俳句庵

5月『風鈴』全応募作品

(敬称略)

宮城県      石川初子
風鈴や猫にまず触らせてから
新潟県      近藤博
風鈴の音色やさしく寝に就けり
ひそやかな風にもチリリン風鈴は
チリンチリン風鈴売りの懐かしく
風鈴や舌(ぜつ)のひらひら風に揺れ
風鈴の何と涼やかその音色
千葉県      柊二
風鈴や南東の風ゆるり鳴り
神奈川県      白銀
里帰り 天井釣り 風鈴よ
風鈴の 季節に1つ ざるそばを
白日夢 風鈴揺られ 夢ごこち
影日和 雲行き怪し 風鈴で
風鈴に 揺らり揺られて リラックス
兵庫県      紫 桔梗
古釘に風鈴吊るす母の家
風鈴の音色に偲ぶ父と母
風鈴を外し始める通夜支度
風鈴の鳴る路地裏に五十年
風鈴を振って音色を確かむる
千葉県      山田隆士
あばら屋にせめて風鈴ああ日本
風鈴や異国の民がお茶すする
風鈴や立ち呑み酒屋の乾き物
風鈴を指で弾いて寅さん忌
愛媛県      加島一善
強き風受けて仕舞す江戸風鈴
ぎざぎざに削り風鈴澄んだ音に
風鈴売声を上げずに売り歩く
風鈴やアルファ波呼びて居眠りす
浮遊せししのぶ風鈴オアシスに
神奈川県      髙橋榮一
風鈴に四方山話はづみけり
風鈴に打ち重なりし波の音
仕舞はざる風鈴四季の風に鳴る
風鈴の音色にうかぶ旅の景
風鈴を子守歌とし寝入りし児
埼玉県      琴吹痴庵
風鈴や昨日の風と今日の風
風鈴や意思ある如く歌ひをり
風鈴や我が人生はケセラセラ
風鈴の音の強弱は風の意思
風鈴の音を競ひ合ふ南部砥部
長野県      木原登
風鈴を鳴らし蔵町暮れにけり
風鈴に似合ふ風吹く信濃かな
嫁ぎたる吾子の風鈴鳴りにけり
南部風鈴津波惨禍をはるかにす
わが拙句書き風鈴の舌作る
神奈川県      佐藤博一
貝風鈴かぜ軽やかに鳴りにけり
風鈴屋色とりどりの風揃え
風鈴に風のリズムのありにけり
風鈴や風の楽譜をなぞりつつ
風鈴を磨いて風を新たにす
岐阜県      金子加行
風鈴の鉄玻璃磁器の合奏す
音あるは風鈴だけとなる独居
風鈴の疲れし音なり午前二時
仕舞ひたる風鈴ただの錆びし鉄
風鈴の鳴り止み闇の深きかな
山口県      ひろ子
風鈴や香聞く広間の青畳
風鈴の音色を待ちし夕餉かな
風鈴の音色十色や土産店
福岡県      ―
軒下の風鈴に風緑色
長野県      上原瑞希
風鈴や 魅惑の声は マーメイド
風鈴を 子守りに眠る 昼下がり
風鈴を 鳴らす今年で 6年目
手作りの 風鈴映す 親子愛
雨音を 消しし風鈴 海の色
宮城県      林田正光
風鈴や温度二度ほど下げにけり
風見鶏回り始めて風鈴鳴る
口喧嘩ひと息ついて風鈴鳴る
短冊の文字掠れをり吊忍
風鈴がふるさとの風呼んでいる
兵庫県      噂野アンドゥー
縁側に 風鈴吊るして 夏来たる
風鈴や すだれ越しに 鳴る音色
風が吹く 夏の涼しさ 鈴が鳴る
鈴鳴りて 夏の思い出 戻る風
鈴虫の 前にチロチロ 鳴く音色
東京都      荒井良明
風鈴や風の話を通訳す
