俳句庵 2022年7月 作品一覧
7月「夜の秋」 全応募作品
(敬称略)
- カーナビの柔らき声夜の秋
- 夜の秋気づかぬほどの通り雨
- 地図なぞりエア旅に行く夜の秋
- 夜の秋地下水脈の音静か
- 結界の生成りの幣や夜の秋
- 夜の秋 球児頬張る にぎりめし
- 大文字 願う炎に 夜の秋
- 鉛筆を削り揃へし夜の秋
- 詩にしたき言葉拾ひし夜の秋
- 秋の夜や駅往く人の減り早し
- 生き下手を重ぬるもよし夜の秋
- 独り居の老いの迅きや夜の秋
- 湖の乙女や背にす夜の秋
- アルバムの父母は笑えり夜の秋
- 職工の町に降り立つ夜の秋
- 遺されて遺して風の夜の秋
- 無人駅潮騒だけの夜の秋
- 生かされて一日を刻む夜の秋
- 何となく肌ひんやりと夜の秋
- 冷酒やちょっぴり冷たく夜の秋
- 湯上がれば肢体ひんやり夜の秋
- 何となく秋のやうなり夜の秋
- 薄めなるパジャマに着替ふ夜の秋
- 電話受く妻の横顔夜の秋
- 添削の亡き師の癖字夜の秋
- 会報の物故者見詰む夜の秋
- 救急音聴くや湯舟の夜の秋
- 一服の茶の湯しみじみ夜の秋
- 夜の秋鏡に老いし吾のゐて
- 夜の秋灯(あかり)早めに独り者
- 老いし身や殊更浸みる夜の秋
- 夜の秋一雨ごとに深くなり
- パソコンや好きなお方と三つ巴
- 嫌われても子育て参加夜の秋
- 灯を消して波の音聞く夜の秋
- こつと置く眼鏡にも影夜の秋
- 榧盤に碁石並ぶる夜の秋
- 吾子へ書く手紙いちまい夜の秋
- 手の甲の染みに眼を遣る夜の秋
- 夜の秋人差し指の黄ばみかな
- 夜の秋親の煙草を咎めけり
- まつさらな筈の歯黄ばむ夜の秋
- 陶製の猫を飛び越す夜の秋
- しみじみとヤニの指先夜の秋
- 母の声思い出せずに夜の秋
- 星や眺めて句作為す夜の秋
- 過ぎ行くサマーよ寂たる夜の秋
- サマータイムよ寂しきの夜の秋
- ゆっくりと読書や耽る夜の秋
- 夜の秋にて落ち着きの施設かな
- 音消ゆるランプの宿の夜の秋
- 夫婦して小唄をうなる夜の秋
- 地図帳にキーウを探す夜の秋
- 小気味よき猫の鼾や夜の秋
- 赴任地にひとりぼつちや夜の秋
- 手のひらの鉄棒の錆夜の秋
- 人肌のコーヒーの香や夜の秋
- 長風呂の夫の鼻歌夜の秋
- 夜は秋伊根の船屋の美しき
- 退職日雨また清し夜の秋
- 夜の秋異常気象の話しする
- バイブルは生きる指針や夜の秋
- 秒針のぴくりぴくりと夜の秋
- 夜の秋ふと口ついて出る里ことば
- 木の匂い残る鉛筆夜の秋
- 点滴のつづく一滴夜の秋
- スマートホン肌身離せぬ夜の秋
- 特養の妻の写真や夜の秋
- 八十のピアノレッスン夜の秋
- 踏切の音の響きや夜の秋
- 夜の秋柱時計が九時を打つ
- 晩酌の後のうたた寝夜の秋
- 夜の秋兜太俳句の自解読む
- 宿下駄を鳴らし散策夜の秋
- 読み止しの本が三冊夜の秋
- 途中下車又は読点夜の秋
- もう少し生きてみようか夜の秋
- 燈台の直下大浪夜の秋
- 大川の濁り澄みゆく夜の秋
- 夜の秋パン屋の齧る残りパン
- 秀吉の独り点前や夜の秋
- 星座ごと銀座に拾ふ夜の秋
- 夜の秋別れの歌にさしぐめり
- ねび人がまた人を恋ふ夜の秋
- 夜の秋手箱にしまふ星の砂
- 夜の秋月の明りと眠らうか
- コーラスの声響く街夜の秋
- 鉛筆とノート離せぬ夜の秋
- 一本が芽吹かぬままに夜の秋
- 針の穴するり通りて夜の秋
- 迷ひたる獣の界や夜の秋
