俳句庵

6月『扇子・団扇』全応募作品

(敬称略)

神奈川県     佐々木 僥祉
常連の後に待つなり京扇子
兵庫県     山崎ぐずみ
とろとろと睡魔来たりて置く団扇
クーラーをつけて取り出す奈良団扇
扇子閉じ腕組み続く負け将棋
ぐうちょきぱして柄を握る団扇かな
裏表返してあおぐ団扇かな
東京都     水野 二三夫
省エネで株主様に白扇
叩くより団扇風効く紙相撲
大阪府     椋本望生
ティッシュ避けただの団扇の風もらふ
叱るには手ごろな扇子こつこつと
扇子とは次の一手を打つ玩具
立ちばなし団扇の音を立てながら
埼玉県     守田 修治
圓生と書かれし団扇蕎麦屋寄席
団扇出す十日も早いことしかな
団扇風ぼちぼち進む物忘れ
伝説の大渋団扇焼き鳥屋
団扇手に日本気取りの留学生
岡山県     土屋吐句郎
団扇乗せお盆の端に冷茶かな
扇屋は扇で人を招きけり
太閤は髷の後ろにさす扇
名人の話芸見とれる扇かな
貴婦人の男扇子や歌劇場
東京都     まどん
開演のベルを待ちたる扇子かな
団扇風印度更紗が運びをり
紫煙の輪みつむ男と団扇かな
東京都     安西 信之
食べ歩く地域起しの団扇かな
和歌山県     中浴 智美
団扇手に誘ひあわせて夕散歩
岡山県     岸野 洋介
開場を待つ人波や扇子風
ころを見て団扇かざして踊り出る
アルプスに団扇の揺れる同点打
渋団扇極太の風おこしけり
蒲焼の匂いばらまく渋団扇
岡山県     渡辺 牛二
牛小屋の壁に破れし大団扇
撫川の汗して作る団扇かな
東京都     笹木 弘
言動をぴしゃりと止めし扇子かな
美人画の団扇のありし京の宿
古民家の土間に煤けし渋団扇
絹扇の裏から漏れし不倫かな
美人画の団扇から風貰ひけり
大阪府     太田 紀子
本棚に差し込まれたる捨内輪
甲子園内輪の波の押し寄せる
小さき扇子ハンドバッグに眠りをり
愛媛県     アリマノミコ
縁日の風を集めし団扇かな
東京都     石見 光夫
団扇にて描く校名甲子園
東京都     岩川 容子
扇子打つ男のごとき講談師
泣きながら寝る子にそっと団扇風
担ぎ手の熱気を煽る大うちわ
うなぎ屋の煙しみこむ渋団扇
福島県     いらくさ
白団扇もて三吉を煽ぎたし
絵団扇に藍く咲く花狭庭にも
ピストルも握る指から団扇風
山菜の天麩羅を待つ古団扇
団扇しかない然も要らない山の家
埼玉県     哲庵
扇子閉じ起死回生の一手かな
国芳の武者絵の踊る団扇かな
京扇子棺の胸に挿しにけり
反戦の団扇を掲げ夜のデモ
ゆるやかに招待席の絹扇
滋賀県     村田 紀子
扇子手に背筋を伸ばしすまし顔
寿司桶に団扇を揺らす若き母
はじめての扇子開け閉め幼き手
団扇背に神輿を担ぐ若き父
おずおずと扇子を飾る部屋に座す
愛知県     川俣 周二
外廻り鞄の隅に扇子入れ
初めての母への土産京扇子
はかどらぬ遺品整理や古扇子
渋うちわ片手に扇ぎ酢飯切る
縁側に長居の客や団扇風
神奈川県     重兵衛
観戦のあとのへなへな団扇かな
ぼろぼろの父の愛せし扇子かな
おそろいの団扇を背ナに兄妹
扇子まで憎らしくなる負碁かな
笹舟を団扇であおぐ老母かな
愛知県     佐藤 三郎
クーラーで団扇の居場所遠くなり
盆踊り団扇片手に下駄の音や
小道具の扇子で話し持ち上げる
講談や扇子叩いて間を稼ぐ
北海道     飯沼 勇一
丸帯に白扇刺せば背筋立つ