風鈴や南部の風を呼びよせぬ
風鈴が張り切りだした雨が来る
江戸風鈴街を飛脚の風が吹く
風鈴や隻手の音をいだしけり
東京都      内藤羊皐
風鈴の鳴りて妣への風とせり
妻寝ねて風鈴の音の鳴りやまず
風鈴の夕山風を捕へけり
風鈴の鳴りて葬祭への夜径
風鈴や豚舎の臭ふ雨上り
神奈川県      ―
真夜中に 激しく響く 風鈴よ
風鈴や 暑さ和らぐ 音階だ
懐かしい かわいい風鈴 どこ行った
大阪府      竹村穏夫
風鈴を仕舞い忘れた娘が嫁ぐ
熊本県      貝田ひでを
風鈴屋泣かせの午後の瀬戸の凪
聞き分けてやつと風鈴一つ買ふ
鉄風鈴南部訛りの音色かな
埼玉県      飯塚璋
貝風鈴三角屋根の海の宿
愛知県      岩田遊泉(ゆうせん)
透き通る南部風鈴機嫌良し
風鈴を外すためらひありにけり     
風鈴を並べて音を競はせる
風鈴の舌のもつれを正しけり
風鈴と風と相性計りけり
千葉県      伊藤博康
町内に風鈴吊るす家のあり
段段に風鈴売りの近くなり
猫見上ぐ風鈴吊るす窓辺かな
風鈴の舌に南部の文字見ゆる
風鈴や音の世界に忍び込む
大阪府      金成愛
裏窓や風鈴は知る内緒事
雨には雨の靄には靄の風鈴よ
風鈴や手慰みなる絵はがきに
金座銀座銅座錫座や風鈴売
手をひいて風鈴売のうしろかな
神奈川県      守安雄介
風鈴のひらひら鳴りし二重窓
風鈴の冊の金魚や赤の斑
風鈴や十年振りの友と蕎麦
馴れ初めは風鈴売場もう会えぬ 
金魚玉模した風鈴澄み果つる
岩手県      鈍ぞ孤(どんぞこ)
風鈴や盛岡の音が蘇る
風鈴や弥次喜多が見る江戸文化
風鈴や祖母の訛りに孫笑い
風鈴や気をつけ姿勢蒸し暑し
風鈴やひとり吟行街の跡
東京都      武蔵野 次郎
そよ風に こっくりこっくり 子風鈴
柳ゆれ 風鈴喜々と 江戸の風
大阪府      藤田康子
風鈴の音の意外に遠くまで
風鈴の音に悩める家もあり
一年中風鈴かかる家のあり
静岡県      城内幸江
風鈴や去年の音の続きなり
風鈴や鳴らずも風にゆられをり
風鈴の鳴る方へゆく子供たち
風鈴や朱の細き線太き線
風鈴の数だけ部屋のありにけり
北海道      吉岡享徹
風鈴は転寝覚ます母の声
一服はもう出来ないんだ風鈴よ
釧路にて重ね衣と鈴の音と
千葉県      新津さとい
風鈴やもっと小さく風よ吹け
東京都      鷲巣利雄
風鈴の短冊に猫反応す
親子で作りし風鈴癒されし
風鈴や同じ音色の物はなし
ご近所で風鈴の音聞こえずよ
風鈴の鉄かガラスか買ひ迷ふ
京都府      欲句歩
風鈴の静まり誰や来た様
縁側に南部風鈴三回忌
神奈川県      伊藤 欣次
店仕舞い風鈴永き昼寝かな
風鈴をつるす人なく昭和過ぎ
簾かけ風鈴下げし戦後あり
劇中に風鈴泳ぐ空があり
誰を呼ぶ天の電話か風鈴よ
東京都      高橋昌稔
風鈴や その音秋の すずむしか
風鈴や 風受け流し サラサラと
チンチンと ふうりん動き 風気づく
東京都      岩崎美範
