俳句庵

8月『立秋』全応募作品

(敬称略)

神奈川県     髙梨裕
立秋や裏木戸開けて青嵐待つ
立秋や風と離るる鐘の音
立秋や細るに足りる古希の足
立秋や姿見映る母の部屋
立秋やふと面影の江戸小紋
東京都     豊島 仁
立秋は残暑見舞を吹き飛ばし
歯磨きの少し沁入る今朝の秋
立秋の風やさしくて高き空
子規うれし根岸の里に今朝の秋
京都府     中村万年青
立秋や温き風来る年毎に
秋立つもマスクの熱や顔に汗
草むらに虫の声して秋に入る
東京都     伊藤訓花
愛染の暖簾を洗ひ秋に入る
今朝の秋猫まんまると深眠り
一輌の世田谷線も秋立ちぬ
秋来れば旅はエデンへ頁繰る
五線譜に木漏れ日揺れる今日の秋
千葉県     伊藤順女
立秋や吾の前を行く長き影
立秋の入日見ている橋の上
立秋と思ひつ洗ふ今朝の顔
今朝の秋いつものやうにカフェオレを
千葉県     伊藤博康
背後から追ひ越すやうに秋立ちぬ
秋立つや歌はブルース酒ロック
立秋の風柔らかく頬撫でる
立秋や屋根の上には雲一片
挨拶が聞こへぬままに秋立ちぬ
神奈川県     井手浩堂
秋立つや小町通りに栗鼠の来て
通勤の渡しの水脈や今朝の秋
ビルの間に富士よく見えて今朝の秋
旅先の朝の歯みがき秋立てり
湖の面の雲の白さよ今朝の秋
徳島県     井内胡桃
今朝秋の一筋の風食卓に
立秋のミント色したスムージー
一輪の庭の花挿す今朝の秋
青石の白き紋様秋立り
立秋の田園わたる風の色
東京都     右田俊郎
立秋や間欠泉の噴き上ぐる
卵かけごはんの朝餉秋に入る
カラコロと下駄音響く今朝の秋
立秋や感染者数日々増加
秋立つや眼下に蒼き相模湾
広島県     永野昌人
今朝秋の手に取るやうに厳島
真つ白なシーツ干しあり今朝の秋
風のいろ雲のかたちも秋はじめ
立秋や畳むシーツを丁寧に
愛媛県     アリマノミコ
立秋や朝のテラスにダージリン
立秋や珈琲豆を粗挽きに
立秋や殯の丘に星月夜
立秋や丸くなりたる猫の背
神奈川県     志保川有
秋立つや凛たる江差の男唄―江差追分
丹田へ清しき冷気秋立てり
ほつとしてちょっぴり虚ろ秋の来ぬ
庭すみの胡瓜なり終へ秋の来ぬ
ペコちゃんはオーバーオール秋に入る
千葉県     風泉
立秋の縁に一式カメラ干す
「りっしゅう」と筆先清し友の文
TV消す窓へ遠音や今朝の秋
秋立つや蜘蛛の巣も又留守の風
東京都     岡本英太郎
しみわたり疲れた体に今朝の秋
しみじみと体にしみる今朝の秋
富山県     岡野 みつる
立秋や草の勢い弱まりて
立秋や一両電車軋み行く
とりあえずネクタイ変えて今朝の秋
愛媛県     加島一善
教会の鐘の音澄て秋立ちぬ
立秋の風が運び来カレーの香
立秋や褪せたハイネの詩集読む
今年また何事も無く秋立ちぬ
立秋の忘れられたる指輪かな
富山県     加能雅臣
踏切の赤目の美しき今朝の秋
秋立ちて陽射しの端をつかむ子ら
神奈川県     海野優
秋立つやもの問ひたげな夢の母
立秋や帰り人との長話
手鏡にふと立秋の顔直す
前触れもなくて秋立つ思ひかな
東京都     韓祐志
秋に入る町に聞かれぬ金属音
寝ぼけまま開く新聞今朝の秋
ふるさとへ支度整え秋に入る
秋来る妻に急かされバケーション
ペタペタと草履は鳴れど秋に入る
埼玉県     岸保宏
秩父路や立秋の池赤く染め
立秋やスマホの緑変えてみる
立秋や風誘われて窓開ける
兵庫県     岸野孝彦