- 空手部の木霊する押忍夜の秋
- 聞き流す妻の小言や夜の秋
- トランプの恋占ひや夜の秋
- 夜の秋や止まる音する路線バス
- 窓越しの街の灯りや夜の秋
- 夜の秋百名山を指で追ふ
- 夜の秋や星を見上ぐる丸太椅子
- 宴終え鳴き砂と往く夜の秋
- 灯火舐む海の火照りや夜の秋
- 夜の秋老犬熱き舌垂らす
- 星に未だ願いをかけて夜の秋
- 光散りドルフィン夜の秋に跳ぶ
- 母と居て川音を聞く夜の秋
- 濡れふきん取り替えている夜の秋
- ホルンの音飛火野に聴く夜の秋
- 夜の秋のダリの時計は裏返る
- 夜の秋のブリキ金魚の吐息かな
- 夜の秋のギリシャの神は恋多き
- 夜の秋のうからの集ふ撞球場
- 修正の多き伝票夜の秋
- 七十はまだこれからね夜の秋
- 同窓会の妻に照れてる夜の秋
- 古畳百枚拭いて夜の秋
- 浮御堂灯は湖へ夜の秋
- 終い風呂湯に長々と夜の秋
- 風入れて今日の疲れを夜の秋
- 笹擦れの幽けき夜の秋なりし
- 海に浮く能舞台に灯夜の秋
- 病棟の灯りも落ちて夜の秋
- 虫群舞街灯の輪に夜の秋
- 夜の秋復た読み返す千一夜
- 隣家より牌の音する夜の秋
- 夜の秋金平糖のやうな星
- 夜の秋白き錠剤手の窪へ
- 漁火や煌煌と照る夜の秋
- まだ解けぬクロスワードや夜の秋
- ガード下澄みし音聞く夜の秋
- 夜の秋そうねと妻は眼鏡取る
- 入院のひとりぼつちや夜の秋
- 変はりゆく世に追ひつけず夜の秋
- 夜の秋元気ですかと電話かな
- 移民てふ呼び名にもなれ夜の秋
- ハーブの香満ちて厨に夜の秋
- 慶びも不意に来るもの夜の秋
- 戦争の話はタブー夜の秋
- 夜の秋やそそけ立ちたる猫の背な
- 情報にフェイクもあり夜の秋
- 夜の秋や手酌の酒と茶漬け飯
- 夜の秋郵便受けに孫のふみ
- ベランダに妻と月見る夜の秋
- 残業の灯を消し出る夜の秋
- カクテルを妻にもつくり夜の秋
- 一雨でみんな活き活き夜の秋
- 灯を点し遺影妻見る夜の秋
- 湯上りのほてりを冷ます夜の秋
- 卒寿前夢見て起きる夜の秋
- 老鰥夫独りごと言う夜の秋
- 夜の秋折れた心も立ち直る
- 一人寝る涙あふれる夜の秋
- 一人寝る夜の秋にも風情あり
- 夜の秋地球の不思議よく感じ
- 強く生きひとりなく虫夜の秋
- 夜の秋小さな一つ雉の影
- 二日酔い台所の水夜の秋
- 人間が一番最後夜の秋
- グルノーブル教会広場夜の秋
- 夜の秋ゴッホの描く星月夜
- 夜の秋 訳なき涙 橋渡る
- 潮騒や 背戸の戸口の 夜の秋
- 夜の秋 ビルの谷間の 迷い猫
- ペディキュアの 赤色褪せて 夜の秋
- ペダル漕ぐ 髪に纏わる 夜の秋
- ひと口の白湯の旨さよ夜の秋
- 吾が我に存門続く夜の秋
- 黙の問ひ黙で応へる夜の秋
- テールランプ眼下に見つむ夜の秋
- 深酒とわかりつつ酌む夜の秋
- スクリーンの字幕呟く夜の秋
- 夜の秋母の背まるき裾直し
- 都心には都心の空気夜の秋
- 旅先の課題手つかず夜の秋
- 富士仰ぎ仰ぎて過ぐる夜の秋
- 夜の秋銀座通りの人疲れ
- 砂浜に胡弓の調べ夜の秋
- 夜の秋吾が身を責める小さき嘘
- 足元に擦り寄る猫や夜の秋
- 足の爪切る立て膝や夜の秋
- 老父母の小さき寝息や夜の秋
- グラフを話す塾帰り夜の秋
- 里の家はしづかに語り夜の秋
- 坂下へ街灯の列夜の秋
- 島影を離る船灯夜の秋
- 長電話母と娘の夜の秋
- 冷や汗に風のあたりし夜の秋