江戸風鈴粋で鯔背な音で鳴り
仕舞屋の軒の風鈴鳴りにけり
風鈴鳴る淋しき時は淋しげに
母の忌の南部風鈴凛と鳴り
達者かと妣手づくりの風鈴鳴る
島根県      GONZA
風鈴や鳴るも鳴らぬも無我の音
東京都      宮下洋
まどろみの 脳に風鈴 遠く聞く
風鈴の かそけく一つ 大方丈
風鈴は 明珍火箸 ちちんちん
風鈴に 新たな一句 吊るしけり
湯の宿の 風鈴揺るる 火照る身に
ブラジル     原はる江
世の騒動知るや風鈴しめやかに
ハンモック寝る児に風鈴子守歌
風鈴など聞く耳持たず若者等
風鈴や風流暮らし老いて今
風鈴にまじへ鳥鳴く娘の山家
愛知県      斉藤浩美
風鈴を聴きたくて縁側に立つ
天にいる人と話して軒風鈴
あけすけな硝子風鈴その音も
風鈴のひとつが鳴れば皆鳴りて
相談事風鈴だけが音を出す
滋賀県      了庵
風鈴にわが句を吊し風を待つ
風鈴の鳴って赤子のよく眠る
風鈴に風を連れ来し山雨かな
風鈴のりんりりりんと疎ましき
風鈴に急かされてゐる夕支度
神奈川県      河野肇
風鈴のまはすや能登の水車
廃屋に風鈴一つ鳴りにけり
人去りて風鈴の鳴る軒端かな
風鈴をふと見上げをり乱視の子
風鈴や馴染みし杖の淡き影
岐阜県      高岡すみ
引越した隣家の軒に風鈴ゆれ
人気なき路地の風鈴昼さがり
短冊の切れた風鈴チンと鳴り
愛媛県      渡邊國夫
陶ガラス鉄の風鈴無人駅
風鈴と喃語で話す嬰児かな
風鈴や風通しよき隠居部屋
留守居酒風鈴の音を肴とし
江戸風鈴間口二間の骨董屋
神奈川県      シュリ
風鈴を外し忘れた嵐の夜
風鈴と魚焼く香と子らの声
風鈴の音をかき消す汽笛かな
風鈴や湿布冷たし青い膝
風鈴と電車を待ってウトウトと
奈良県      平松洋子
玄関の扉開ければ鳴る風鈴
早速に風鈴吊るす風の道
風鈴を鳴らして帰る母との夜
神奈川県      パラレル
縁欠けた風鈴の音やビブラート
風鈴を吊るし一日始めをり
幾年も風鈴響く空き家かな
東京都      勝見佳織
青竹を 割って流れる 鈴の音
縁側で 風鈴つまみに 息を飲む
風鈴も 負けじと揺れる 水遊び
ブラジル     西山ひろ子
子や孫の祖国となりぬ江戸風鈴
一年中風鈴鳴らす子の祖国
一月に風鈴鳴らす国を愛で
風鈴の特選読めぬ風のあり
風鈴の音色の中に微睡みぬ
神奈川県      井手浩堂
吊るしゐて蛇笏を思ふ鉄風鈴
出し惜しみしてか風鈴たまに鳴る
貝風鈴海からの風よろこべり
妻の待つ軒端風鈴鳴りにけり
風鈴の鳴りゐて静か古都の路地
三重県      後藤允孝
風鈴や曖昧模糊とした記憶
風鈴に子犬の耳のよく動く
風鈴の音色の中のある風情
潮風に鳴る風鈴の出湯かな
夕凪に風鈴鳴るを忘れたり
神奈川県      出張員
風鈴の音に腹蹴る胎児かな
短冊に復興の文字や鉄風鈴
鬼平に声かけられて風鈴屋
赤ん坊の息で風鈴鳴るだろか
茄子紺の手甲をして風鈴屋
大阪府      津田明美
鎮魂に南部風鈴音立てり
