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俳句庵2022年10月優秀賞発表

季題 

  • 身にしむや知らぬ国旗の貨物船 

    千葉県 伊藤 順女  様

  • 身にしみて読む追伸の便りかな

    ブラジル 林 とみ代  様

  • 身に入むや末期癌との告知受く

    兵庫県 高見 正樹  様

  • 特養へおくる刀自や身にしみる

    神奈川県 川島 欣也  様

  • 何処よりも深き天空身に入むや家郷

    安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

十月の季題は「身に入む」です。嵗時記には、「秋のもののあわれや秋冷が、しみじみと感じられること」とあります。秋の気象も含む言葉です。良く知られた、〈野ざらしを心に風のしむ身かな 芭蕉〉や、〈佇めば身にしむ水のひかりかな 万太郎〉などの句が、善くこの季語を表しています。
 優秀賞の伊藤順女さんの句。「知らぬ国旗の貨物船」に注目する作者の姿が出ています。世界の国々の、国旗を掲げる貨物船の碇泊する中、「知らぬ国旗」は一部の人々の注目を浴びます。然し一般の人は、国旗の識別に注目することは無いでしょう。そこにこの句の多様さが感じられます。更にこの句には、多様さの中に、物の哀れが感じられます。
 林とみ代さんの句。追伸は、後から加えて添えた手紙です。本文の形式に囚われない書き手の本心が感じられます。手紙の読み手もそれを承知で読んでいます。その様子が十七文字の中に、良く出ています。それも、「身に入みて読む」の故です。季語というものの意味の深さの感じられる句です。
高見正樹さんの句。一転、この句には「病」の深さ厳しさが出ています。しかも末期癌です。「告知」と言う言葉が、これ程読み手の心を打つことはありません。唯々治療の無事を祈るばかりです。
 川島欣也さんの句。この刀自には、「家事をつかさどる女性」、「主に年輩の女性を敬意を添えて呼ぶ語」などの解説があります。この句の場合は後者です。特養は、特別養護老人ホームの略。最近では特養に入居している人も多いでしょう。この句の思いは、対象の「刀自」にあります。かねて敬愛していた刀自が、特養に入居することになった思いです。「身にしみる」が善く効いています。
  今月の佳句。〈身に入むや遺族二人の枕経 近江菫花〉。〈身に入むや子規終焉の六畳間 たま走哉〉。〈年々に月日のはやさ身にしむや 鈴木三津〉。〈身に入むや表札の跡残し逝く 風泉〉。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。

今月の応募作品

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