- 友帰り一人居となる夜の秋
- 夜の秋別れ話はまだ続く
- 夜の秋や三行日記書き終えて
- 裏庭に潜んでおりぬ夜の秋
- 夜の秋おなかを大きくして歩く
- 坂道の文学館や夜の秋
- ひとり聴く(ボレロ)流れるる夜の秋
- コンサート余韻に浸る夜の秋
- 水色の一筆箋や夜の秋
- 明日への祈りの言葉夜の秋
- 夜の秋魚の跳ねたる船着場
- 日本酒のするりと落ちる夜の秋
- コンビニと言いつ遠出す夜の秋
- 湯上がりや縁より仰ぐ夜の秋
- ジャズSPそろり針おく夜の秋
- 三味復習う妻の端唄や夜の秋
- 夜の秋や友とLINEに句を交はす
- 新聞を広げ爪切る夜の秋
- 日に異にと夕星濃かり夜の秋
- 年回忌終へてお茶汲む夜の秋
- 原稿を仕上げる書斎夜の秋
- つれづれにひもとく書物夜の秋
- うたた寝の母のつぶやき夜の秋
- 跳ね起きて夢かと安堵夜の秋
- 月光の道遥かなり夜の秋
- 開け放つ窓に風来る夜の秋
- 読書止めふと耳澄ます夜の秋
- 裸電球こうこうとして夜の秋
- いつもとは空気変わりて夜の秋
- バーボンの氷鳴らせり夜の秋
- 夜の秋草生す石の道しるべ
- 夜の秋乙女峠の空深し
- アメリカへ孫の旅立ち夜の秋
- 夜の秋旧き宿場の船溜まり
- 過ぎし日の肩組み唄う夜の秋
- はたはたとたたむ卓袱台夜の秋
- くうくうと猫の寝息や夜の秋
- のど通る酒なめらかに夜の秋
- 夜の秋今日からメニュー模様替え
- 思い出はまだ捨てられず夜の秋
- ショパン聴く耳新鮮に夜の秋
- 夜の秋遠くの明かり澄みにけり
- 夜の秋窓光るとこ少なし
- 母恋し故郷恋し夜の秋
- 子ぎつねも山を降り来る夜の秋
- 聞えくる夫の寝息や夜の秋
- 鬼籍てふ言葉の羅列夜の秋
- 夜の秋秒針刻む時の軸
- 夜の秋遺影はけふも微笑みて
- 根掛かりは星の重さや夜の秋
- 夜の秋いつしか初老てふよはひ
- 手土産を持たせ忘れて夜の秋
- 一晩の霊安室や夜の秋
- 独り居の作り笑いや夜の秋
- 遅着してペグ打つ音や夜の秋
- 荒畑に如露の刺さりて夜の秋
- 老鰥夫独りごと言う夜の秋
- 灯を点し遺影の妻見る夜の秋
- 湯上りのほてりを冷ます秋の夜
- 一雨でみんな生き生き夜の秋
- 卒寿前夢見て起きる夜の秋
- 黙考の一句に執す夜の秋
- 夜の秋やまとめて誌す農日記
- 枕頭に虚子の五句集夜の秋
- 一つ灯に妻との写経夜の秋
- 居酒屋で島唄聴くも夜の秋
- 縁側のうす茶一碗夜の秋
- 廃船の鉄鎖の匂ふ夜の秋
- 大らかに風うけとめて夜の秋
- 灯火の下筆先軽き夜の秋
- 少年の金のピアスや夜の秋
- 夜の秋この寂しさをまだ知らず
- 露天へと階段下がる夜の秋
- 夫が寝てからのチャンネル夜の秋
- 駅前にギターのディオや夜の秋
- 辻に出る八卦占ひ夜の秋
- カンツォーネ聴けば眠れる夜の秋
- 俳小屋に窓の明りや夜の秋
- 寝返りに軋めくベッド夜の秋
- 夜の秋バンクシーめく壁の染み
- 最終話含み残して夜の秋
- 夜の秋寝惚けた父の深呼吸
- 久々に残業なくて夜の秋
- 一杯が二杯となりて夜の秋
- 夜の秋魚の小骨取りにけり
- 夜の秋ジャズか演歌かクラシック
- 問題は己自身か夜の秋
- ポケットにメモ入れたまま夜の秋
- 窓開けて音の主みる夜の秋
- 皺ばむ手ぼんやりかすむ夜の秋
- 枕元眼鏡ゆるみて夜の秋
- 懐メロのテレビの声や夜の秋
- 遺句集に吾が名有りけり夜の秋
