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俳句庵2023年5月優秀賞発表

季題 

  • 木苺や産着干しある過疎の村

    山形県 庄司芳彦 様

  • 木苺や文字の薄るる道標

    東京都 岩川容子 様

  • 木苺や潰えしままの杣の道

    大阪府 鈴木千年 様

  • 木苺や分校の子ら通ふ径

    神奈川県 塚本治彦 様

  • 故郷の味よみがへる木苺や

    安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 五月の季題は「木苺」です。歳時記(夏期)には、「バラ科キイチゴ属の落葉小低木の総称」とあります。四月頃花が咲き、夏に小さな球形の黄色い果実を結びます。従って、「木苺の花」は春季、「木苺」は夏季となります。皆さん方の句には、木苺の成る多様な背景と共に、木苺がありました。それらの背景も、木苺を生かしています。
 優秀賞の庄司芳彦さんの句。「過疎の村」が善く背景を為しています。人口の少ない地方の一村でしょう。しかし「産着干しある」が生きています。この中七で、木苺も存在を得ています。それぞれの「過疎の村」に、一筋の光が注している思いのする作品です。
 岩川容子さんの句。「道標」とあります。道案内の標示でしょう。地方に行くと善く見る景です。その道標の文字が時を経て薄れ、道標の脇の一本の木苺の色合いを深めています。地方で善く見る何でもない風景ですが、俳句のこころがあります。
 鈴木千年さんの句。「杣の道」とあります。木材を伐り出す樵夫の人たちの通る山間の径でしょう。「潰えしますの」で、その道の寂れ様が分かります。しかしその脇の木苺は、今も以前のように、小さい莟を色付かせているのです。景が浮かんできます。
 塚本治彦さんの句。「分校」とあります。本校とは一山隔てているのでしょう。その径を毎日通う子ら、多分中学生でしょうか。ただ山間の径であっても舗装されているのでしょう。色付いた木苺が、その子らを励ますかに熟れている風情が感じられます。
 今月の佳句。〈礼拝の道に木苺熟れてをり 高梨裕〉。〈閉山に廃れし村や木苺熟る 鈴木三津〉。〈木苺や風吹き抜くる廃線路 龍野ひろし〉。〈木苺をつまむ聖女のごとき指 岩崎美範〉。夫ぞれ趣のある句です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。

今月の応募作品

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