立秋が電車を降りる無人駅
立秋や河童を探す上高地
立秋や終息祈る関帝廟
立秋や善根宿の赤いバス
立秋の雨音抱く孤愁かな
東京都     岩崎美範
老妻の安堵の笑みや今朝の秋
猫の眼に生気の戻る今朝の秋
焼海苔に目刺二匹の今朝の秋
立秋の雨空仰ぐ靴磨
コロナ禍の夜の街にも秋立ちぬ
東京都     岩川容子
検診の封筒届き秋に入る
ひと雨に風生まれたる今朝の秋
立秋と気づかぬ今日の日差しかな
流木の打ち上げられし今朝の秋
愛知県     岩田勇
飼猫の遠く見詰める今朝の秋
老斑の貌を見詰めて今朝の秋
神奈川県     亀山酔田
祖父の駒ピシと音する今日の秋
立秋や息跡残る禅道場
立秋や秘仏の指を反らす御簾
秋立つや緩く着込んでデートする
秋立つや初老三人酌むばかり
茨城県     菊池風峰
秋立つやかな連綿の迷い筆
立秋や湯気の惑いし露天風呂
秋立つや暦に赤き二重丸
立秋や加速制御のはやぶさ2
立秋や灯落とす縁に夜の風
埼玉県     いまいやすのり
立秋や一つ度の増す老眼鏡
図書館に集まる子らに秋立ちぬ
立秋や日暮れに混じる喇叭の音
立秋や夕べのチャイム早まりぬ
秋立ちぬ雲の形もそれなりに
岐阜県     ときめき人
珈琲の女神の香なり秋立ちぬ
東京都     よしだ悠
立秋の沖へ去りゆく夏の海
立秋の大東京にロープ張る
うかと踏む蝉のもぬけや今朝の秋
立秋や妻に持たされ万歩計
立秋や湖水に尖り八ヶ岳
神奈川県     みぃすてぃ
秋立つや詰めよの一手駒の音
秋立つや微睡む牛の放牧地
秋来ぬと三角に立つ猫の耳
秋来ぬとこころ変わりの波の音
秋立つや山の向こうの風さやか
千葉県     玉井令子
家族旅行二転三転秋来る
いつもとは違う立秋登校日
秋立ちぬ球児の立たぬ甲子園
立秋が終業式の今年かな
秋に入るパンデミックの六か月
ブラジル     玉田千代美
心外な事ばかり聞く今朝の秋
立秋や深き空あり鳥渡る
立秋や昨日に変はり空の色
立秋の寂しき日々や齢を取る
立秋やコロナウイリス街静か
新潟県     近藤博
立秋や庭木さわさわ風に揺れ
立秋やさざれ川奏づ水の音
空青く海また青く秋立てり
立秋や歳時記ひもとき句をひねる
立秋や豊旗雲のぽかり浮く
岐阜県     金子加行
立秋や書斎の住に戻りたき
立秋の風の野菜の並びたる
立秋のダイナミックの雲と見し
立秋や仕上に至るビル工事
立秋に足らぬ絵具を買ひ求む
神奈川県     原川篤子
犬二匹つれゆく海辺今朝の秋
秋に入る樹々に生まるる木の匂ひ
遠富士の絹雲動き秋たてり
子規庵を訪はむとぞ思(も)ふ秋立つ日
掛軸をわが書にかへて秋に入る
埼玉県     吉野 静
立秋の風をまとひし闊歩する
立秋や風の動きも変わりをり
食卓の色それらしく秋来る
脳トレのぬり絵する日々秋に入る
立秋に心も添ひし旅の宿
福岡県     戸澤孝一
立秋や山に一様霧かかる
立秋や松林にも風一つ
秋来る城内響く鳥の声
立秋や鱚はまだまだ近く居り
三重県     後藤允孝
流れゆく雲の軽さや今日の秋
新刊の匂いを開く今朝の秋
若者の街のファッション秋に入る
墨を磨る香りの中に秋立ちぬ
竹林の風笛となる秋来る
神奈川県     佐々木 僥祉
新しき戒名白き秋の立つ
逝く人は言葉をのこす秋の立つ
秋立つや手水に冷の差す錯覚
秋立つや月命日の青き花
大雪山の便りは早き秋の立つ
愛媛県     佐藤めぐみ
立秋や一駅先まで歩こうか
立秋の海辺のカフェでAランチ