- 利き酒の胃の腑に沁みる夜の秋
- 宇宙線身ぬち貫く夜の秋
- 遺言を書くたび破る夜の秋
- カセットの演歌聴き入る夜の秋
- 椰子の実の流れ着く島夜の秋
- 何処より犬の遠吠え夜の秋
- ハレーが寝る子を起こす夜の秋
- 遅くまで子のグーチョキパーや夜の秋
- 風呂場より石鹸の香や夜の秋
- 一つずつ明かり消えゆく夜の秋
- 湯上がりの火照る身体や夜の秋
- 三毛猫の膝に乗り来て夜の秋
- 地球儀の回る音重し夜の秋
- ロックスターの自伝分厚き夜の秋
- 事ひとつ叶ひし安堵夜の秋
- 筮竹の音の澄みたる夜の秋
- 墨の香の残る俳画や夜の秋
- 響きよき明珍火箸夜の秋
- おのづからてにをは確と夜の秋
- 県民割で港のホテル夜の秋
- 水割りの琥珀を愛でて夜の秋
- 終ひ湯に鳴き初めし虫夜の秋
- 潮風に梳く洗ひ髪夜の秋
- 遠ちに鳴る風鈴ひとつ夜の秋
- 夜の秋の介護する人される人
- 夜の秋何用となく母を訪ふ
- 消灯の小児病棟夜の秋
- 家族三人それぞれの夜の秋
- 読み止しの推理小説夜の秋
- 明日の服まだ決められぬ夜の秋
- 昭和歌謡レコードに聴く夜の秋
- 断捨離のできぬ文あり夜の秋
- 夜の秋便数ふえし時刻表
- 夜の秋島の灯火の美しきこと
- 庭椅子に座して一合夜の秋
- ぬる燗のぴたりと嵌り夜の秋
- リビングにおもちゃ其処此処夜の秋
- 夜の秋珈琲好きの君といて
- 最終便発ちて駅頭夜の秋
- 橋向誰ぞ来るらむ夜の秋
- 閉めましょか女将の問へる夜の秋
- 讃美歌を歌いて通る夜の秋
- 旅を行く子等の動画や夜の秋
- 我を見つむ吾娘の自画像夜の秋
- 夜の秋季節の移ろい人もまた
- 笛ふいて薬缶浮かれる夜の秋
- 再会の場面だけ読む夜の秋
- 絵日記に綴るフィクション夜の秋
- キャラメルを溶かすミルクや夜の秋
- 夜の秋くり返し弾くアルペジオ
- 夜の秋きらきら星は途切れがち
- 二つ三つ毛穴の閉じる夜の秋
- 音もなく忍び込みたる夜の秋
- 絵日記の白紙増えたる夜の秋
- 少しだけ窓を閉めたる夜の秋
- 泣きやまぬ赤子をあやす夜の秋
- 寄席はねて腕に触るる夜の秋
- さまざまに寄せくる思ひ夜の秋
- 旅の宿はや欄干に夜の秋
- 佳き風の窓から窓へ夜の秋
- 居酒屋の暖簾下すや夜の秋
- 夜の秋宿題こなす孫と親
- ハイボール終活はじめ夜の秋
- 愛犬の足音過ぎる夜の秋
- 五・六分が出来た一日や夜の秋
- 誕生日数へまどろむ夜の秋
- 老ひ二人思い思いに夜の秋
- 若き等の弾む声する夜の秋
- ざまみろと歪んだ口の夜の秋
- 夜の秋港は生臭く眠る
- 好き好きに座して手酌も夜の秋
- 包帯を取り込む窓や夜の秋
- 添い寝して戦の話し夜の秋
- 茅葺きの土間はでこぼこ夜の秋
- 塗り替えも銀の火の見や夜の秋
- 夜の秋シェルターの子の薄笑い
- 庭先のテーブル洗う夜の秋
- 夜の秋わが身離さぬ電子辞書
- ウクライナの雲流れ来し夜の秋
- 夜の秋ソーラ電燈交換す
- 門灯の虫も鎮まる夜の秋
- 微温燗に炙る鯣や夜の秋
- 座布団は先手の猫に夜の秋
- 浪曲の湯屋を抜けたり夜の秋
- ゆつくりと外湯を巡る夜の秋
- 夜の秋小腹に入るるカップ麺
- 縞馬のような風紋夜の秋
- 幽かなるチャルメラの音夜の秋
- 突然の別れ話や夜の秋
- 夜の秋や業務日誌を書き終へて
- 煙突は湯屋の名残りや夜の秋
- 甘口の酒もまたよし夜の秋