団扇振り踊りの渦に分け入りぬ
森の香の幽かに客の扇子から
剥き出しの骨が誇りや古団扇
ローカル線土産の絵団扇パタパタと
ブラジル     林 とみ代
遠路来し客のもてなし先ず団扇
病む人にそつと団扇の風送り
母遺せし木のかぐはしき扇子かな
団扇振り野球応援ものものし
舞扇の手つき見事な踊かな
神奈川県     河野 肇
卓袱台に父の座ありし団扇かな
悠揚と団扇の風や癌の父
老人連盟大運動会団扇の風やフラダンス
子に与ふ家系図書くや渋団扇
死期見えて家系図を書く団扇かな
大阪府     蓼科川奈
扇子より届く沈香先斗町
眠る子へゆるり送りし団扇風
古扇はらりひらけば過去の舞
忘らるるぽつり座敷に京扇
月の夜にとどくうちわの風やさし
東京都     中田ちこう
白扇は黒田節舞ふ父の影
三重県     後藤 允孝
噺家のあやつる扇子芸の道
将棋棋士扇子を閉じてよむ先手
はるかなる風を呼びだし京扇子
さりげなく僧の背中へ団扇風
床の間の飾りとなりし奈良団扇
東京都     豊 宣光
眠る子に母の手動く団扇風
秘めごとを扇子で隠す二人かな
墜落す団扇を持たぬ大天狗
扇子閉ぢ名人次の一手打つ
空腹を誘ふ煙や渋団扇
栃木県     長浜 良
たじろぎて一時開く扇かな
少女子の京の土産や舞扇
招かれし様にも見えて団扇かな
岐阜県     ときめき人
ちぐはぐな父の介護や扇子接ぐ
神奈川県     矢神 輝昭
応援団扇子で煽る甲子園
横向いて扇子で扇ぐ照れ笑ひ
山の神夫の尻追ふ渋団扇
読経の眠気やうつろ団扇風
雨団扇擬音効果の舞台裏
香川県     ―
阿波踊り団扇が主役の男衆
艶めいて扇子の似合う女なり
バス停の扇子の隣で涼をとり
千葉県     山田 香津子
鮨飯に房州団扇母譲り
よさこいの青年のふる大団扇
与一うつ扇の的や五百重波
大阪府     永田
沈黙のなか扇ばかりが動きけり
神奈川県     成田あつこ
繰り言はもうお終ひと扇子とず
団扇もて母の繰り言聞いてをり
懐剣のごとくに扇子帯にさす
幕間の風に香のある扇子かな
絵扇や隣りの人の風に入る
東京都     田中 永
仲見世を行く角帯に団扇さし
神奈川県     龍野 ひろし
幕開きを待ちて扇子の忙しなく
扇子から白檀匂ふ幕合間
新潟県     佐藤 繁正
村中に同じ団扇のありしころ
嘘つきと軽く団扇が叩きけり
宮城県     遠藤 正寿
十畳に団扇の鯉が右左
釜守や破れ団扇の煤け具合
釜団扇絵柄の鯉の煤けかな
千葉県     隼人
開きたる夢二の扇子気障男
東京都     中島 寧寧
里帰り酢飯をあおぐ渋団扇
お囃子によちよち歩きも打つ団扇
色とりどり団扇に託す恋心
神奈川県     猪狩千次郎
白扇の隅の凛凛しき花押かな
亡き母の口紅かすか白扇
雛僧の虚を衝かれたる扇かな
往来を団扇で招く飲み屋かな
銘銘の団扇並べて客迎ふ
兵庫県     山地 美智子
ゆっくりと扇子動かす京美人
団扇風今日も予定のなき暮らし
パソコンに頼る主治医や団扇風
千葉県     横井 隆和
臥す母の床へ団扇のかぜ見舞う
焼き鳥屋手招き盛んな渋うちわ
得意気にシャリ打つ丁稚の渋うちわ
うとうとと添い寝の母の京団扇
煽ぐこと覚えし団扇小笹舟
神奈川県     長島 マミコ
開演の木が鳴る扇子閉じにけり
そよそよと足下扇ぐ団扇かな
東京都     蘭丸
吊橋に扇子をたたむ途中かな