風鈴やひねもす風は金剛山より
風鈴の音に解けゆく夕まぐれ
風鈴の途絶えて風の眠りかな
風鈴や音にも個性あるらしく
滋賀県      正庵
風鈴の鳴れど不在の駐在所
ほおづえをつけば風鈴鳴りにけり
風鈴は風の機嫌を知つてゐる
ギヤマンの風鈴吊るし峠茶屋
みづうみの夜風に風鈴鳴りにけり
ブラジル      林とみ代
風鈴の音に誘はれて夢の国
潮風と遊ぶ風鈴海の宿
風鈴の舌に書きたる一茶の句
南部鉄の風鈴騒ぐ窓辺かな
心地良き風鈴の音に里偲ぶ
愛媛県      砂山恵子
風鈴をセーラー服がひとつ買ふ
風鈴やみずから窓の風となり  
父の忌日風鈴静かに鳴りにけり
風鈴や六人部屋の外科病棟
風鈴や身の内の鬼追ひ出して
愛知県      近藤あゆ子
亡き姉と見上げた風鈴在りし日の
ベランダの風鈴鳴りて自己主張
風鈴の音色涼やか微風の音よ
風鈴や静けき夜に染み渡る
熱き夜風鈴の音涼やかに
静岡県      柳谷益弘
風鈴の役目を果たす風もなし
早鐘を叩くがごときの風鈴
風鈴の元で短冊持て余す
山口県      山縣敏夫
サイレンのあとに風鈴一つ鳴り
平成に江戸風鈴が鳴いている
宵闇に風鈴の音(ね)が冴え渡る
白壁を風鈴売りが通り抜け
風鈴の音に昭和の戸が開く
神奈川県      矢神輝昭
寡黙なる風鈴重し留守の家
風鈴の傍目八目詰将棋
風鈴や赤子の機嫌取りなしぬ
風鈴の音や香のあるごと漂いぬ
風鈴の音が染入りて水冴える 
岡山県      岸野洋介
風鈴に生家の話弾みけり
風鈴の音色涼しき山の駅
風鈴の音が涼呼ぶ旅の宿
妻の忌に合わせ風鈴吊るしけり
薬売りまず風鈴の音色ほめ
兵庫県      山地美智子
風鈴に吊りて芭蕉の句が揺れる
病床の母に風鈴見せて吊る
風鈴に程よき風のありにけり
風鈴鳴る昔誰かと来たカフェー
風鈴を吊ればすぐ鳴る風優し
東京都      坂田誠太郎
訪ねたる家の風鈴そよと鳴る
昼寝より覚めて風鈴聞きにけり
いっせいに風のふうりん北の駅
風鈴や母の実家は屋敷町
江戸風鈴浴衣の人に手渡さる
神奈川県      塚本治彦
風鈴の軒や干物のよく乾き
風鈴の小さき音を選びけり
風鈴や南部乙女の声のごと
六軒の長屋それぞれ軒風鈴
風鈴の吊り下げる間の鳴り止まず
大阪府      太田紀子
風鈴の奏でてゐたる子守唄
風鈴や帰還兵士の家の軒
風鈴や親子で向かふ将棋盤
長崎県      内野 悠
恋人のくれし風鈴下宿部屋
逝きし子のつくりし響き貝風鈴
あたらしき風の響きや古風鈴
風鈴の音に徘徊の母とまる
風鈴が風鈴の風さましけり
埼玉県      さわぐ博志
暑い夜潮騒恋しや貝風鈴
江戸風鈴ほうずき赤し雷門
風鈴や大師に集まる涼の音
風鈴や四万六千浅草寺
江戸風鈴ほうずき囃す浅草寺
岐阜県      ときめき人
骨董の風鈴ゆらぐ昭和の音
神奈川県      高原正太郎
春一番 ふとおぼえたる 風鈴や
下宿先 電気が止まる 風鈴を買う
神奈川県      相模太郎
浜風の風鈴唄ふ「浜辺の歌」
回し吹くガラスの火玉江戸風鈴