- ちょっとした仕草が父似夜の秋
- 空言を妻に聞かれず夜の秋
- 夜の秋友の病状案じけり
- 自家製のケーキの試食夜の秋
- 旅の娘の録音聞きぬ夜の秋
- 変り行く雲の流れや夜の秋
- 夜の秋塩気控へし老の膳
- 老猫のかすかな鼾夜の秋
- 一病を慰め合えり夜の秋
- 子等去りて部屋の広さよ夜の秋
- 湯火照りに心地よき風夜の秋
- 居るはずのなき人の声夜の秋
- 自販機に吸いよせらるる夜の秋
- 夜の秋シャッター街を小走りに
- 二階までアールグレイの香夜の秋
- 便箋は昭和のデザイン夜の秋
- 夜の秋再々挑む日本書紀
- 少年の一軍入りや夜の秋
- 星読みの語るむかしや夜の秋
- 連星のお伽話や夜の秋
- 旅をする中也の詩集夜の秋
- 夜の秋グラスに注ぐ琥珀色
- 夜の秋カザルスの弾く鳥の歌
- 街騒のふと途切れたる夜の秋
- 笑む母の遺影目の合ふ夜の秋
- 老妻の膝に耳掻き夜の秋
- 白壁に役者の影や夜の秋
- 夜の秋母と二人の京の宿
- 歳時記に指栞して夜の秋
- 夜の秋寄港地の灯は連珠なり
- 書に倦みし庭に出るや夜の秋
- 友送り門に立ちたる夜の秋
- 指先にシャボンのかをり夜の秋
- 軒先に魚焼く香よ夜の秋
- 訳あって母と二人の夜の秋
- 釣り宿の干されある魚籠夜の秋
- 凭れ居る大黒柱夜の秋
- スマホ切り熱きコーヒー夜の秋
- 本棚を漁りて夜の秋深し
- ルーバーを半ば閉ぢたり夜の秋
- 封じ目に締めの印や夜の秋
- ぱらぱらと捲る新刊夜の秋
- 薄き茶をすする音だけ夜の秋
- 校正の赤鉛筆や夜の秋
- 夜の秋の丸めし反故の解けゆく
- 信濃路や牛の長鳴き夜の秋
- どこからか「星に願いを」夜の秋
- キネマの灯復活したり夜の秋
- 人には人猫には猫の夜の秋
- 空澄みて星へと誘う夜の秋
- 夜の秋やゆっくりと打つパスワード
- 夜の秋やタイムカードの打刻音
- 夜の秋や一合守るひとり酒
- わがうちの未生の一句夜の秋
- 夜の秋や舟の形の箸袋
- 夜の秋一日遅れの便り待つ
- 絣着て介護施設へ夜の秋
- 雨音にリズムのありし夜の秋
- 肉親の声が恋しき夜の秋
- 夜の秋闇の静寂も匂ふ雨
- 居酒屋にシャンソン流れ夜の秋
- 夜の秋モンマルトルのシャンソニエ
- シャンソンにため息漏らす夜の秋
- シャンソンの流れる店へ夜の秋
- こゑ持たぬ虫のはためき夜の秋
- 耳朶撫づる風ありしやも夜の秋
- 秋の夜や後は寝るだけ本選ぶ
- グラス出し夜更かし決める秋の夜や
- 湯に垂らす柑橘精油夜の秋
- 二枚落ちかなり苦戦す夜の秋
- 夜の秋のカラマーゾフの厚さかな
- 磨き上ぐるランタンのホヤ夜の秋
- 夜の秋無人駅舎のうすら闇
- 夜の秋宴会終わり立ち話
- ベランダの窓は網戸の夜の秋
- 二本目のたばこ火つける夜の秋
- 抽斗の掃除となりて夜の秋
- 冷蔵庫の通奏低音夜の秋
- 老画家の歪んだ自画像夜の秋
- 靴裏に疲れは溜まる夜の秋
- 夜の秋蕾は眠くなるばかり
- 雨戸の音ふとかるくなり夜は秋
- 愛猫が膝上に乗る夜は秋
- アルゼンチンタンゴを肴夜は秋
- 海苔巻の折しなやかに夜の秋
- 庭石に先客のゐて夜の秋
- 家計簿のまちがいさがす夜の秋
- 迎ふるはあの宇宙船夜の秋
- ひと雨の降り残してや夜の秋
- 野良着干す山の夕星夜の秋
- 雛の肌包む一枚夜の秋
- ひとつ灯に母とまどろむ夜の秋
- 手習いの子の笛の音や夜の秋