扇子風時折力なる言葉
山口県     山縣 敏夫
扇子手に出社を急ぐ紳士郡
連れ合いと団扇を使う昼下がり
お祝いに扇子一本贈りけり
電車内扇子を使う人がいる
扇子手に論陣を張るパネリスト
東京都     三浦 靖男
幼き日団扇でかまきり怒らせた
角さんの扇子だみ声若かった
戸袋に父が使いし扇子あり
坊さんへ団扇で風を母が役
寿司飯を団扇で冷ます逢いたいな
神奈川県     佐々木 裕雄
団扇留む乙女の背中柔らかし
古里で団扇する風柔らかし
風呂上がり団扇する妻若々し
野球終へ団扇も声も静まれり
扇子舞ふ若さ溢れる応援団
東京都     石井 まゆみ
伊場仙の役者絵の風江戸団扇
伊場仙の歌舞伎が役者江戸団扇
薄眼して端居に団扇顔隠し
縁側のお座布にごろり古団扇
大阪府     津田 明美
佳き人に佳き風生まる白扇子
幾たびの想いたたみし古扇子
団扇して添い寝の母や昭和逝く
美しき性を背負へり白扇子
閉じてなほ妣を想へる扇子かな
岡山県     名木田 純子
労ひに団扇の風を送りけり
渋団扇勢の風を七輪に
山風を引き寄せてゐる団扇風
栃木県     すみ女
父の忌や昭和の臭ふ渋団扇
埼玉県     岸 保宏
病む床に孫の団扇がきつすぎる
舟を漕ぎ虫をも掃う団扇かな
若い女が払う団扇の後により
愛知県     新美 達夫
冷やかしが買ふ気になつて扇子閉づ
団扇風敵見落とす絶妙手
口重き男扇子のやりどころ
埼玉県     櫻井 玄次郎
やはらかに扇子開くや京女
東京都     右田 俊郎
歩を打ってしのぎ団扇をぱたぱたす
読み切って余裕の団扇浮かぶ笑み
天元において扇を開きけり
負けですと一礼をして扇閉ず
敗着はこの一手かと扇おく
東京都     石井 昌男
ビジュアルの素頓狂や丸団扇
微笑みや団扇が隠すほろ酔いを
神奈川県     井手浩堂
寝入るまで母のいつもの団扇風
白扇のこころ鎮むる風受くる
話し終へゆつくり開く扇子かな
それぞれの鞄に一つづつ扇子
故郷のへつつい泛ぶ渋団扇
愛知県     岩田 勇
名人の扇子に忍の揮毫かな
老紳士やおら車内で扇子出す
広告の団扇どさりとたまりけり
懐かしや峡の湯宿の渋団扇
白扇の天に逆立つ駿河湾
神奈川県     塚本 治彦
白扇に鉛筆書や一句得て
大所帯人数分の団扇かな
警官の腰にピストル手に団扇
団扇掛団扇一つもなかりけり
枕辺に薬と水と団扇かな
栃木県     空見屋
采配も説教もする渋団扇
兵庫県     岸野 孝彦
老いの道朧をあおぐ団扇かな
母の香や扇子開けば闇の奥
母からの風は優しき団扇かな
太鼓帯扇子は凛と古都の夜
奉納の舞は彩けき扇子かな
鳥取県     瀬尾柳匠
銀行に行きて帰りぬ団扇かな
夕闇へ扇子の風を送りけり
小刻みに使ふ扇子の音すなり
時蕎麦にたつぷり使ふ扇子かな
知己と会ひぱたと閉じたる扇かな
神奈川県     野口 香緒里
パタパタと扇子あおぎて涼送る
百貨店扇子並びて夏近し
寿司桶と団扇セットでご馳走様
夏が来る扇子しとやか凛として
神奈川県     大木 梨紗子
寝苦しさ団扇の風と母想う
埼玉県     飯塚 璋
兜太句を団扇にかいて街起こし
湯上りの団扇片手のもの思ひ
歌謡ショーサイン求めて白扇子
茶扇子を柩に納め母送る
金髪や団扇を腰に山車を曳く
東京都     岩崎 美範
憎からぬ仲をとりもつ団扇風
子に送る風やはらかに京団扇
和の風を運ぶ異国の団扇かな
