梅雨入かな
然らでだに疫におののく梅雨入かと
筆頭に梅雨入と誌す農日記
福岡県     すがりとおる
上げ潮は運河に沿ひて梅雨の入り
入梅や湿とる暖簾の青海波
造船の音ひびきあふ梅雨入かな
埼玉県     水夢
入梅や本丸までの長き坂
入梅や拍手の中を嫁入り舟
湿りだす鰐口の音梅雨に入る
芭蕉句を紐解く朝や梅雨に入る
赤提灯にじむ茶坊や梅雨に入る
宮城県     zazi
梅雨入りや一月半の一日目
花嫁を迎えゆったりのたり梅雨に入る
宝くじ売り場がらんと梅雨に入る
梅雨入りや絵を画く人の居る酒場
食卓が無人になりて梅雨入りかな
愛知県     斉藤浩美
紙すべて腰のなくなり梅雨に入る
万の傘改札を抜け梅雨に入る
入梅や傘無きものはみな逃げよ
人間は人間を避け梅雨に入る
入梅や抽斗すべて重くなる
千葉県     いなだはまち
長靴の名前くつきり梅雨うれし
入梅の寮の起床のこゑかすか
梅雨始め棋聖の七六歩ぴちやり
梅雨入や早速届く入門書
アイロンの蒸気くぐもり梅雨に入る
大阪府     石原 由女
耳を過ぐ風の重さや梅雨に入る
入梅やうつむき顔の道祖神
襟足にとどまる風や梅雨に入る
枕木に据えた滲みありついりかな
ハンドルもペダルも重し梅雨きざす
東京都     石川昇
赤橙の滲む交番梅雨の入
梅雨入や理想と違う定年後
静岡県     浅原幸子
入梅の空を気にするアマガエル
入梅やゆったり時を刻みだす
滋賀県     船岡房公
梅雨入りや朝刊はつか端捲れ
句会持つことも間遠に梅雨入りかな
寝直して倦まざる犬や梅雨に入る
御神燈の点もらざるまま梅雨に入る
見えぬ敵抗へぬまま梅雨に入る
栃木県     鹿沼 湖
中辛のカレーあぢはひ梅雨に入る
入梅やサイレン鳴らす救急車
入梅や朝の癖毛のまとまらぬ
抽斗の重き箪笥や梅雨に入る
大阪府     佳代
畦掛けた昭和は遠し入梅かな
入梅や母の手握り歩む畦
畦道を子も足取られ入梅かな
赤い傘ブラウスの映え入梅かな
入梅や小さき水筒カタカタと
神奈川県     大野昭彦
痛みだす古傷さする梅雨入かな
静岡県     大澤定男
梅雨に入る古希の身ほとり欠け湯呑み
梅雨に入る碁敵途絶へ途絶へかな
梅雨に入る阿吽の仁王浅草寺
梅雨に入る校内写生大会後
梅雨に入る倹しき人の路地深く
奈良県     平松洋子
入梅や生徒の数より多い傘
入梅や遊び足りなく帰る子よ
入梅やちらつく雨に肩すくめ
埼玉県     哲庵
走り梅雨迷路めきたり渋谷駅
故郷の梅雨入りの報せ届きけり
都市閉鎖開ければ次は梅雨の入り
反戦歌響く新宿梅雨に入る
入梅や駅の出口で母を待つ
神奈川県     重兵衛
馬刺喰ふ男ありけり梅雨に入る
ガリガリと歯の削られり梅雨に入る
人の世を隔てる知らせ梅雨に入る
迫りくる眼科医の顔梅雨に入る
道端にゴムまりひとつ梅雨入りかな
東京都     中田ちこう
読みさしのまま嫁ぎゆき梅雨に入る
ヒマラヤの風のあつまる梅雨入りかな
徳島県     白井百合子
入梅に赤い長靴出番待つ
入梅や百円傘にイニシャルを
入梅や晴れ間のうちに干す布団
入梅に暖簾の達磨笑顔なり
入梅やひとり暮らしになる予定
神奈川県     猪狩 鳳保
電線の青き火花や梅雨の入り
梅雨めくや灯台妙に輝いて
庭雀大あくびして梅雨に入る
墓石の妙に色づき梅雨に入る
梅雨めくやへちまの蔓の照り初めて