ドリップの泡ふっくらと今朝の秋
立秋や家族写真は十一人
愛媛県     砂山恵子
ナプキンを立てたるグラス秋に入る
立秋や回転ドアの中に風
立秋の光を映すにはたづみ
音立てて広げるシーツ今朝の秋
木漏れ日にふと空仰ぐ今朝の秋
兵庫県     はなちる
立秋やマスクはずして深呼吸
砂浜の人肌恋し今日の秋
石畳下駄のひやりと今朝の秋
蝋燭の灯り惑わし秋立ちぬ
便箋の罫線薄く秋に入る
東京都     勢田清
立秋のレースカーテン風はらみ
立秋に届きし封書誰ならむ
立秋の木洩れ日動く庭静か
立秋や心の空虚ふと感じ
寂しさの兆し立秋日の光
東京都     笹木弘
立秋や柔らかくパン出来上がる
立秋の光を抜ける飛行船
立秋の浜に竜骨さらしをり
立秋や鏡に挑む己が猫
茶の色にネクタイ変へる秋立つ日
東京都     三隅昌人
いずこへと心いざなふ立秋の雲
立秋に吹く風やさし白髪かな
立秋の風よそよそしくてすれ違う
碧空に立秋の心音動きけり
立秋や木漏れ日の彩顔にふり
神奈川県     三好康子
今朝の秋茶碗触れ合ふ音澄みて
秋立つやさつさつ弾む竹箒
秋立つや欅大樹の影太る
秋立つや靴新しき試歩の夫
秋立つやことさら清(すが)し朝茶の香
神奈川県     知草
立秋の太陽を抱く枕かな
立秋や秒針走る腕時計
靴紐を結び直して今朝の秋
立秋のポストに風の届きけり
立秋の海が見たくて観覧車
東京都     山本貴士
立秋や髭剃りあとを子の撫でる
子に教ふ秋立つ知らせ寛永寺
秋立ちて銀座で靴を買いにけり
秋に入る濃く紅引きし朝支度
秋立つやおにぎり三つ朝ごはん
山口県     山縣敏夫
犬の死に涙を誘う今朝の秋
初孫の泣き声に秋立ちにけり
愛犬の死から一年今朝の秋
今朝の秋始発電車が滑り出す
初孫の写メの背後に秋立ちぬ
島根県     寺津豪佐
立秋の風の吹き込む写経かな
逆上がりやうやう出来て秋に入る
秋立つや今日は本当は祭りの日
神奈川県     守安雄介
立秋や孫の砂城の崩れ去る
朝刊に立秋は八コロナ百
立秋や今日も読書で時稼ぐ
命とは言えぬウィルス秋立ちぬ
先見えぬコロナ汚染や秋立ちぬ
埼玉県     守田修治
米研ぐや水のすがしき今朝の秋
秋立つや良寛句碑の鬼ごっこ
團十郎襲名まだか今朝の秋
秋立つや一駅歩く朝のパン
名刹の鐘の音澄みし今朝の秋
埼玉県     小玉拙郎
豆腐屋の水ぬるきまま秋に入る
立秋や立ち食いそばをタヌキにし
旅立てぬ日々の連なり秋立つ日
立秋の「禾」に難あり書道展
茨城県     小松崎孝志
立秋や同窓会の知らせ来い
秋立つや雲の形の気配あり
秋立ちて球児の髪の伸びにけり
秋立つや香るシナモンロールパン
立秋や峠越えする今日の宿
東京都     松本佳明
立秋や歌い手交代虫の声
立秋や日暮れと夕刊徒競走
立秋や伸びる影との背比べ
立秋や日暮れに羽織るカーディガン
立秋や白秋偲び歌を詠む
神奈川県     松野勉
「いってらっしゃい」とベランダの妻秋立てリ
北海道     風花美絵
立秋や花咲き急ぎ名残惜し
立秋や膳を賑わす野菜たち
立秋や硯箱あけ筆をとる
静岡県     城内幸江
焼菓子の匂ひに溢れ秋に入る
立秋の街マネキンは白くなり
立秋や雲はちぎれて風となる
立秋を舐める肩車の少女
愛知県     新美達夫
形から学ぶ芸事秋立ちぬ
少年の語尾明瞭に秋立てり
道掃いて門に塩盛る今朝の秋
山梨県     森下博史
立秋の朝かけ直すおでん鍋
