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俳句庵2023年6月優秀賞発表

季題 

  • 予後の身を励ましくるる立葵

    ブラジル 林とみ代 様

  • 父母の亡き生家に残る立葵

    兵庫県 岸下庄二 様

  • かはたれに足止めさする葵かな

    神奈川県 海野優 様

  • 立葵未来見据うる少女の眼

    東京都 岩崎美範 様

  • むらさきを呼ぶくれなゐの立葵

    安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 六月の季題は「葵」です。歳時記を開くと、「植物学上で、単に葵という名のものは無いが、江戸時代に中国から渡来し、当時薬草として栽培された冬葵を、古くは葵と呼んでいた。現在一般的に葵と呼んでいるのは立葵を指すことが多い。」とあります。(日本大歳時記)。皆さん方の作品には、多様な葵の世界があります。歳時記の例句も同じです。
 優秀賞の林とみ代さんの句。「予後の身」とあります。患っていたのでしょうか。中七の、葵を擬人化した「励ましくるる」が善く効いています。立葵への思いが、身内の人に呼びかけるような親愛な思いを感じさせます。本復を願うばかりです。
 岸下庄二さんの句。このような事例は多くあります。「父母の亡き生家」の重大さは、当事者に重く被さって来ます。しかしその、「生家に残る立葵」は、亡き父母と語るような信愛感を感じさせてくれます。この「立葵」は動かせません。
 海野優さんの句。「かはたれ」は「かはたれ時」。夕方の薄暗い時刻を言います。夕暮れの道端の一本の木に、ふと呼ばれるような思いをして立ち止まる作者。善く見ると、そこに立っているのは、一本の立葵でした。「かはたれに」の上五が効果的です。
 岩崎美範さんの句。立葵を見つめる少女の眸。その眸は立葵とともにしっかりと未来を見据えているのです。少なくとも作者にはそう思われるように澄んだ少女の眸でした。その立葵もまた、少女をしっかりと見守るように立っています。
 今月の佳句。〈幸せを幾つ咲かせて花葵 高梨裕〉。〈回覧板手に立話立葵 鈴木三津〉。〈立葵ただひたすらに登る蟻 佐藤慶子〉。〈初孫を抱いて葵の眩しき日 立川茜〉。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。

今月の応募作品

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