千葉県     萌
ロッカーに赤い置き傘梅雨に入る
入梅のキッチン甘い玉子焼き
入梅に爪皮なんぞ探しをり
藍暖簾くぐり蕎麦喰ぶ梅雨の入り
学舎の門閉じたまま梅雨に入る
千葉県     長谷川ぺぐ
つゆいりの空は何色はけんぎり
入梅の雨にくすぶるネオン街
やりきれぬ愚痴をついりのどぶに吐く
日持ちする食品選び梅雨めいて
銀鼠の雨やはらかに梅雨に入る
大阪府     津田明美
人去りてよりの身ほとり梅雨入りかな
入梅や路地の踏板音軋む
入梅の葎の鳥の声知らず
入梅や夕影深き樹間より
人去りて身の内に来る梅雨入りかな
神奈川県     塚本治彦
保険証切れたるままの梅雨入りかな
入梅や寝癖つきたる髪のまま
入梅や塗り絵綾取りお飯事
入梅や雨の吹き込む外厠
無住寺や無住寺のまま梅雨に入り
岐阜県     雅風
梅雨入りの傘行く銀座通りかな
予報より三日後れの梅雨入かな
富士山の表も裏も梅雨に入る
入梅や散歩嫌がる万歩計
美らさんの海より梅雨に入りにけり
滋賀県     坪田正温
入梅や厄除けの札貼りかへる
入梅や雨の匂ひの地下ホーム
お通しはキンピラゴボウ梅雨入かな
校門を閉ざしたままの梅雨入かな
入梅や門灯点きしままの家
山梨県     天野昭正
真夜中に赤子の泣きぬ梅雨の入
濡れて来る人に炉を焚く梅雨の入
松姫の逃れし峠梅雨に入る
ウイルスと戦ふ地球梅雨に入る
誕生日忘れし母や梅雨に入る
京都府     田端敏弘
面会の来ない頬杖梅雨に入る
梅雨に入る翁の像の旅支度
若き日のあだ名は河童梅雨に入る
入梅や互いに言えぬ事も糧
入梅や五坪の畑残す母
千葉県     四葩
入梅や喪服に白き襟と足袋
大阪府     藤田康子
入梅や一円切手貼り忘る
入梅や雨靴履かぬ街の人
東京都     内藤羊皐
幼子の積木崩れて梅雨に入る
稟議書の誤字の滲みて梅雨に入る
乳歯いま軒へ抛れる梅雨入かな
生け垣の匂ひ立ちたる梅雨の入
入梅の梢重たき杜の影
千葉県     入部和夫
入梅や老いをいたはるストレッチ
寄る辺なき静かな余生梅雨に入る
電柱に鴉の一羽梅雨の入り
晴耕雨読又楽し梅雨の入り
カラフルな傘を背負ふ子梅雨入かな
北海道     飯沼勇一
自主隔離する部屋狭し梅雨に入る
フェアウエイはやはらかなりし梅雨に入る
入梅や遅れ遅れの路線バス
ページ繰る指先で知るついりかな
梅雨入り空車椅子押す足重し
埼玉県     飯塚璋
入梅や駝鳥の玉子もて余す
入梅や年に一度の検診日
入梅や縁側の猫顔洗ふ
東京都     尾田 一郎
入梅に青き枇杷の実天を衝く
入梅に新装パン屋列長し
入梅の雨音ばかり日曜日
入梅に止めしブランコ木偶の坊
入梅や靴音高き女たち
千葉県     柊二
入梅や列島に肩ならべおり
三重県     平谷富之
ワイパーの動き激しく梅雨かな
入梅でなおさら遠のく外出が
介護士の洗濯困らす梅雨に入る
静岡県     平野宏
梅雨に入る生物兵器といふ愚
体温計の狙ふは額梅雨に入る
寅さんの自粛の恋や梅雨に入る
千葉県     峰崎成規
登校の黄傘影なく梅雨に入る
入梅の薄き夕刊重き記事
大川に潮も潮香も満ちて梅雨
パソコンも籠りも慣れて梅雨に入る
緑青の息吹き返す梅雨入かな
神奈川県     芳賀順一
入梅や欠席多き農学部
豆腐屋の合わぬ勘定梅雨入かな
入梅や謎の解けない文庫本
カミュがいてカフカが笑う梅雨入かな