立秋やくんさきいかとチュー二杯
大阪府     森 佳月
立秋やこころの鍵は開かぬまま
立秋の海遠くゆくさんふらわあ
濃き雲に浅き雲あり今朝の秋
立秋や頬杖なじむ古机
雀の声愛しく聞こえ秋立ちぬ
福岡県     深町明
今朝秋の磨きぬいたる単車かな
立秋や色の落ち着く求人誌
立秋の下に帰休と書く暦
立秋のオリフィスの砂一縷なり
立秋や列島になほ未踏の地
神奈川県     水野伸一
立秋の夜風二の腕冷やしけり
塩むすび厨に並ぶ今朝の秋
立秋や帰りの早いガキ大将
立秋やネクタイの色少し濃く
秋に入る弓角投げる竿しなり
東京都     水野邦彦
秋立つやそつと頬そふ風愛し
立秋やおでこつけ合ひ子と笑ふ
白粥に醤油一滴今朝の秋
秋たちぬリードオルガン踏みしかば
味噌汁の底に雲立つ今朝の秋
大阪府     杉本義雄
立秋や机上に歳時記出番よし
立秋や軽き遺骨の妻を抱く
立秋や妻を誘ひて遍路ゆく
秘境の湯流れる星に秋立ちぬ
立秋や消灯前に読む見舞い
ブラジル     西山ひろ子
思ひ出を運ぶ雲あり秋立ちぬ
聖堂の抜け去る風や今朝の秋
新涼や時の流れの止まりゆく
立秋や宇宙の病何時までも
家族みな体温違ふ今朝の秋
福岡県     西山勝男
せせらぎの音も清かに秋立ちぬ
立秋の鍬の捌きもたをやかに
酔い醒の水をごくりと今朝の秋
罹る代は猶こんとんと秋に入る
上げ潮に潮の目しるき今朝の秋
福岡県     すがりとおる
アオザイのスリット深し秋に入る
その下の水琴窟や秋立ちぬ
立秋の風や透けゆく山頭火
埼玉県     水夢
秋立ちぬ棚引く雲や筑波山
秋立つや早くも薪を積み上げて
秋立つや寺へとつづく男坂
追分や別去れの句碑秋立ちぬ
立秋の雲押し上げる電波塔
宮城県     zazi
立秋や風呂の汗引く速さかな
立秋や子のない寝屋の独り言
秋の入り音の気になる夕支度
朝夕に気を鋭くし秋来る
地虫鳴く声が聞こえて秋に入る
千葉県     いなだはまち
孫の背のするりと剥けて秋立ちぬ
ものいはぬ百葉箱や今日の秋
秋来るおらが俳句とファッション誌
立秋と聞くや御霊の身繕ひ
息災なうちの別居や今朝の秋
東京都     石井真由美
点高く青・青・青の今朝の秋
大阪府     石原由女
路地の奥曲がればそこに今朝の秋
ボールペンつついてみれば秋に入る
蹴上路の人のまばらに秋立ちぬ
今朝の秋下駄音止めて風を聴く
東京都     石川昇
秋立つや腕を広げて深呼吸
秋来る孫にそれぞれマイブーム
外されし五輪看板今朝の秋
埼玉県     石塚彩楓
秋に入る腰に湿布の母の愚痴
秋立つや音楽堂に雨の音
立秋や朝の珈琲少し濃く
立秋のおとがひ支ふ左の手
立秋の夕空宇宙ステーション
大阪府     太田紀子
立秋や竹林過る風の音
立秋や活字大きなシニア本
立秋や朝粥のよき塩加減
立秋や天まで届く杉木立
栃木県     鹿沼 湖
秋立つや筆のはらひのゆるやかに
大阪府     佳代
立秋と聞けどマスクの蒸れ止まず
立秋や田んぼもうすぐ黄金色
立秋や数独母と悩んだね
立秋や母がよろけて我も転け
静岡県     大澤定男
公式ファンクラブ発足今朝の秋
一人ずつ業を煮やさず今朝の秋
仏壇の奥へ供える今朝の秋
風見鶏何に驚く今朝の秋
兵庫帯のしどろもどろや今朝の秋
奈良県     平松 洋子
調子良く歩幅広めに秋に入る
立秋やせめて前髪整える
吊されし服は見るだけ秋に入る
埼玉県     哲庵
山の字に山際立てり今朝の秋