風鈴や胸につかへしこと消ゆる
海風に狂ひ鳴りする貝風鈴
風鈴に突如急かさる詰碁かな
東京都      佐藤博重
空耳の鉄の風鈴たづねけり
貝風鈴むかしの歌を奏でけり
風鈴の遠ざかりゆくごろ寝かな
夕されば鉄の風鈴二階より
神奈川県      入江雅子
風に乗り南部の鈴と追分を
風が吹くもっと鳴け鳴け南部鈴
南部鈴音色うっとり濡れ縁で
ちりんの音時に嬉しく哀しくも
紙一重ちりんちりんと哀と喜か
ブラジル      広田ユキ
貝風鈴江戸風鈴と鳴り競う
ブラジルの風によく鳴り鉄風鈴
去年旅の潮騒聞こゆ貝風鈴
師の遺句を吊れば風鈴よく鳴りて
喪の家の風鈴舌を垂れしまま
東京都      鈴木良子
風鈴の舌回しているカレーの香
風鈴に合わせてうたふ子守歌
気分屋の風鈴が鳴る廚窓
パチイオ趣味の風鈴南部みやげ
風鈴もトランプ流に吹き鳴らす
東京都      三浦靖男
雨上がる風鈴の音心地よく
風鈴を外し転勤懐かしく
縁側の軒に風鈴山の宿
路地の奥風鈴花壇釣しのぶ
風鈴も縁側なく川開き
兵庫県      岸野孝彦
風鈴やそれぞれの風そして雨
風鈴や浅草に響く黄昏
風鈴や地球儀へ平和なる風
限界の村に風鈴響きけり
風鈴や音色透きたる幼き日
神奈川県      龍野ひろし
風鈴の鳴るや谷中の路地の奥
千葉県      みやこまる
風鈴にスカイツリーを映しけり
風鈴をひとつ残して空家かな
絵ガラスの風鈴えらぶ手の白し
縁側に身の丈のおと江戸風鈴
物干しにはためく襁褓(むつき)軒風鈴
三重県      遊眠
単身の地の風鈴は母の声
風鈴の音に急かされ王手飛車
祖父の忌や南部風鈴鳴り始む
滋賀県      村田紀子
留守宅に風鈴の音と黒猫と
風鈴と縁側にいた祖父のシャツ
風鈴で眠りについた子の笑顔
風鈴に誘われ急ぐ夕餉時
円卓に家族五人と風鈴と
三重県      治もがり笛
風鈴や風をタクトに舌奏で
風鈴や短冊ゆらし独奏会
東京都      松二郎
風の夜や我よ我よと鳴く鈴音
鈴の音やいつの間にやら夢ごこち
鳴れよ鳴れ舌に息舞う童かな
リンリンやうだる暑さにエコクーラー
チリチリン親不孝者郷に詫び
愛知県      新美達夫
団体の去つて風鈴ちりと鳴る
風鈴の急を告ぐるや雲走る
七堂を繋ぐ回廊軒風鈴
風鈴の風の気配を捉へけり
東京都      伊藤はな
風鈴や来るを待たるる返し文
風鈴の五線譜しるす風の歌
風鈴の音はかはらじ五十年
風鈴の揺れて猫の目揺らしをり
風鈴や風を生かして生かされて
神奈川県      川前明
かろやかと風鈴を思ふ老いかげん
風鈴に銀玉鉄砲の狙ひかな
埼玉県      よしこ
風鈴へ一句吊るして眺めけり
風鈴の音そらとひかりを駆けるかな
硝子吹く江戸風鈴の涼しさよ
路地裏の軒の風鈴なりやまず
風鈴は南部の風を揺らすかな
千葉県      横井隆和
ひと風に鳴り継ぐ鈴や長屋沿い
風鈴の音に微睡みの蒼だたみ
ふうりんふうりん風鈴売りの午後の路地
福岡県      西山勝男
婚の荷に貝風鈴を加えけり