がりがりとフランスパン割り梅雨に入る
三重県     北村英子
傷心に他言するなと梅雨の入り
自粛日の朝から晩も梅雨に入る
入梅や自己満足にミシンの音
あの男白々しくも梅雨に入る
疫病の広がりてなほ梅雨の入
奈良県     堀ノ内和夫
訃報聞く入梅の空は垂れこめて
コロナ禍に入梅ならずも家に居り
東京都     安藤ゆき子
入梅や茶杓の銘は青海波
入梅や今日も朝靄青磁色
フェルメールの真珠煌めき入梅す
岡山県     名木田純子
カーテンの白のまぶしき梅雨入かな
入梅や金平糖のつややかに
入梅や雫のやうなピアス揺れ
愛知県     木下澄枝
入梅や波が押しくる舟着場
本棚の読みたき一書梅雨に入る
入梅や軒に舟吊る輪中村
湖よりの風の湿りや梅雨に入る
黙読にまさる音読梅雨に入る
長野県     木原登
梅雨きざす牧に親馬子馬かな
入梅や喜寿過ぎて又五十肩
田も畑も形ととのへ梅雨に入る
公園に青き獅子像梅雨に入る
落葉松林白樺林梅雨に入る
大阪府     木山満
入梅や花柄傘を廻し見る
入梅や嘘めく日差し海馬光
入梅や夕茜して多少の希望
入梅や心身濡れてやはり梅雨
入梅や雨の音さえ気鬱なり
神奈川県     矢神輝昭
入梅や泣く子に引かれつ出漁す
戦局は奄美群島入梅と
入梅や鈍色の海舟重し
入梅の授業参観窓の外
木曽川に魚のはねたり梅雨の入り
山口県     ひろ子
入梅やメモ書き増える走り書き
入梅や瀬音激しくなりにけり
入梅や庭の四葩の咲くを待つ
ウイルスは何処に隠れかたつむり
神奈川県     龍野ひろし
梅雨に入るゆつくり捲る美術本
園児らのどろんこ遊び梅雨に入る
傘躍る下校の子らや梅雨に入る
入梅の電車の鈍き動かな
ブラジル     林とみ代
入梅や子の弁当に気を使ひ
髪型をさっぱりとして梅雨に入る
心までうっとうしきや梅雨に入る
生ぬるき風そよぎたる梅雨に入る
コロナ菌付かぬ工夫や梅雨に入る
宮城県     林田正光
入梅や太宰全集備え置く
入梅や遠富士霞む日々続く
入梅や湖畔の宿はすでに雨
兵庫県     髙見 正樹
刈揃う公園の芝梅雨に入る
京都府     中村万年青
日本一早い梅雨入の奄美かな
照り映えゆる青葉若葉も梅雨に入る
降り続く銀のしずくも梅雨の花
神奈川県     髙梨裕
入梅や一際白き水の花
入梅や草木濡れて深緑
入梅や十字の花の揃いたる
入梅の匂いや野の湿り
入梅の鬱なる空や水たまり
東京都     豊島 仁
梅雨めきて灯早き丸の内
梅雨に入る傘あり降らずなきて降り
梅雨に入る文一行の筆もなし
入梅の噂している蛙かな
入梅の庭ですねてる如雨露かな
富山県     姫野篤弘
病室の会話は小声梅雨湿り
遠富士や蓼科高原梅雨晴間
目も耳も借物ばかり五月闇
紙飛行機飛ばす少年梅雨の晴
爺一人梅雨の雨戸を少し開け
茨城県     守屋重伍
池魚どもは入梅の波紋何思う
廃村のあおき轍や梅雨に入る
懐古とは入梅の寒き稲子の湯
晩酌はピアソラタンゴ打つ入梅
過疎村の入梅振り子のごと静か
東京都     太田圭
更衣室梅雨めく空に肩落とす
空梅雨や手庇添えるカタツムリ
入梅や遊具のしずく払う袖
メダカ鉢最初の雨滴梅雨の庭
梅雨登園鞄三つに傘二つ
東京都     韓祐志
自粛明け出口は遥か梅雨入る
梅雨入る闘わずして頬濡らし
くらき朝まさか梅雨入り家人問う
梅雨入る水遣り習い鉢の土