膝少し痛み出したり今朝の秋
立秋の窓に藍染め筑波山
秋立つや空一枚の蒼硝子
秋立つや老々介護と言う言葉
神奈川県     竹見 かぐや
庭師去り一樹の蔭に秋立ちぬ
立秋や猫足ソファーに身を沈め
今朝の秋南部なまりの行商人
前垂れを替へし地蔵の秋に入る
襟なしの鎖骨さびしき今朝の秋
東京都     中田ちこう
青い道風まつすぐに今朝の秋
徳島県     白井百合子
立秋や猫タワーから尻尾振る
立秋や小雨の好きな猫のちび
立秋や介護ベッドを注文す
立秋の地球儀の音軋みがち
立秋やお裾分けにと小茄子漬
神奈川県     猪狩 千次郎
しんしんと眠る関取秋に入る
せせらぎをじつとみつめて秋に入る
秋立つや鱗一片くちびるに
今朝秋や物干し竿の一雫
秋立つや雀の覗く縁の先
東京都     長岡馨子
ステイホームの坪庭に秋来る
茨城県     長洲研志
立秋や将来の夢建築家
ボサノバをリモートで吹き秋に入る
影法師背伸びする子ら秋に入る
王位戦四戦目から秋に入る
1年がはじまらぬまま秋に入る
千葉県     長谷川ぺぐ
ベランダの豆の楽しみ秋に入る
大阪府     津田明美
立秋や富士に揺るがぬ立ち姿
生駒嶺に秋立つ風のうすさかな
ひそやな魔女の吐息か秋立ちぬ
立秋や命の水の喉を過ぐ
透かし見る秋立つ水の光りかな
神奈川県     塚本治彦
立秋や洗ひ残しの外厨
立秋や猫の瞳のエメラルド
秋立つや鏡に皺の深き顔
秋立つや獲物変へたる釣りの宿
秋立つやいよいよ白きお白石
山梨県     天野昭正
立秋の都会の熱や靴の底
大仏や秋立つ頃の大日照り
秋立つも鰯になれぬ雲ばかり
秋立つや分譲の旗ひるがへる
大仏に立秋の山影伸びて来し
福岡県     多事
忘れそな冷蔵うなぎ立秋来
立秋や吊り革抜くる朝の風
濁りよりバス喰らひ出て秋の立つ
秋の入り妻と喰ひをる牛の舌
子規の句の彼岸得心秋立ちぬ
千葉県     渡邉竹庵
立秋や赤べこの首揺り止まぬ
陸奥へ白河越へや秋立つ日
東京都     胡翔
立秋や星占いの本を買い
立秋や無人販売今は無く
立秋を駆け抜けていく受験生
空見れば立秋色の雲に会ふ
秋に入る各駅停車の空席
大阪府     藤田康子
立秋や波音聞きに舞子浜
立秋や空を横切る飛行機雲
東京都     内藤羊皐
立秋のめめ絵馬鳴れる梅照院
幼子と影踏みあうて秋来る
秋立つや白刃宿す波頭
高千穂の空遥けきて秋に入る
立秋や処方されたる抗うつ剤
東京都     二川昌弘
立秋にパンパスグラス飾りおり
立秋に災厄去りて祝う酒
千葉県     入部和夫
畦道に足許濡らすけさの秋
戦後七十五年なり秋立つ日
立秋の子馬の駆ける牧場かな
道楽に現をぬかす秋に入る
犬と美人に出会ひけり今朝の秋
北海道     飯沼勇一
秋立つやリュック10ほど無人駅
秋立つや聞けば男と別れたと
選局を変へればショパン秋に入る
信濃川海へ注いで秋に入る
秋来たる嶺に渚に吾の胸に
埼玉県     飯塚璋
箒目を雀のつつく今朝の秋
立秋や伸び放題の髭を剃る
立秋や杉の皮剥ぐ鎌と篦
東京都     尾田 一郎
立秋や厠の外は虫の声
秋立ちて夜明けの目覚め母憶ふ
面取りてほっと一息秋立ちぬ
立秋や人肌恋し社会距離
秋立てば稽古は佳境蕎麦のあじ
千葉県     柊二
遮断機の竿さす海や今朝の秋
群馬県     武藤洋一
立秋や炊きたての飯かぐはしき
三重県     平谷富之
立秋といふ二文字に心地よく
東京都     平野 哲斎