南部なる鉄風鈴を土産とす
風鈴や露地ゆく人の足を止む
風鈴に受賞の一句吊しけり
風鈴の音に縄暖簾くぐりけり
神奈川県      原川泉水
風鈴に憩う老父の庭仕事
大の字の上に風鈴宵の風
風鈴の風が語るは故郷弁
風鈴が幼児寝息に子守唄
風鈴や渇潤すに玉露よし
神奈川県      成田あつ子
貝風鈴潮の香恋ひて鳴りやまず
風鈴に見送られたる夜戸出かな
海よりの蒼き風来る貝風鈴
風鈴や鄙には鄙の風の音
風鈴のチリリと嬰の目覚めよし
東京都      伊勢史朗
景色にはもう飽きたわね鉄風鈴
風鈴やだまされまいと必死の子
風鈴の音に問はれけりCoolJapan
風鈴の音に振り向きて着信音
風鈴に覗かれてをり猫の夢
東京都      蘭丸
風鈴や息潜めたる寺の膳
風鈴や小言の多き立ち話
埼玉県      哲庵
親子して絵付け体験江戸風鈴
母愛でし風鈴吊す七回忌
風鈴や四代続く子守唄
風鈴の紐に特選句を結ぶ
蕉翁の短冊結ぶ江戸風鈴
大阪府      椋本望生
風鈴を外しビオロン習ひをり
風鈴を取るや釘より錆の音
風鈴の釘に訊きたき父のこと
打ち明けてしまへば聞ゆ軒風鈴
ボサノバに絡んでゐたる江戸風鈴
東京都      中田ちこう
風鈴の音を封じ込め雨の音
足音もなし風鈴の現れる
神奈川県      重兵衛
ジェット機の過ぎて風鈴ありにけり
田をわたる風風鈴を鳴らし過ぐ
風鈴の音のみ聞こゆ夜道かな
山からの風風鈴を鳴らし過ぐ
風鈴の向うに聞こゆ妣の声
神奈川県      海野優
さまざまの色に風鈴鳴りにけり
風鈴のゆつくり動くやじろべゑ
風鈴やこうるさく聞く口叱言
風鈴の江戸と張り合ふ南部かな
栃木県      長浜 良
風鈴や南部の風の吹き初むる
風鈴を買うて鳴らして提げ帰る
風通る道へ風鈴提げなほす
東京都      住澤義英
触れてみて南部風鈴音色かな
寝返りし南部風鈴二度寝する
風鈴や風を呼び込め熱気湖
軒先で我を迎える風鈴と
そよ風や音符で書けぬ風鈴音
栃木県      足立純一
風鈴や 誘ひてカラス 帰り道
風鈴に 映り池かと ひれ靡く
埼玉県      小玉拙郎
風鈴の誰も知らないしまい場所
夕凪の終わるを告げて鳴る風鈴
風鈴に水をこぼして吊りしのぶ
千葉県      彩楓(さいふう)
天より吊るす千の風鈴朝日さす
風鈴鳴る人住まぬ家の何処からか
天心へ舞ひ上がる音風鈴市
売り出しの地下街千の江戸風鈴
採血の窓にキラキラ丸風鈴
東京都      岩川容子
寝苦しき夜の風鈴やさしかり
ありなしの風に風鈴もの足らず
辞す友に風鈴強く鳴りつづけ
江戸情緒残る下谷の風鈴屋
岐阜県      蛙田 環
肩車風鈴つるす孫の顔
涼を呼ぶ風鈴の舌文字と詩
風鈴のうるさき音ぞ浪人生
昼下がり風鈴もまた居眠りす
風まてど鳴らぬ風鈴己が手で
北海道      飯沼勇一
風鈴や星々連れて降りてくる
風鈴の百の音色の売り場かな
風鈴の短冊を猫狙ひけり
朝まだき風鈴すでに目覚めをり
風呂の窓開けて風鈴翳しけり