へなへなと老老介護の団扇風
被災地に涼を届ける古団扇
神奈川県     佐藤 博一
留学の子に持たせやる扇かな
ここだけの話聞かさる扇かな
添ひ寝する母の団扇も眠りけり
遅れ来て忙しく遣ふ扇かな
何よりも優しき母の団扇風
愛知県     紫四季兵衛
団扇背に下駄の音(ね)踊るまとめ髪
パタパタと忙し扇子羽根のよう
君を待つ水団扇手に左見右見
扇子置き海苔をむすびに一休み
照れながら揃いの団扇背に揺らす
東京都     直木 葉子
白扇忙し劣勢の応援団
門毎の烏団扇とお狗さま
兵庫県     岸下 庄二
些事なれど団扇を使ひ大仰に
他愛無き話に団扇よく動き
突然の話に止まる団扇かな
けりを付けぱちんと閉づる扇子かな
絵団扇にくずし文字なる千代女の句
宮城県     福田 良光
川風のごとく柔らか団扇かな
絵団扇や自然にやさし目にやさし
白扇を狂言「語り」納めけり
満場の講演会や古扇子
仙台のすずめ踊りや舞ふ扇子
神奈川県     川島 欣也
京団扇しなり美し柳腰
蒲焼の香り炊き込む渋団扇
講談師扇子を腰へいざ出陣
料理屋の板場を睨む大団扇
風起こす団扇したたかたたかれり
神奈川県     泉水
形見にと受けた扇子は金言訓
渋団扇祖母の生活伝えけり
青畳素足を冷やす京団扇
絵扇の湖水を撫ぜた風来る
蒲焼屋団扇で煙外に出し
宮城県     林田 正光
扇子閉じ今日の講義はここまでと
帯解かれ差した扇子の落下音
手許からエコの風生む団扇かな
胸襟を開いて談議団扇かな
後れ毛も団扇の風に揺れてをり
宮城県     石川 初子
暗やみに開演を待つ扇子かな
東京都     内藤羊皐
舞人の扇の颯と翻る
妻使ふ扇子に奔る瓢鮎図
白扇の此岸の風を整へる
昼臥の児の息ほどの団扇風
嬰児の頬を撫たる白団扇
岐阜県     金子加行
防犯の注意の団扇母の歳
エコ記す団扇配りて迎へし社
舞習ふ妻の団扇の仕草かな
ふるさとの団扇の風の母の待つ
母持ちて優しき風の団扇かな
長野県     木原 登
扇子より団扇親しき信濃人
さりげなく置かれてありし団扇かな
余所人のあふぐ団扇の風もらふ
将棋に団扇囲碁に扇子は昔より
扇子パチリと次の一手をひねりだす
山形県     齋藤 博
貰いもの得したような団扇かな
絵扇我庭草を思い出す
秋深し我悲しみのうちに扇子置く
秋団扇遠くに祖母の姿みる
配られる狙いあらわな団扇の絵
千葉県     柊二
夢よせてうつつ風ふる団扇かな
京都府     北谷 匠
団扇に 韓国海苔の 蹴鞠かな
新潟県     近藤 博
団扇風かたへに妻ゐて扇ぎをり
空調を止むるも涼よし団扇かな
団扇持ち宿下駄からころ夜の湯町
筆立てに団扇一柄(ひとから)書斎かな
古扇子父の遺せし小引き出し
京都府     欲句歩
得は易く熟すは難し扇かな
神奈川県     守安 雄介
眼が醒めりゃ前座の扇子吾を指す
特攻の血糊の辞世沈め折り
ジカ熱の五輪の国の祭り扇子
静謐や紺の扇子のエンブレム
顔に来ぬ扇子の風に怒る児(やや)
京都府     中村 万年青
撒き散らすハートの団扇奈良の寺
御座船の扇流しや大堰川
扇面の襖の牡丹風に揺れ
涼しさや母の扇ぎし棕梠団扇
通勤のホームに開く扇見つ
神奈川県     髙梨 裕
風呂上がり団扇ひとつも夕の風
眠る子の風もやさしき団扇かな
父の背の団扇動きし縁の椅子
英霊の団扇も無きや硫黄島
白き手に団扇収まる柳腰