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俳句庵2023年11月優秀賞発表

季題 

  • 移住地が第二の故郷冬の虫

    ブラジル 林 とみ代 様

  • 冬の虫この世今なほ去り難し

    東京都 右田 俊郎 様

  • 食卓にカフカ読む夜半冬の虫

    東京都 岩崎 美範 様

  • この先は黄泉(よもつ)平坂(ひらさか)冬の虫

    東京都 岩川 容子 様

  • 古里を思ふ山路や冬の虫

    安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

十一月の季題は「冬の虫」です。歳時記は次のように記しています。虫といえば秋であるが、秋の風情を奏でた後でも、草むらに細々と生き残って、哀れな声を聞かせることがある。それが「冬の虫」「残る虫」という美しい季語で、人間の小動物に対する愛憐(あいれん)を知らせてくれる。「虫老ゆ」は人の世に仮託し、「虫嗄(か)るる」はその声のみじめに嗄れたさまを、「虫絶ゆる」はもうすでに声もでない虫の最後に近い姿をいう。(残る虫、虫老ゆ、虫嗄るる、虫絶ゆるは傍題です。)

 優秀賞の林とみ代さんの句。始めに書いたように、「虫」だけでは秋の季語となります。「冬の虫」とあって、季語は冬の季題となります。「移住地」は、他の土地に、他の国に移り住むことです。この句、中七の「第二の故郷」が全てを語っています。そこには、冬の虫も、先住者として居るのでしょう。
 右田俊郎さんの句。「去り難し」とあるのは、冬の虫に託した作者の思いです。同時発表の、「冬の虫残り少なき余生かな」についても同じことが言えます。しかし俳句の表現としては善く出来ています。
 岩崎美範さんの句。今月の出句の中では、「カフカ読む夜半」は、他の皆さんの句とは趣(おもむき)を異にしています。「食卓」も善いです。「冬の虫」も居心地が宜しいでしょう。
 岩川容子さんの句。「黄泉平坂」が一句の中心です。これは現世と黄泉(よみ)の境にあるという坂で、古事記にも出ています。一句の発想が、「冬の虫」を大きく越えています。「この先は」が、手の届く所にあるような表現もみごとです。
  今月の佳句。〈千年の遺跡に目覚む冬の虫 津田明美〉。〈今生の歩み止めたる冬の虫 高梨裕〉。〈父母逝きて壊す生家や冬の虫 塚本治彦〉。〈公園の午後には吾と冬の虫 金子加行〉。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。

今月の応募作品

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