愛知県      川俣周二
父母と買ひし南部風鈴残りをり
風鈴のぴくと動かぬ夜のあり
風鈴を音色で選ぶ夜店かな
夜店に並ぶ風鈴の音色かな
風鈴や同窓会のはがき来る
千葉県      隼人
風鈴や星が窓より覗きたる
風鈴やすやすや寝ぬる妻の顔
ブラジル      玉田千代美
隣人に疎ましきかな風鈴の音
風鈴に夫の好む句吊るしけり
風鈴や二つの音色出しており
東京都      紫舌
カップ麺 時間どおりに 鳴る風鈴
風鈴に 休み休みを 忠告す
ちりちりん 風鈴金魚 啼き泳ぎ
東京都      小丸紫
風鈴を 吊ると故郷の 軒になり
風鈴に 悪魔とりつく ゲリラ雨
たくさんの 風鈴なかで 迷い選(え)る
東京都      風見紫
風鈴を 吊ると酒下げ 友が来る
風鈴の 声は小言が 独り言
売り声が 風鈴時雨 連れ歩く
愛知県      当卯
風鈴と風力3を分けあへる
福岡県      たこ
主なく 風鈴ひびく 奥座敷
風鈴を かければ ながし 彩られ
風止みて わらべと遊ぶ 鉄風鈴
風鈴も 騒ぐ駅舎や 盆休み
神奈川県      永井朝子
音無きを捉えて放つ貝風鈴
風鈴や遊び疲れていどころ寝
軒下の風鈴一つ誰を待つ
千葉県      山田香津子
風鈴の短冊に書く請う長寿
風鈴や眠れる赤子足動き
風鈴やおはじき夢中三姉妹
父愛でし南部風鈴なりにけり
滋賀県      一斤染乃
風鈴につられ鼻歌母の歌
東京都      まどん
寺町の風鈴角を曲がりけり
風鈴や道にはみ出す植木鉢
東京都      秋野礼衣
リンリンと鳴く正体は風鈴ね
風がふき紙と風鈴おどりだす
風鈴や毎年買われかざられる
風鈴とセミの声聞き夏思う
金魚かき風鈴見あぐりすかし見る
埼玉県      守田修治
風鈴や木々のしずくの昼下がり
風鈴のぶり返したる病かな
風鈴や林芙美子の海が見ゆ
風鈴の「リ」の音かろし先斗町
風鈴のちぢんだ妻の背丈かな
兵庫県      山崎衣玖
風鈴や生家の柱の香の甘し
風鈴を数へる夕の帰路の足
風鈴を道案内に曲がる角
二枚共替へたきは風鈴の舌
風鈴の音へ呼ばるる通学路
兵庫県      山崎ぐずみ
風鈴の短冊ゆれてをるを聴く 
風鈴の似合う暮しと家である
風鈴や振り子の時計休ませる
風鈴の短冊ゆれてをるを聴く 
福島県      いらくさ
朝顔と風鈴に咲く朝顔と
鉄製の鍋と風鈴買いし町
啄木風鈴押し入れに瞑するや
風鈴や妹泣いて赤子なり
筆跡の忙し青き風鈴よ
千葉県      悠理
風鈴を吊るアパートの窓の内
風鈴を残して実家閉じにけり
神奈川県      佐々木 僥祉
風鈴や歌なき短冊回りをり
京都府      北谷 匠
のり食べるたまご焼きより明石焼き
神奈川県      髙梨裕
隅田川江戸風鈴の夕べかな
風鈴の残りし縁に座る父
風鈴の音の呼び合ふ夕餉かな
ふるさとの風鈴山の風誘ふ
晩支度終えて鼻歌風鈴の音
京都府      中村 万年青
風鈴の音色いろに試しけり
風鈴や南風ともなひて訪ね来ぬ
あらいやだ風鈴買うの忘れては