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俳句庵2025年8月優秀賞発表

季題 8月 「秋めく」

  • 秋めくや都会へ戻る支度する

    東京都 右田俊郎 様

  • 秋めきてあんパン深き臍晒す

    東京都 内藤羊皐 様

  • 秋めきて真中窪ます紺ネクタイ

    滋賀県 近江菫花 様

  • 人肌に触れし匂ひの秋めける

    東京都 町田勢 様

  • 秋めくや風のまつはるふくらはぎ

    宮崎 洋

宮崎 洋 先生 コメント

 季語「秋めく」の意は「秋らしくなること」ことだが、藤原敏行の歌「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる」のように、人のこころが感じる秋の気配のことである。具体的な事象を挙げる作例も見られるが、季語の本意は客観的、具体的な秋ではなく、主観的、感覚的な秋らしさにある。
 理屈で作らないことが大切。「秋めきて〇〇」という句で、〇〇が理屈になってしまうと読者は納得しても共感してくれません。これはどんな季語でも同じ一般論です。選をした句はどれも理屈だけでは良く解らない句です。そこに読者が想像力を働かす余地が生まれるのです。
 右田俊郎さんの句。親に会いに来たのだろうか。野には秋の気配が漂う。その故郷と別れて都会へ帰る支度をする。おそらく大きな仕事が待っているのだろう。「秋めくや」が暗示している。
 内藤羊皐さんの句。作者はあんぱんの窪んだ臍に注目した。晒されてくっきりと見える臍に秋の光を、秋の訪れを感じ取った。あんぱん自体は臍まで晒したくないだろうに。
 近江菫花さんの句。夏の間はノーネクタイが当たり前となった。クールビズが終わって、ネクタイを結ぶとき真中を窪ませた。ディンプルという。Vゾーンがおしゃれになる。そこに秋を感じた。
 町田勢さんの句。人とは誰の事だろう。夏は灼けた匂い、汗の匂いのする肌が本来の肌の匂いに戻ったのだろう。その肌の変化に作者は秋を感じた。感覚の優れた作品。
 今月の佳句。<秋めくや初めて町にサーカス来 坂口いちお>、<秋めくや渚に増えし虚貝 塚本治彦>、<兄はいま秋めく雲の上あたり 酒梨>、<秋めくや虚心坦懐てふ言葉 鈴木千年>。

第1回真砂女俳句大賞

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。

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