およびなき思ひの果てて今朝の秋
山里の細道おぼろ秋来たる
銅像の貌影深め秋立ちぬ
秋立つやよべの灯火消えし刻
立秋やピッチカートの古時計
千葉県     峰崎成規
藍暖簾翳の濃きまま秋に入る
秋に入るジョギングぐつと前のめり
今朝の秋コーヒーの香は垂直に
電子音炊き上げ奏で今朝の秋
立秋や町家透き抜く細き風
神奈川県     芳賀 順一
立秋の暦の変わる八幡宮
秋立つや奥の歯妙に痛みだし
わだかまり捨つる夫婦や今朝の秋
東京都     豊宣光
立秋を月命日の墓前にて
立秋や余熱の残る夕の空
風の色白く変わりて秋立ちぬ
立秋の文字に暑さを忘れけり
感染者減ることなしに立つ秋ぞ
兵庫県     檀凛凪
窓開けて鼻の奥澄む今朝の秋
秋立つや大人は遠くに行けるもの
ネクタイの色を濃くして秋に入る
隣の子声変わりして今朝の秋
夕飯の塩気減らして秋立つや
三重県     北村英子
立秋の家事は続くよどこまでも
今朝の秋何も変はらぬやうな空
霊を見る芸人の目に今日の秋
珈琲とマフィンの香より秋立ちて
エクセルの数字の列と秋に入る
奈良県     堀ノ内和夫
立秋や野菜売場の賑はうて
立秋や浅間の麓訪ね見む
群馬県     堀越浩子
初秋や笹の葉揺れる風の音
秋初め散歩の耳によぎる風
ヴェルレーヌの詩集を読みぬ秋初め
朝日子に色なき風や今日も生き
小窓より一陣の風秋立ちぬ
東京都     安藤ゆき子
秋立つや金糸雀唄へ夜想曲
秋立てば昨日より濃くハイボール
秋立つや夕風追ひて海賊船
愛知県     木下澄枝
立秋や歩幅大きく踏み出せり
遠山の雲離れゆく今朝の秋
味噌汁の匂ひに目覚め今朝の秋
橋なかばにて立秋の風の音
口すすぐ水の切れ味秋に入る
長野県     木原登
燈台も鷗も白く秋に入る
存分に馬の嘶く今朝の秋
秋立つや「山のあなた」を口ずさむ
白樺に秋立つ風のありにけり
ちんぐるま露をしとどに秋に入る
大阪府     木山満
道の辺に脱け殻転(まろ)び秋は来ぬ
末枯れし四片(よひら)いとしや秋立ちぬ
秋立つや蜩はまだ健在なり
銀杏はまだ堅くして秋立ちぬ
弱々し風鈴の音や秋立ちぬ
神奈川県     矢神輝昭
立秋や無用の用と心せよ
秋立ちて寄合忙し祭事かな
顧みて立秋のこと疑いぬ
立秋や銘酒談義で梯子酒
立秋の節子の姿風立ちぬ
山口県     ひろ子
立秋やカジカは喉に笛を持つ
分譲地増えてはためく秋の風
神奈川県     龍野ひろし
秋立てり木屑の匂ふ木工所
たつぷりと紅茶にミルク秋立てり
秋立つや街にヒールの音高し
秋立つや頬に優しき今日の風
秋立てり枯山水の砂の渦
ブラジル     林とみ代
コロナ禍の終熄見えず秋立ちぬ
立秋の便りしたたむ一行詩
立秋の髪かきあぐる微風かな
秋立つや孫十五歳大人びて
立秋の里の風景懐かしき
宮城県     林田正光
珈琲か紅茶か迷う今朝の秋
立秋や推理小説読む時間
秋立つ日奥の細道尋ねけり
凛として生きねばならぬ秋立つ日
立秋の自身の影の長さかな
大阪府     鈴木三津
上り框踏みし足裏の秋はじめ
草原の濡れてきらめく今朝の秋
今朝の秋腓返りに覚まさるる
今朝秋の高原ホテルミルク濃し
今朝秋のはや炉を焚きぬ上高地
大阪府     鈴木千年
白妙の一椀の粥今朝の秋
真先に松韻に秋立ちにけり
今朝秋の一水に歩を遊ばせて
白描の達磨を拝む今朝の秋
立秋と聞けば水琴窟の音も
兵庫県     髙見 正樹
立秋や気持新たに朝歩き